口コミが営業妨害等になる場合と取り得る手段について

 【目次】

1 ネットでの口コミの実情について

 ⑴インターネット上の各種媒体

 ⑵飲食店の場合

 ⑶Google(グーグル)の口コミの場合

 ⑷各種媒体によるお勧め機能や優先表示の機能について

 ⑸お客や個人の各種SNSについて

 ⑹これら口コミと店舗や企業の受け止めについて

2 ネットでの口コミの例とこれが及ぼす各種影響について

 ⑴ネットでの口コミが及ぼす影響について

 ⑵悪い口コミの例

3 口コミが営業妨害等となるかどうかの基準について

 ⑴口コミや誹謗中傷が違法となるための判断基準について

 ⑵①名誉権侵害による名誉棄損

 ⑶②名誉感情侵害による侮辱

 ⑷③信用棄損について

 ⑸④偽計業務妨害

 ⑹⑤威力業務妨害

 ⑺口コミが営業妨害等になるかどうかのまとめ

4 違法な口コミに対して取り得る手段について

 ⑴違法な口コミと法的手段

 ⑵①口コミに対する返信

 ⑶②任意での削除申請

 ⑷③仮処分による削除申請

 ⑸④発信者情報開示請求

 ⑹⑤損害賠償請求

 ⑺⑥刑事告訴

5 口コミが営業妨害等になる場合と取り得る手段のまとめ

 

【本文】

1 ネットでの口コミの実情について

 ⑴インターネット上の各種媒体

 インターネットが広く普及し、あらゆる業態であらゆる媒体を通じて自社の宣伝を行う時代になりました。当然、利用者、顧客も企業や店舗の運営する各種インターネット上の媒体を目にしますし、利用先店舗の選択の際に大いに参考にしています。

 

 ⑵飲食店の場合

 また、たとえば飲食店であれば、食べログ、ぐるなび、ホットペッパーグルメなどといった飲食店紹介専門サイトもネット検索上で非常に優位な立ち位置を占めています。これら専門サイトでは、飲食店を利用したお客からの口コミ投稿の機能があり、他のお客はこれら口コミを見て利用先を選ぶ際の参考にすることがあります。

 

 ⑶Google(グーグル)の口コミの場合

 他にも、Google(グーグル)の口コミであれば、飲食店に限らず病院やクリニック、美容院、各種企業も対象としてあらゆるユーザーが自由に口コミ投稿を行えるようになっています。

 

 ⑷各種媒体によるお勧め機能や優先表示の機能について

 これらのインターネット上のサービスでは、評価の高い店舗が優先的に表示されたり、お勧めされたりする機能もあるので、いったん悪い口コミに汚染されると、そもそもお客の検索結果に容易に表示すらされないことにも注意が必要です。

 

 ⑸お客や個人の各種SNSについて

 さらには、お客やユーザー自体が自分の開設しているTwitterやインスタグラムなどで自らが利用した店舗やサービスについて自由に情報発信が可能であり、やはり他のユーザーがこれらを見て店舗利用の際の参考にすることも多々あります。

 

 ⑹これら口コミと店舗や企業の受け止めについて

 このように、現代では各種媒体で各個人が本当に自由に店舗や企業などに対して口コミ評価が可能となっています。

 これら口コミは以下で説明するように、企業経営上非常に大きな影響を及ぼし、売り上げにも直結します。そのため、悪い口コミを書かれた企業からすれば、誹謗中傷を受けたものとして一種の営業妨害と受け止めることもあると思います。

 そこで、ある種、営業妨害とも受け止められかねないこれら悪い口コミの実情や対処法について、以下のとおり解説をしたいと思います。その上で企業としてどのような対応方法をとるべきかも併せてご案内、お勧めしたいと思います。

 

2 ネットでの口コミの例とこれが及ぼす各種影響について

 ⑴ネットでの口コミが及ぼす影響について

 このように、ネット上ではあらゆる媒体を通じて、個人が自由に意見や感想を書き込めるようになっているため、その中で自分の経営する店舗についての悪い口コミが広がると、経営上の大きなマイナスになることは明らかです。

 そこで、ネットにおける悪い口コミの例を挙げると以下のようになります。これらの悪い口コミを見た見込み客は、ひょっとするとその店舗の利用を止めることもあると思えば、放置できない非常に重要な問題だと言えます。

 また、悪い口コミばかり書かれている店舗や会社には、求人をしても良い人材が集まらなくなる可能性があります。飲食店を中心に、ただでさえ人手不足が言われる中で、悪い口コミを契機にさらに人手不足となれば、売り上げダウンどころか店舗経営自体を維持できない自体になりかねません。

