イラストに対する著作権侵害の判断基準や事例について

【目次】

1 イラストには著作権が成立すること

2 イラストに対する著作権侵害が成立するか否かの判断基準

3 イラストの著作権を侵害した場合の法的責任について

4 イラスト利用の際の著作権成否の判断事例

 ⑴著作者の死後、長年経っているイラストの場合

 ⑵タレントの写っている写真をイラストにする場合

 ⑶他人のイラストをコラージュにした場合

 ⑷他人のイラストをアレンジした場合

 ⑸他人の撮影した写真を基にイラストを作成した場合

5 イラスト利用による著作権侵害の判断基準や事例についてのまとめ

 

 

【本文】

1 イラストには著作権が成立すること

 著作権は、著作物の著作者に認められる権利です。キャラクターデザインやロゴ、パンフレットやチラシなどに代表される各種イラストについてもこれが著作物に該当するとなればその著作者に著作権が認められます。

 そして、いったん生じた著作権は著作物の創作の時にその存続期間が始まり、著作者の死後70年を経過するまで存続します(著作権法51条)。

 そのため、イラストについてもこれが創作された後、著作者が死亡してから70年が経過するまでは著作権の保護の対象となります。なお、この70年の計算は、期間計算の簡略化のため著作者の死亡した翌年1月1日を起算点として計算をすることとなっています。

 さらに、著作権は一定の場合を除いて他人が自由に複製したりすることを禁止しているので、他人のイラストを用いる場合や模倣する場合には著作権侵害の成否に気を付ける必要があります。

 また、不意に、自分が作成したイラストが他人の著作物であるイラストに類似しているなどとして使用差し止めや損害賠償などの請求を受けることがあるのでイラストの作成時や利用の際には注意が必要です。

 

【イラストの著作権】

・どんなイラストでも著作権が生じる

・著作権の保護期間は著作者の死後70年間

・複製の場合だけでなく、模倣した場合にも著作権侵害になり得る

 

2 イラストに対する著作権侵害が成立するか否かの判断基準

 まず、他人のイラストを機械的に複製ないしコピーしたような場合には、まさに複製権の侵害と直ちに認められます(使用許諾がある場合やいわゆるフリー素材の場合を除く)。

 他方で、特定のイラストをモチーフにして別のイラストを作成したとか、もしくはまったくそうでなくたまたま特定のイラストと似たイラストが仕上がったような場合に、著作権侵害の成否が争われるケースがあります。

 これらのケースの場合には、元のイラストとの間で①依拠性がある、②類似性があると認められて初めて複製権侵害が肯定されます。

 この①依拠性があるというのは、元のイラストに依拠して作成されたイラストか否かという問題を意味します。自分の作成したイラストが他人のイラストや写真などを参考にして作成されているような場合にはこの依拠性が肯定されます。そしてこの依拠性の有無に関しては、元のイラストを元々知っていたかどうかなどが裁判で争われることがあります。

 次に②類似性があるといのは、元のイラストと類似していると認められるかという問題です。①の依拠性が肯定されたとしても、元のイラストを参考にしつつも、まったく別の新しいイラストが作成されたものと言える場合には、②の類似性が否定されるため、著作権侵害とはなりません。

 そして、この②類似性の有無に関しては、元のイラストと仕上がったイラストとが互いに類似しているかどうかが各イラストのモチーフやイメージ、色合いなどが全体的に問われ、本質的な特徴部分を中心として争われることがあります。

 

【イラスト利用による著作権侵害の判断】

・そのまま複製ないしコピー;複製権等の侵害

・依拠したイラストの作成;類似性が肯定されれば複製権等の侵害

 

3 イラストの著作権を侵害した場合の法的責任について

 以上のようにしてイラストの著作権の侵害が認められれば、著作者はイラストの模倣者に対して差止請求や損害賠償請求が可能です。

 

4 イラスト利用の際の著作権成否の判断事例

 ⑴著作者の死後、長年経っているイラストの場合

 著作者が死亡してすでに70年以上が経過しているようであれば、上記のように著作権の保護期間を過ぎていますので、そのイラストを用いることは著作権侵害になりません。

 

 ⑵タレントの写っている写真をイラストにする場合

 この場合には、まずタレントの写っている写真自体が写真の著作物として著作権の保護の対象となります。

 そのため、当該写真に依拠して、類似したイラストを作成することは写真の著作者に対する複製権、翻案権侵害が成立します。

 次に、タレントとの関係では、当該タレント自身の持つ肖像権ないしパブリシティ権侵害の成否が問題となります。

 すなわち、タレントの持つ人気や価値に乗じてタレントだと分かるイラストを作成すれば、タレント側からパブリシティ権侵害を根拠とした損害賠償などを求められることでしょう。

 

 ⑶他人のイラストをコラージュにした場合

 他人のイラストや写真、画像をコラージュにして自分なりに新たな作品を作ることがありますが、素材となるイラスト等の著作権を侵害しないかの注意が必要です。

 すなわち、コラージュとはいえ、元のイラスト、写真、画像が分かる状態であればそれはコラージュの名の下に他人の著作物について複製権、翻案権、同一性保持権を侵害してしまっているからです。

 したがって、他人のイラストなどを用いたコラージュ作品の作成には十分に注意が必要です。

 

 ⑷他人のイラストをアレンジした場合

 他人のイラストをアレンジして利用した場合には、やはり依拠性が肯定されます。そのため、類似性が否定されない限りは著作権者の複製権、翻案権、同一性保持権の侵害になります。

 したがって、この場合には著作権者の同意や許諾を得ているか、そもそも著作物の保護期間が経過しているようでない限り著作権侵害となります。

 

 ⑸他人の撮影した写真を基にイラストを作成した場合

 写真は、当該写真を撮影した人に対して写真の著作物たる著作権の保護が及びます。そのため、当該写真を模写すれば複製権侵害となり、模写とはならずともアレンジをした程度であれば翻案権侵害の問題となります。

 したがって、他人の写真を基にしてイラストを作成する場合には、このような意味での複製権侵害、翻案権侵害にならないよう注意が必要です。

 

5 イラスト利用による著作権侵害の判断基準や事例についてのまとめ

 以上のように、イラストについても著作権が成立することを前提に、具体的にどのような場合であればイラスト利用が可能なのか、もしくは模倣をしても構わないのかなどの判断が必要です。

 その際、たとえ自分は模倣したつもりがなくても、いつの間にか他人のイラストに近いイラストを作っていたらやはり著作権侵害が成立しかねません。

 また、他人が自分のイラストと類似のイラストを制作していると知った場合には、上記のような厳密な法律判断を経て初めて権利侵害性が肯定されるにとどまります。

 そのため、イラストに対する著作権侵害の線引きについては、イラストを用いたあらゆる職種の方に知っておいてもらいたいと思います。

 

 

 

執筆者;弁護士 呉裕麻(おー ゆうま)

 

1979年 東京都生まれ

2002年 早稲田大学法学部卒業

2006年 司法試験合格

2008年 岡山弁護士会に登録

2013年 岡山県倉敷市に岡山中庄架け橋法律事務所開所

2015年 弁護士法人に組織変更

2022年 弁護士法人岡山香川架け橋法律事務所に商号変更

2022年 香川県高松市に香川オフィスを開所

 

 

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