セクハラにあたるか否かや裁判例での判断を教えてください。
1 セクハラとは
職場における性的な言動により、労働者の就業環境を害すること
男女雇用機会均等法(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置)第十一条 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 判断基準・具体例等
人事院規則10―10(セクシュアル・ハラスメントの防止等)の運用について
別紙1
セクシュアル・ハラスメントをなくすために職員が認識すべき事項についての指針
第1 セクシュアル・ハラスメントをしないようにするために職員が認識すべき事項
1 意識の重要性
セクシュアル・ハラスメントをしないようにするためには、職員の一人一人が、次の事項の重要性について十分認識しなければならない。
一 お互いの人格を尊重しあうこと。
二 お互いが大切なパートナーであるという意識を持つこと。
三 相手を性的な関心の対象としてのみ見る意識をなくすこと。
四 女性を劣った性として見る意識をなくすこと。
2 基本的な心構え
職員は、セクシュアル・ハラスメントに関する次の事項について十分認識しなければならない。
一 性に関する言動に対する受け止め方には個人間や男女間で差があり、セクシュアル・ハラスメントに当たるか否かについては、相手の判断が重要であること。
具体的には、次の点について注意する必要がある。
(1) 親しさを表すつもりの言動であったとしても、本人の意図とは関係なく相手を不快にさせてしまう場合があること。
(2) 不快に感じるか否かには個人差があること。
(3) この程度のことは相手も許容するだろうという勝手な憶測をしないこと。
(4) 相手との良好な人間関係ができていると勝手な思い込みをしないこと。
二 相手が拒否し、又は嫌がっていることが分かった場合には、同じ言動を決して繰り返さないこと。
三 セクシュアル・ハラスメントであるか否かについて、相手からいつも意思表示があるとは限らないこと。
セクシュアル・ハラスメントを受けた者が、職場の人間関係等を考え、拒否することができないなど、相手からいつも明確な意思表示があるとは限らないことを十分認識する必要がある。
四 職場におけるセクシュアル・ハラスメントにだけ注意するのでは不十分であること。
例えば、職場の人間関係がそのまま持続する歓迎会の酒席のような場において、職員が他の職員にセクシュアル・ハラスメントを行うことは、職場の人間関係を損ない勤務環境を害するおそれがあることから、勤務時間外におけるセクシュアル・ハラスメントについても十分注意する必要がある。
五 職員間のセクシュアル・ハラスメントにだけ注意するのでは不十分であること。
行政サービスの相手方など職員がその職務に従事する際に接することとなる職員以外の者及び委託契約又は派遣契約により同じ職場で勤務する者との関係にも注意しなければならない。
3 セクシュアル・ハラスメントになり得る言動
セクシュアル・ハラスメントになり得る言動として、例えば、次のようなものがある。
一 職場内外で起きやすいもの
(1) 性的な内容の発言関係
ア 性的な関心、欲求に基づくもの
① スリーサイズを聞くなど身体的特徴を話題にすること。
② 聞くに耐えない卑猥な冗談を交わすこと。
③ 体調が悪そうな女性に「今日は生理日か」、「もう更年期か」などと言うこと。
④ 性的な経験や性生活について質問すること。
⑤ 性的な噂を立てたり、性的なからかいの対象とすること。
イ 性別により差別しようとする意識等に基づくもの
① 「男のくせに根性がない」、「女には仕事を任せられない」、「女性は職場の花でありさえすればいい」などと発言すること。
② 「男の子、女の子」、「僕、坊や、お嬢さん」、「おじさん、おばさん」などと人格を認めないような呼び方をすること。
(2) 性的な行動関係
ア 性的な関心、欲求に基づくもの
① ヌードポスター等を職場に貼ること。
② 雑誌等の卑猥な写真・記事等をわざと見せたり、読んだりすること。
③ 身体を執拗に眺め回すこと。
④ 食事やデートにしつこく誘うこと。
⑤ 性的な内容の電話をかけたり、性的な内容の手紙・Eメールを送ること。
⑥ 身体に不必要に接触すること。
⑦ 浴室や更衣室等をのぞき見すること。
イ 性別により差別しようとする意識等に基づくもの
女性であるというだけで職場でお茶くみ、掃除、私用等を強要すること。
二 主に職場外において起こるもの
ア 性的な関心、欲求に基づくもの
性的な関係を強要すること。
イ 性別により差別しようとする意識等に基づくもの
① カラオケでのデュエットを強要すること。
② 酒席で、上司の側に座席を指定したり、お酌やチークダンス等を強要すること。
4 懲戒処分
セクシュアル・ハラスメントの態様等によっては信用失墜行為、国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行などに該当して、懲戒処分に付されることがある。
第2 職場の構成員として良好な勤務環境を確保するために認識すべき事項
勤務環境はその構成員である職員の協力の下に形成される部分が大きいことから、セクシュアル・ハラスメントにより勤務環境が害されることを防ぐため、職員は、次の事項について、積極的に意を用いるように努めなければならない。
1 職場内のセクシュアル・ハラスメントについて問題提起する職員をいわゆるトラブルメーカーと見たり、セクシュアル・ハラスメントに関する問題を当事者間の個人的な問題として片づけないこと。
職場におけるミーティングを活用することなどにより解決することができる問題については、問題提起を契機として、良好な勤務環境の確保のために皆で取り組むことを日頃から心がけることが必要である。