 そのため、このような悪い口コミを書かれた場合には、このコラムを参考に、どのような方法で、どのような対応をとるべきかを学び、しっかりとアクションをとるようにしてください。

なお、実際の口コミでは、投稿内容が非常に短文のものから、長文に渡るものまで本当に様々です。そのため、以下で挙げているものはあくまで悪い口コミとしての典型例程度に思ってください。

 

 ⑵悪い口コミの例

(飲食店の場合)

「美味しくない」「接客態度が悪い」「料理が冷めていた」「提供が遅い」「呼んでも来なかった」「髪の毛が入っていた」「店員同士がおしゃべりしていた」「虫が入っていた」「頼んだ料理が来なかった」

 

(デンタルクリニックの場合)

「やぶ医者」「虫歯でないのに削られた」「痛いと言っているのに無理やり続けられた」「高い治療を押し付けられた」

 

(美容整形外科の場合)

「施術のリスクの説明がなかった」「受けた説明通りにならなかった」「追加料金を取られた」

 

(整骨院やマッサージ店の場合)

「お尻をやたら触られた」「施術後に体中が痛くなった」「へたくそで金と時間を無駄にした」

 

3 口コミが営業妨害等となるかどうかの基準について

 ⑴口コミや誹謗中傷が違法となるための判断基準について

 以上のようなネットでの口コミは、誹謗中傷と呼ばれることもあります。この点、誹謗中傷という言葉は非常に曖昧かつ範囲の広い言葉です。かつ、誹謗中傷という用語や概念自体は法律用語や概念そのものではありません。

 そのため、単に当該口コミが誹謗中傷に該当すれば直ちに違法となるものではないことに注意が必要です。

 そうすると、悪い口コミが結局、どのような場合に営業妨害等になるかは、個別の法律の規定にあてはめて検討をすることが必要になります。

 そして、悪い口コミについては、①名誉権侵害による名誉棄損、②名誉感情侵害による侮辱、③信用棄損、④偽計業務妨害、⑤威力業務妨害などに該当するかどうかを個別に判断をするのが一般的です。

 そこで、これらについて順に解説をし、店舗として取り得るお勧めの方法をご説明いたします。

 

 ⑵①名誉権侵害による名誉棄損

 名誉棄損は、一般的にも広く使われる言葉ですが、具体的にどのような場合にこれが成立するかは厳密な判断が必要です。

 この点、名誉棄損は、公然と法人や人の社会的評価を低下させる表現行為を意味します。民事責任の追及の場合には、事実の適示の場合に限らず意見論評の場合でも成立します。

 他方で、刑事責任の追及の場合には、事実を適示して社会的評価を低下させる場合に限られます。

 したがって、口コミによって法人や人の社会的評価が低下するような場合には名誉棄損を理由とした法的措置をとることが可能です。

 ただし、名誉棄損の場合には、当該表現が公益目的によるものであり、公共の利害に関する場合には、当該表現内容が真実であるかこれを真実だと信じるにつき相当な理由がある限り、違法性が阻却される(名誉棄損が成立しない)ので注意が必要です。

 

 以上を前提に、具体的に名誉棄損が成立する場合としては、以下のような例が挙げられます。これらの場合には、事実に反する口コミである上にこれら虚偽の口コミの結果、当該店舗やスタッフの社会的評価が低下することは明らかです。

 そこで、このような事実がなかったことをきちんと証拠化し、その後の取り得る手段に備えることをお勧めします。

(実際にはそのようなことはなかったのに)「髪の毛が入っていた」「頼んだ料理が来なかった」「虫歯でないのに削られた」「お尻をやたら触られた」などと書かれている場合

 

 ⑶②名誉感情侵害による侮辱

 侮辱とは、人を悪し様に言うことであり、これにより言われた人が、自身の持つ名誉感情を深く傷つけられた場合に成立します。名誉棄損と異なり公然性(不特定又は多数の人に聞かれること、もしくは伝播可能性があること)が不要な点が異なります。

 とはいえ、本件で問題となっているのはネット上での口コミに対する対処なのでこの公然性の有無を気にする必要はありません。

 また、侮辱は、名誉感情を侵害する場合に成立するものであるところ、法人には人のような感情はないことから、法人に対する侮辱は成立しないことに注意が必要です(「A株式会社は本当に糞のような会社だ。倒産してしまえ。」などと書かれても侮辱を根拠とした法的措置はA株式会社としては取り得ないのです)。

 加えて、侮辱は、どんな表現でも名誉感情が侵害されれば成立するというものではなく、侮辱の程度が社会通念に照らして著しく重いものに限って成立すると考えられています。

 その理由は、多少、表現としてきついものであってもすべて侮辱であると構成すると、社会生活上の自由な意見交換に支障が出てしまうからです(人は誰でも時に他人にきつい言葉で非難をしたりすることがあり得ますがそのような場合にすべて侮辱とするのはふさわしくないということです)。

