パワハラにあたるか否かの判断基準や、裁判例について教えてください。

 

 1 パワハラとは

職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性(※)を背景に業務の適正な範囲を超えて精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。

※上司から部下に行われるものだけでなく、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して様々な優位性を背景に行われるものも含まれる。

→昨今(2005年ころから)は、職場の4大トラブルなどと言われることも(①違法残業や長時間労働、②解雇退職問題、③未払い賃金、労働条件の切り下げ、④パワハラ

 

 2 具体例

  ①相手を侮辱する言葉を発する

   「バカ野郎」「給料泥棒」「くそばばあ」

  ②相手を脅すような言葉を発する

   「ぶっ殺すぞ」「この野郎」

  ③相手が怖がるようなことをする

   机をたたいて大きな音を出す

  ④殴るなどの暴力

  ⑤私用をさせる

   プライベートな旅行のチケットを買いに行かせる

  ⑥無視する

  ⑦報復人事

   誰もいない支店への配属、追い出し部屋

 

 3 法的責任

  ①刑事責任

   ・暴行罪→暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処す   る

   ・傷害罪→人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する

・侮辱罪→事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。

   ・名誉毀損罪→公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

 

  ②民事責任

   ・加害者の責任→故意過失により他人の権利(生命、身体、名誉、プライバシー、人格権、財産権等)を侵害したことの損害賠償責任

   ・使用者の責任→使用者は、労働者に対する労働契約上の義務として、物的にも、精神的にも良好な状態で就業できるように職場環境を保持する義務を負う→パワハラの発生を予防し、是正する義務

 

 4 裁判例・訴訟例

(共同通信(2012/4/19))

トマト銀行(岡山市)の50代の元行員がパワーハラスメントにより退職を余儀なくされたとして、同行と上司に計約4,900万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、岡山地方裁判所は平成24年4月19日、精神的苦痛を認め慰謝料など110万円の支払いを命じた。

 

井上直樹裁判官は判決理由で、「上司の叱責は、脊髄の病気などの療養から復帰直後の原告にとって精神的に厳しく、パワハラに該当する」と認定した。しかし、退職との因果関係は認めず、働き続けていれば得られた利益の請求分は認めなかった。

 

判決によると、2007年3月ごろ、当時の上司が、ミスをした原告を「辞めてしまえ」などと強い言動で責めるなどした。原告は2009年に辞表を提出し退職した。

 

トマト銀行は「判決文を見ていないのでコメントできない」としているとのこと。

 

(静岡新聞News2015/4/25

 勤務先の社長に在日韓国人と公表され、本名を名乗るよう強要されて精神的苦痛を受けたとして、県中部の40代の男性が社長に慰謝料など330万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、静岡地裁は24日、男性の自己決定権とプライバシー権を違法に侵害したと認定し、社長側に55万円を支払うよう命じた。

 大久保正道裁判長は判決で、「多くの在日韓国人にとって、日常生活上、韓国名を使用するか日本名を使用するかは、個人のアイデンティティーに関わる事柄」と述べた。その上で、社長が男性に再三にわたって韓国名を名乗るよう働き掛け、従業員の前で在日韓国人であると公表したことは「著しく原告に不快感を与え、自己決定権およびプライバシー権を実質的に侵害する」と判断した。社長が訴訟の提起などを理由に男性を解雇したことなども踏まえ、慰謝料は50万円が相当とした。

 判決によると、男性は韓国籍だが、日本で生まれ育ち、2001年の入社後も日本名を使用していたが、社長は12年11月〜13年5月、「朝鮮名を名乗ったらどうだ」などと複数回にわたって発言した。

 判決について、男性は「喜びを感じ、満足している。今後も日本名を名乗っていきたいと思う」と話した。社長側の代理人は「極めて不当な判決で、控訴する予定」とコメントした。」

 

(毎日新聞 20150831日)

◇大阪地裁支部に在日韓国人の40代女性が3300万円求める

民族差別の文言を記した文書が職場で繰り返し配布され、精神的苦痛を受けたとして、在日韓国人の40代女性が31日、勤め先の住宅販売会社「フジ住宅」(大阪府岸和田市)と会長(69)に計3300万円の損害賠償を求める訴訟を大阪地裁岸和田支部に起こした。

訴状によると、女性は2002年からパート職員として同社に勤務。13年以降、「韓国の国民性は大嫌いです」「うそが蔓延(まんえん)している民族」などと従業員が記した業務日報を、会長が全従業員に配ったなどとしている。

女性は「韓国人などへの憎悪感情や差別意識を従業員に広める意図があるのは明らか。パワハラで人格権の侵害だ」と主張している。今年3月に大阪弁護士会に人権救済を申し立てたが、8月上旬に同社から退職勧奨されたという。

大阪市内で記者会見した女性は「自分を否定された気がして本当に残念」と訴えた。

同社は「訴状が届いておらずコメントできない」としている。

 

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