SNSのアイコンに他人のイラストなどを使うのは著作権侵害になる?~イラストなどの無断利用に対する弁護士解説~
この記事では、世間で広く行われているSNSでのアイコンや投稿に際して、他人の写真や画像、イラストなどが用いられていることが著作権侵害になることを著作権法に基づき詳しく解説をしています。また、これに関連して、クリエイターの権利保護の立場から、クリエイターの方はどのように対処すべきかについても紹介をしています。SNSでのアイコンでの写真利用等に迷った際や無断利用にお困りの際には正しい情報に基づき適切な対象をお取りください。
【目次】
1 SNSのアイコンや投稿で他人の著作物を利用することは問題なのか?
2 そもそも何が著作物となるのか?~著作権法上の著作物の定義について~
⑴著作権法の目的
⑵著作権法上の著作物の定義とは?
⑶著作権法上の著作物の例示は?
⑷SNSで用いられているアイコンの写真やイラストの扱いはどうなる?
3 他人の著作物利用は一切許されないのか?
⑴著作者の許諾がある場合はどうか?
⑵著作権法上の著作権の制限規定(私的利用)に該当するか?
⑶著作権法上の著作権の制限規定(引用)に該当するか?
⑷結論
4 他人の著作物をSNSで利用することが違法になる具体例は?
⑴他人の撮影した写真
⑵漫画やアニメのキャラクターや、ストーリーの一場面のスクリーンショットなど
⑶テレビ画面をスマホで撮影した写真
⑷美術館や展示会で撮影した写真を使うことは許されるのか
⑸画像や写真、イラストの加工をすれば許されるのか?
5 実際には多くのSNSで芸能人やアニメのキャラクターなどが用いられているのは問題ないのか?
6 SNSのアイコンや投稿で他人の著作物を利用することの法的責任はどうなるのか?
⑴民事上の責任
⑵刑事上の責任
7 SNSのアイコンに他人のイラストを使うなどした場合や使われた場合の弁護士相談のメリットについて
【本文】
1 SNSのアイコンや投稿で他人の著作物を利用することは問題なのか?
スマートフォンの普及とSNS(Facebook、Threads、インスタグラム、X(旧:Twitter)LINEなど)の普及により、あらゆる人がいくつものSNSを使う時代になりました。一般個人だけでなく、多くの企業、法人、会社や自治体もやはりSNSを多数使うようになりました。
これらのSNSでは、個人のアカウントやプロフィールにアイコンを設定することができます。また、投稿やツイートの際に写真や動画を投稿することもできます。
そして、アイコンや投稿の中で、他人の著作物(芸能人の写真、アニメのキャラクター、イラスト、企業や店舗のロゴなど)を知らず知らずのうちに用いているケースが非常に多く、実はこれらが著作権侵害を引き起こしていることはあまり知られていません。
また、写真家、イラストレーター、アニメクリエイターなど多くのクリエイターの方々は、SNSの普及により自身の著作権が無造作に踏みにじられている状況であり、その結果、これらクリエイターの方々は創作意欲を削がれ、疑心暗鬼になり、自らの作品を適正な方法で世間に広めることや、あるべき報酬を受けることに非常に苦労を強いられています。
そのため、SNSでのアイコンや投稿の際には、他人の著作権を侵害していないかを一人一人が強く意識し、改めてこの問題に敏感であるべきだと考えます。そこで、以下、具体的にどのような場合には当該アイコン利用や投稿が著作権侵害になるのかを法的な観点から丁寧に解説をしたいと思います。
2 そもそも何が著作物となるのか?~著作権法上の著作物の定義について~
⑴著作権法の目的
SNSでのアイコン利用等が著作権侵害になるためには、そもそもその前提として、利用した写真やイラストが他人の「著作物」に該当する必要があります。
そして、そもそも著作権を保護するための著作権法では、著作物に関し、著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、その権利の保護を図ることなどが目的とされています(著作権法1条)。
第一条 この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。
⑵著作権法上の著作物の定義とは?
続いて、著作権法では、著作権の保護の対象となる「著作物」について、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」としています(著作権法2条1号)。
⑶著作権法上の著作物の例示は?
さらに、著作権法では、著作物の例示として以下のとおり規定しています(著作権法10条1項)。
一 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
二 音楽の著作物
三 舞踊又は無言劇の著作物
四 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
五 建築の著作物
六 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
七 映画の著作物
八 写真の著作物
九 プログラムの著作物
⑷SNSで用いられているアイコンの写真やイラストの扱いはどうなる?
以上の著作権法の目的や著作物についての定義に照らすと、他人が撮影した写真やイラストは、著作権法2条1号の「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」に該当し、かつ写真は著作権法10条1項8号に、イラストは4号に該当することとなります。
したがって、これらはいずれも著作権の保護が及ぶことは明らかです。なお、著作権の成否と、著作物の価値や出来栄えの良し悪しはまったく無関係です。そのため、素人が撮った下手な写真や、子どもが書いた絵であってもその本人に著作権が成立します。
また、著作権は、著作物の完成と同時に権利性が認められ、国や何かの機関に認められないと権利性が肯定されないということもありません。
3 他人の著作物利用は一切許されないのか?