 

 ⑷③信用棄損について

 信用棄損は刑法233条にその規定があり、虚偽の風説を流布し又は偽計を用いて人の信用を棄損した場合に成立します。その場合の法定刑は三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金です。

 口コミによって信用棄損罪の罪に問われるケースは多くはないと言えますが、とはいえ、「料理にゴキブリが入っていた」というような情報を、たとえば偽物のゴキブリを使うとかパソコンで加工するなどした写真と一緒にやたらと拡散されたような場合にはこれが成立する余地が十分にあります。

 このような場合には、店の信用が落ちることから信用棄損の罪の成立を検討することをお勧めします。

 

 ⑸④偽計業務妨害

 偽計業務妨害は信用棄損と同じく刑法233条にその規定があり、虚偽の風説を流布し又は偽計を用いて人の業務を妨害した場合に成立します。その場合の法定刑は三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金です。

 信用棄損罪偽計業務妨害とは、用いる手段はいずれも「虚偽の風説の流布」又は「偽計」という点で同じです。他方で、生じた結果が信用棄損罪の場合であれば「人の信用の棄損」であるのに、偽計業務妨害罪の場合であれば「人の業務の妨害」という点で異なります。

 そのため、互いに重複することが多く、たとえば上記のようなゴキブリによる事例でも、信用棄損と共に偽計業務妨害罪が成立するといえます(ゴキブリの写真の拡散によって通常の業務が行えなくなるので)。

 

 ⑹⑤威力業務妨害

 以上の信用棄損や偽計業務妨害罪とも似ているもう一つの類型としては、威力業務妨害罪があります。これは、「威力を用いて人の業務を妨害した」場合に成立し、その法定刑は上記の罪と同じです。

 威力を用いたと言えるのはどういう場合かですが、ここでいう威力とは「人の自由意思を制圧するに足る勢力の使用」することとされています。

 したがって、「放火してやる」「殺してやる」などの書き込みはまさにこの威力に該当します。

 

 ⑺口コミが営業妨害等になるかどうかのまとめ

 以上のように、特定の口コミが営業妨害等にあたるかどうかについては、個別の法律の規定に照らして当該特定の権利を侵害しているかどうかという観点から分析をすることが大切です。

 その上で、次項で解説する実際に取り得る手段を検討、選択することをお勧めします。

 

4 違法な口コミに対して取り得る手段について

 ⑴違法な口コミと法的手段

 違法な口コミは以上のように様々な形で分類ができます。また、このような違法な口コミに対して取り得る手段もまた様々なものがあります。

 その手段としては、①口コミに対する返信、②任意での削除申請、③仮処分による削除申請、④発信者情報開示請求、⑤損害賠償請求、⑥刑事告訴が挙げられますので順に解説をします。

 なお、これらとは別途、当該投稿者の投稿時のニックネームやイニシャル、投稿日や投稿内容に照らしてどのお客が投稿をしたのかが分かるような場合には、お店や会社から直接そのお客に連絡をし、話合いをすることが考えられます。したがって、このような方法も選択肢として考えてみてください。

 

 ⑵①口コミに対する返信

 Googleのように口コミ投稿に対してオーナーの側から返信ができるものについては、削除などの方法以前に一番すみやかに簡単にとり得る手段としての返信を行うことが考えられます。

 とりわけ、当該口コミ投稿がいわゆる上記で説明したような権利侵害に該当しないような場合には、せめてもの対応として使える大切な手段といえます。

 この口コミに対する返信は、オーナー側から当該投稿に対して直接対応ができることや、返信自体も他のユーザーが閲覧できることから非常に有効な手段です。

 ただし、その返信方法には注意すべき点が多々ありますから、落ち着いて返信をすることが大切です。この点に関しては別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。

 

「Googleの口コミに対する丁寧な返信方法や例文について」

https://kakehashi-law.com/modules/terrace/index.php?content_id=216

 

 ⑶②任意での削除申請

 次に、口コミ投稿がいつまでも残っていると店の評価が下がったままとなるのでこれを削除することが考えられます。その方法としては任意での方法と仮処分という法的手段による方法があります。

 この点、任意での方法の場合には、当該口コミが掲載された媒体毎に対応が異なりますし、実際の削除の当否も同様です。

 たとえばGoogleや爆サイの場合には、やはり別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。

 

「Googleの口コミや誹謗中傷を弁護士・法律事務所に依頼して削除する方法」

https://kakehashi-law.com/modules/terrace/index.php?content_id=212

 