2 職場からセクシュアル・ハラスメントに関する問題の加害者や被害者を出さないようにするために、周囲に対する気配りをし、必要な行動をとること。
具体的には、次の事項について十分留意して必要な行動をとる必要がある。
一 セクシュアル・ハラスメントが見受けられる場合は、職場の同僚として注意を促すこと。
セクシュアル・ハラスメントを契機として、勤務環境に重大な悪影響が生じたりしないうちに、機会をとらえて職場の同僚として注意を促すなどの対応をとることが必要である。
二 被害を受けていることを見聞きした場合には、声をかけて相談に乗ること。
被害者は「恥ずかしい」、「トラブルメーカーとのレッテルを貼られたくない」などとの考えから、他の人に対する相談をためらうことがある。被害を深刻にしないように、気が付いたことがあれば、声をかけて気軽に相談に乗ることも大切である。
3 職場においてセクシュアル・ハラスメントがある場合には、第三者として気持ちよく勤務できる環境づくりをする上で、上司等に相談するなどの方法をとることをためらわないこと。
第3 セクシュアル・ハラスメントに起因する問題が生じた場合において職員に望まれる事項
1 基本的な心構え
職員は、セクシュアル・ハラスメントを受けた場合にその被害を深刻にしないために、次の事項について認識しておくことが望まれる。
一 一人で我慢しているだけでは、問題は解決しないこと。
セクシュアル・ハラスメントを無視したり、受け流したりしているだけでは、必ずしも状況は改善されないということをまず認識することが大切である。
二 セクシュアル・ハラスメントに対する行動をためらわないこと。
「トラブルメーカーというレッテルを貼られたくない」、「恥ずかしい」などと考えがちだが、被害を深刻なものにしない、他に被害者をつくらない、さらにはセクシュアル・ハラスメントをなくすことは自分だけの問題ではなく良い勤務環境の形成に重要であるとの考えに立って、勇気を出して行動することが求められる。
2 セクシュアル・ハラスメントによる被害を受けたと思うときに望まれる対応
職員はセクシュアル・ハラスメントを受けた場合、次のような行動をとるよう努めることが望まれる。
一 嫌なことは相手に対して明確に意思表示をすること。
セクシュアル・ハラスメントに対しては毅然とした態度をとること、すなわち、はっきりと自分の意思を相手に伝えることが重要である。直接相手に言いにくい場合には、手紙等の手段をとるという方法もある。
二 信頼できる人に相談すること。
まず、職場の同僚や知人等身近な信頼できる人に相談することが大切である。各職場内において解決することが困難な場合には、内部又は外部の相談機関に相談する方法を考える。なお、相談するに当たっては、セクシュアル・ハラスメントが発生した日時、内容等について記録しておくことが望ましい。
3 法的責任
①刑事責任
・傷害罪
・強制わいせつ罪
・強姦罪
②民事責任
・慰謝料
4 裁判例
(「性的言動」でセクハラ処分は適法と最高裁 大阪の水族館「セクハラ発言」訴訟で逆転判決2015.2.26)
大阪市港区の第3セクターの水族館「海遊館」が、男性管理職2人に対し女性への「性的言動」を「セクハラ発言」と認定して出勤停止とした処分の適否が争われた訴訟の上告審判決が26日、最高裁第1小法廷=金築誠志(かねつき・せいし)裁判長=であった。同小法廷は、重すぎるとして処分を無効にした2審大阪高裁判決を破棄し、「処分は妥当だった」と海遊館側の逆転勝訴を言い渡した。
男女雇用機会均等法は職場での「性的言動」の防止を義務づけており、企業は同法や厚生労働省の指針に基づきセクハラの処分をしている。最高裁の判断は企業の対応に影響を与えそうだ。
1、2審判決によると、課長代理だった40代の男性2人は派遣社員の女性らに「俺の性欲は年々増すねん」「夜の仕事とかせえへんのか」などと性的な発言を繰り返したとして、平成24年2月、それぞれ出勤停止30日間と10日間の懲戒処分を受け、降格された。
男性側は、「出勤停止は懲戒解雇に次いで重い処分。事前の注意や警告をしないで処分したことは不当だ」として提訴した。
1審大阪地裁は、発言内容が就業規則で禁止されたセクハラにあたると認定し、「上司であるのに、弱い立場にある女性従業員らに強い不快感を与える発言を繰り返し、セクハラ行為をしたことは悪質だ」として処分が有効と判断。男性側の訴えを棄却した。
しかし2審は「セクハラ行為が軽微とはいえないが、事前の警告がない重い処分で酷だ」として、男性側の逆転勝訴としていた。
(マタハラ、女性が逆転勝訴=妊娠降格で慰謝料命令―差し戻し控訴審判決・広島高裁・時事通信 11月17日)
妊娠を理由に降格されたのは男女雇用機会均等法が禁じた「マタニティーハラスメント」に当たり違法として、広島市の病院に勤務していた理学療法士の女性が慰謝料を求めた訴訟の差し戻し控訴審判決が17日、広島高裁であった。
野々上友之裁判長は降格を違法と認め、請求を棄却した一審広島地裁判決を変更し約175万円の支払いを命じた。
降格が許される例外として最高裁が示した「明確な同意か業務上必要な特段の事情」の有無が争点だったが、同裁判長はいずれも認められないと判断。「病院は、使用者として女性労働者の母性を尊重し職業生活の充実の確保を果たすべき義務に違反した過失がある」と述べた。
女性は2004年に副主任となったが、第二子を妊娠した08年、負担の軽い業務への転換を希望したところ、副主任の役職を外された。
一、二審では原告側が敗訴したが、最高裁は昨年10月、「妊娠や出産を理由とした降格は、自由な意思に基づく明確な同意か業務上必要な特別な事情がなければ違法」との初判断を示し、女性は降格に同意しておらず特段の事情について審理が尽くされていないとして二審判決を破棄、審理を高裁に差し戻していた。
野々上裁判長は、女性の同意は自由意思に基づくものではないと指摘。「女性を再任用すると指揮命令が混乱する」という病院側の主張も、具体性に欠けるとして退けた。