労働審判手続きと口外禁止条項について~裁判手続きにおける口外禁止条項の取り決めの可否や効果~

雇い止めを巡る労働審判の内容を口外しないよう長崎地裁の裁判官らでつくる労働審判委員会に命じられたことで、支援してくれた元同僚らに解決内容を伝えられず精神的苦痛を受けたとして、長崎県大村市の男性(59)が慰謝料など150万円の国家賠償を求めた訴訟の判決で、長崎地裁は1日、口外禁止条項を付けたのは違法と判断した。男性が明確に口外禁止を拒否していたのに命令したことで「過大な負担を強いた」と指摘した。

 
労働審判に限らず、労使紛争の解決の際に、いわゆる「口外禁止条項」を設けることが多い。
口外禁止条項にもいろいろあるが、要するに「和解の内容や調停で合意した内容を第三者に正当な理由なく漏らさない」ということである。
 
会社からすれば、労働者との紛争の内容や、その結論を秘密にできるため、その後の事業展開や風評被害を防止できるメリットがあるため、会社側からかかる条項を盛り込むことを求めてくることが多い。
他方で労働者からすると、労働審判などで解決したとはいえ、会社から不当な扱いを受けたことを一切、他人に話せないとなると精神的な負担が大きい。とりわけ、労働組合や支援者からの支援を受けて労働審判などを戦ったケースになると、解決したことやその内容を労働組合らに報告するためには口外禁止条項を盛り込む訳にはいかない。
 
そのため、労働者としては、解決の際にかかる口外禁止条項を盛り込むことを求められると(ケースにもよるが)、これを拒否したいとなることが多い。
 
 
そうした中、上記事件では、労働者が明確に口外禁止条項の設定を拒否したにもかかわらず、労働審判委員会の方でこれを内容とした審判を言い渡してしまったのである。労働審判委員会としては、紛争の抜本的解決のためと思ったものと思われるが、行き過ぎの感がある。そもそも口外禁止条項は、当事者間でこれを盛り込むことに応諾していれば構わないが、そうでないケースで裁判所が独断で設定すること自体に違和感がある。通常訴訟で和解が成立せずに判決になれば当然、口外禁止条項など判決に含まれないことを考えると、いくら労働審判とはいえ、口外禁止条項を設定したことに問題があるのである。
 
なお、労働審判は、➀当事者間での話し合いにて解決をする調停段階、②➀が無理な場合に労働審判委員会が結論を言い渡す審判段階とがあるが、本件では➀の段階で口外禁止条項の点で折り合いが付かず(労働者が拒否した)、②の段階で審判の言い渡しの結論に至っている事案であるところ、➀の経緯を踏まえるとやはり②の段階でも口外禁止条項の設定はすべきでなかったことは明らかである。
 
 
ところで、このように口外禁止条項の設定には非常に難しい問題があるため、冒頭で述べた口外禁止条項の具体的内容を調整することで解決をすることもある。
たとえば、口外禁止条項の内容として
 
➀本件調停の内容を、正当な理由なく第三者に口外しない。
→これが一番オーソドックスな口外禁止条項
 
②本件調停が調停にて解決したことを除き、その内容を正当な理由なく第三者に口外しない。
→事案が調停で解決したことは口外しても良いが、その内容(和解金の額など)については秘匿にするという条項
 
 
③本件調停の内容を、労働者の加入する労働組合や支援者の他に口外しない。
→労働組合や支援者への報告のための口外を容認する条項
 
④本件調停の内容を、労働者の加入する労働組合や支援者の他に口外しない。また、労働者は、これらの者が、さらに第三者に口外することをしないようこれらの者に求める。
→労働組合や支援者への報告を容認しつつ、労働組合や支援者がさらに別の第三者に口外しないように労働者に対する注意を促す条項
 
 
 
他にも具体的条項の設定の仕方で調整をすることはあります。会社としては、口外禁止条項をどの程度重視するのかを踏まえつつ、労使の紛争解決を意識する必要があります。また、当然のことですが、仮に口外禁止条項を設けなかったとしても労働者がネットなどで会社について誹謗中傷をするようであれば当然に違法となります。これは口外禁止条項とは別の名誉棄損等の問題となります。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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