⑴著作者の許諾がある場合はどうか?
以上のように、著作権はあらゆる創作物に即座に成立するところ、そうすると、ちょっとSNSで何かの画像をアイコンに用いただけで著作権違反となり権利侵害が生じてしまい、余りに不便ではないかとの声が聞こえそうです。
この点、まずは当該画像などの著作者による事前事後の許諾や許可があれば、著作権侵害にならないことは容易にご理解頂けると思います。そのため、他人の写真やイラストなどを利用しようと思った際には、いわゆる事前の許諾や許可があるもの(著作権フリーと呼ばれる素材等を提供するサイトが多数存在します)を用いたり、当該著作者に利用許諾を求めたりすることが適切です。
⑵著作権法上の著作権の制限規定(私的利用)に該当するか?
繰り返しになりますが、著作権は、あらゆる創作物に即座に適用されることから、実は身の回りには著作権の保護の及ぶ著作物が溢れています。そうすると、他人の著作物に囲まれている一般個人は、常に著作権侵害をしないように意識し続ける必要があり、それはそれで非常に窮屈な生活となり過ぎます。
そこで、著作権法では、著作権者の権利と、これを利用する一般個人の利害を調整するために、いくつかの著作権の制限規定を設けています。
そのうちの代表的なものの一つが「私的使用のための複製」です(著作権法30条)。ただし、これは他人の著作物を「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするとき」に限り許されるものであることに注意が必要です。
すなわち、SNSで他人の著作物をアイコンに用いたり、投稿をしたりすることは、個人のSNSであったとしても、他人に広く拡散するというSNSの特性に照らすと、「個人的に限られた範囲内において使用すること」にはならず、許されないのです。
⑶著作権法上の著作権の制限規定(引用)に該当するか?
著作物の私的利用の場合とは別の著作権の制限規定としてよく用いられるのは、著作権法32条に規定のある「引用」です。この規定では、「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。」と定めており、この引用に該当する限り、他人の著作物を著作権者の許諾なく用いることができるのです。
ただし、その要件に該当するかは厳密な判断が必要であり、①引用が「公正な慣行に合致すること」と、②その引用が「正当な範囲内」であることが求められます。より具体的には、①に関しては、当該画像等の利用が、他人の著作物を用いていることの明示があり、②に関しては、他人の著作物が当該投稿の中で従たるものであることが言えないとなりません。
したがって、他人のイラストなどを単にアイコンに用いている場合には、当然、この引用に該当する余地はありません。
⑷結論
以上のように、他人の著作物をSNSのアイコンで利用することは、基本的には著作者の許諾がある場合に限られると思ってもらった方がよいです。
4 他人の著作物をSNSで利用することが違法になる具体例は?
⑴他人の撮影した写真
上記の説明のとおり、撮影者ないし著作権者の許諾がある場合や、著作権フリーの写真でない限りは違法になります。
⑵漫画やアニメのキャラクターや、ストーリーの一場面のスクリーンショットなど
これらもやはりアニメの著作権者の権利を侵害することとなります。よく、自分の好きなアニメのキャラクターなどをアイコンにしたり、投稿に上げたりする方がいますが、著作権侵害です。
⑶テレビ画面をスマホで撮影した写真
テレビ番組に映っている芸能人の顔などを、自分のスマホで撮影した写真をアイコンに用いる場合はどうでしょうか。一見すると、テレビの画面を撮影したのは自分なので、その写真の著作権は自分に生じる以上、それは問題ないのではないかと考えるかもしれません。
しかし、そもそもテレビ自体が著作権法10条1項7号の「七 映画の著作物」に該当し、当該番組の制作者に著作権が帰属します。そして、テレビ番組をスマホで撮影する行為は、当該著作物を「複製」したことになるので、これをSNSのアイコンにしたり、投稿したりすることはやはり著作権侵害になります。
他方で、偶然道端で芸能人を見かけたので顔を写真で撮影した場合には、その写真をSNS等で用いても著作権法上の問題は生じません。芸能人を直接撮影したのは自分自身であり、誰かの著作物を侵害していないためです。
⑷美術館や展示会で撮影した写真を使うことは許されるのか
美術館や展示会で、「撮影OK」の表示があることがあります。この場合、撮影した写真をどこまで用いることが可能なのかはよく確認が必要です。すなわち、当該写真を撮影者が個人的に楽しむまでを許す趣旨なのか、もしくは完全に撮影した写真を、SNSを含め広く用いてもらってよいのかによって意味合いが大きくことなるからです。
したがって、撮影OKとの場合でも、どこまでのことが許されるのかの確認は重要です。
⑸画像や写真、イラストの加工をすれば許されるのか?
では、他人の著作物を、それと分からないように一部加工するなどすれば、元の作品との同一性が失われるので著作権侵害にはならないと言えないでしょうか?この点、残念ながら加工等をする時点で他人の著作物の同一性を失わせたものとして、「同一性保持権」という意味で著作権侵害になってしまいます(著作権法20条1項)。
第二十条 著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。
5 実際には多くのSNSで芸能人やアニメのキャラクターなどが用いられているのは問題ないのか?