「爆サイの誹謗中傷投稿を削除する方法について」

https://kakehashi-law.com/modules/terrace/index.php?content_id=194

 

 ⑷③仮処分による削除申請

 以上のような任意での削除でも削除が実現できなかった場合には、仮処分による削除をご検討ください。任意での削除に応じない媒体であっても裁判所の仮処分決定を受ければ削除に応じるのが通常です。

 そして、この仮処分による削除を求めるためには、人格権に基づく削除という方法をとることから、権利侵害のうち、①名誉権侵害、②侮辱が構成できることが必要な点、注意が必要です。

 

 ⑸④発信者情報開示請求

 削除以外の方法としては、当該投稿をした人物を特定し、その後の損害賠償請求や刑事告訴に持ち込むことがあります。発信者情報開示請求には相応の手間暇と費用がかかりますが、悪質な書き込みが繰り返し続くような場合には費用をかけた上でもその後の店舗経営のためには必要な手段だといえます。

 そのために必要な手続きや流れは別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。また、開示のために必要となる弁護士費用についても別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。

 

「誹謗中傷による開示請求や損害賠償請求などの流れについて」

https://kakehashi-law.com/modules/terrace/index.php?content_id=205

 

「発信者情報開示請求のために法律事務所依頼した際に必要となる弁護士費用の目安について」

https://kakehashi-law.com/modules/terrace/index.php?content_id=221

 

 ⑹⑤損害賠償請求

 前項で説明をした発信者情報開示請求を経て、その後は開示された投稿者情報(氏名や住所)に基づき、投稿者に対して損害賠償を求めることとなります。

 この場合、示談にて求めるか、訴訟にて求めるかがありますが、いずれの手段によるかは相手方の対応や考え方次第と言えます。すなわち、当該投稿について何ら悪く思っていないようなタイプの投稿者に対しては、いくらこちらが示談での解決を希望したとしても折り合いが付く可能性は非常に乏しいです。

 他方で、当該投稿をした後になってこれを後悔したり、反省をしたりするケースも少なくないため、そのような相手方の場合には、示談での解決が十分にありえます。

 そこで、発信者情報開示請求の結果を踏まえて、投稿者に宛てた内容証明郵便を送付し、その反応を見ることがお勧めです。内容証明郵便を受けてすみやかに連絡をしてくるとか、反省の姿勢が見えるということであれば示談での解決を模索してみてはいかがでしょうか。

 

 ⑺⑥刑事告訴

 投稿の内容が非常に悪質で、発信者情報開示請求の結果を経てもまともな対応をしてこないような相手方の場合には、刑事責任の追及をご検討ください。

 名誉棄損、侮辱、信用棄損、偽計業務妨害、威力業務妨害のいずれの場合でも刑事責任を問うことが可能です。

 したがって、これらの罪が成立するものとして警察に宛てた告訴状を提出することとなります。

 

5 口コミが営業妨害等になる場合と取り得る手段のまとめ

 いかがでしたでしょうか。今の時代、企業経営上、ネットでの口コミをまったく無視して事業展開をすることは容易ではありません。できることなら良い口コミを増やし、悪い口コミを減らしたいものです。

 そのためには、まずは日々の店舗運営等をしっかりと行う、従業員教育をしっかりと行うということに尽きます。とはいえ、様々な事情から思うようにいかないこともあり、そうした積み重ねの結果、ある日突然、悪い口コミに反映されてしまうのです。

 こうした悪い口コミについて、会社として受け止めて反省すべき点があれば素直に応じつつも、中には悪質な口コミ、事実無根な口コミ、暴力的な口コミもあります。

 そのような口コミに対してまで何らの対処をしない訳にはいかないので、このコラムで解説した内容を踏まえてケースに応じた適切な対応をとられることをお勧めします。

 ちなみに、当事務所では、企業経営者の方が事業に専念できるように誹謗中傷を日々リサーチし、削除申請を行うなどを内容とした顧問サービスを提供しています。

 これは、企業経営者にとって精神的にも経済的にも負担の多い誹謗中傷対策を顧問契約の中でパックにし、安価で提供するものです。

 このようなサービスが提供できるのは、誹謗中傷問題に知識と経験のある専門の弁護士に限られますので併せてご検討頂けたらと思います。

 

 

 

執筆者;弁護士 呉裕麻(おー ゆうま)

 

1979年 東京都生まれ

2002年 早稲田大学法学部卒業

2006年 司法試験合格

2008年 岡山弁護士会に登録

2013年 岡山県倉敷市に岡山中庄架け橋法律事務所開所

2015年 弁護士法人に組織変更

2022年 弁護士法人岡山香川架け橋法律事務所に商号変更

2022年 香川県高松市に香川オフィスを開所

 

 

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