ここまで読んで頂いた方の中には、「そうは言っても多くのSNSなどでアイコンには芸能人の写真やアニメのキャラクター、他人の写真、イラストが用いられたり、投稿されたりしているではないか?」と考える方が多いと思います。
たしかに現実社会では、指摘のとおり、無数の投稿がなされ続けています。しかし、このことはだからといって著作権侵害がないとか、著作者は予め他人が投稿に用いることを許諾しているとか、法的には実は問題がないとかということを意味することではありません。
すなわち、現実社会では急速なSNSやスマホの普及に伴い、誰でも容易にデジタルツールを用いて数々の投稿ができるようになった反面、法教育や著作権に対する理解はその普及の速度にまったく追いついてきておらず、さらには業界団体や警察及び司法も現実社会で生じている問題に対処が出来ずにいるだけなのです。
そのような事象の中で、多くのクリエイターは冒頭で述べたような損失を受け、希望を失っているのです。当然、現在のこのような事象を知れば、クリエイターを目指す人々が減り、引いては良質なコンテンツによる娯楽や趣味を私たちが受けられなくなるのです。したがって、この問題に対しては、安易に他人の著作物を利用することの長期的な問題を十分に理解し、これをしないと一人一人が心がけることが大切です。
当然、業界団体を始め、デジタル社会における著作権侵害に対しては対策が強められる方向に進むことでしょうから、いつまでも現在の状況が続くこともありません。
なお、クリエイターもまたSNSなどで便益や利益を受けているのではないか?とか、むしろ多くの人に投稿してもらった方がそのクリエイターにとっても知名度が上がるなどメリットがあるのではないか?との声もあると思います。しかし、このように考えるクリエイターがいるとしても、だからといってその他のすべてのクリエイターが同様に思っていることにはなりません。
著作者であるクリエイターは、情熱をもって当該作品を描いて、世に発信をし、評価を受けたいと考えて活動しているのです。そのような作成者の思いはユーザーにおいて最大限に尊重をするべきではないでしょうか。単に自分自身が「気にいっているから」「何となく面白そうだから」などという理由で今のような野放図のSNSでの利用が進むことは多いに問題があるといえます。「みんながやっているから」とか、「あたりまえにやっているから」ということもやはり正当化理由にはなりません。
6 SNSのアイコンや投稿で他人の著作物を利用することの法的責任はどうなるのか?
⑴民事上の責任
まず、著作物の利用に伴い生じた損害の損害賠償責任が生じます(民法709条、著作権法114条)。また、当該著作物の利用を止めるように侵害行為の差し止め請求を受けます(著作権法112条1項)。
なお、著作権侵害の際に、具体的にどのようにしてその損害額が算定されることになるのかについては、別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。
「ビットトレントシステムなどのファイル共有ソフトで動画などをアップロードしてしまった。いくらの損害賠償になるか。」
https://kakehashi-law.com/modules/terrace/index.php?content_id=139
⑵刑事上の責任
刑事上の責任としては、著作権侵害の場合には「十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」とされており(著作権法119条1項)、非常に重い処罰が想定されています。とりわけ、無断利用と知りつつ、多数回の警告などにも関わらず執拗にトラブルを繰り返す方の場合には、刑事責任が追及される可能性が高くなるといえます。
7 SNSのアイコンに他人のイラストを使うなどした場合や使われた場合の弁護士相談のメリットについて
このように、他人のイラストや写真、画像をSNSで用いることはほとんどのケースで著作権侵害を構成します。「知らなかった」では済まない問題なので、すぐさま止めるべきです。どのような場合に許されない利用になるのか不安な方は弁護士にご相談ください。
また、自分のイラストや写真などが、他人にSNSで用いられていると気が付いたクリエイターの方としては、早急にこれを止めさせたいと考えることでしょう。
その場合、まずは当該利用者に直接連絡をとることが考えられます。また、SNSの管理者に著作権侵害の事実を告げて、当該投稿等を削除するように申請することも大切です。それでも止まない場合には、最終的には発信者情報開示請求を通じて当該投稿者を特定し、上記のように損害賠償請求や差止請求を求めることもご検討ください。
当然、これらの手続のために弁護士に相談をすることや依頼をすることも可能です。ご自身の大切な著作物を守り、これからのクリエイターのためにも必要な処置を弁護士と共に講じていただくことが大切だと考えます。正しい知識と過去の事例に照らした適切な解決をご提供いたします。
執筆者;弁護士 呉裕麻(おー ゆうま)
1979年 東京都生まれ
2002年 早稲田大学法学部卒業
2006年 司法試験合格
2008年 岡山弁護士会に登録
2013年 岡山県倉敷市に岡山中庄架け橋法律事務所開所
2015年 弁護士法人に組織変更
2022年 弁護士法人岡山香川架け橋法律事務所に商号変更
2022年 香川県高松市に香川オフィスを開所