1 飲食業の概況について
(1)飲食業の売り上げ状況とその推移について
飲食業の概況としては、ここ数年では何よりも新型コロナウイルスの感染拡大の影響が避けられません。
飲食業では、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、臨時休業、時短営業の要請や外出自粛などの影響を真っ先に受けました。
そのような影響を経て、2023年には新型コロナウイルスの5類移行や、マスク着用が緩和するなどの結果、徐々に営業環境が戻りつつあります。
とはいえ、いったん慣れ親しんでしまった外出自粛の結果、とりわけ飲食業のうちでも居酒屋を始めとする飲酒業態における売り上げは2019年に比しても低い水準のままです。
具体的には2022年の外食産業全体の売り上げでは、前年比113%、2019年比94%という水準に達していますが、パブレストラン、居酒屋に限ると前年比180%、2019年比49%という水準なのです。
(2)飲食業の課題
こうした売り上げ状況にある飲食業においては、今後、売り上げ向上のために、クリアしないとならないいくつかの課題があります。
①人手不足の問題
飲食業において何よりも深刻なのはこの人手不足の問題です。
少子高齢化が進む中、どの業種でもそうであるようにとにかく人手不足の状況が叫ばれています。
特に飲食業の場合には、新型コロナウイルスのために営業自粛等の期間が長く、その間に飲食業から離れた人材が少なくありません。
また、飲食業は万が一の新型コロナウイルスの再開のために営業自粛等の影響を真っ先に受けると捉えられ、現在においても飲食業をバイト先や就労先に選択する人が減っているとも言えます。
そうした中、飲食業同士でも人材の奪い合いになり、都心部を中心にバイト時給が高騰しています。
そのため、如何にして人材を集め、如何にして長く働いてもらうかは経営者として真っ先に考えるべき問題です。
当然、労働条件の取り決め(雇用条件通知書の作成や就業規則の制定、周知)や、労働環境の整備(福利厚生、カスハラ対策、セクハラ、パワハラ対策など)や、適切な賃金の支給(最賃の確保、残業代の支給等)が重要になります。
②食材価格等の高騰
インフレや不安定な社会情勢の中で、また世界的な地域的な気候変動の影響もあり、飲食業で用いる食材や電気ガス水道などの価格は高騰し続けています。
飲食店としては、食材の選別や産地選びなどを通じて原価を抑える工夫に勤しんでいるところですが、それにも限界があります。
そもそも、飲食店として自ら提供したい商品を自らが考える最善の食材で揃えたいという気持ちも大切にしたいところです。
当然、顧客に価格転嫁がうまくできれば良いのですが、必ずしも容易ではありません。
こうした状況に対してどのような対策を講じるか、経営者の手腕が問われる課題だと言えます。
③顧客満足度の向上について
飲食店は、日々、不特定多数の顧客が訪問し、その商品やサービスの提供を受ける業態です。
個別の顧客の売り上げ単価は少額であることが大きい反面、飲食店との接点を持つ顧客の数が他の業態と比べて多いという特徴があります。
そのため、飲食店としてはこのような不特定多数の顧客を如何にして満足させるかという努力や工夫が重要です。
他方で、顧客満足に成功せず、ひどい時には顧客に不満を抱かせてしまうことも生じ得ます。
その結果、SNSや口コミサイトに誹謗中傷を書かれるなどし、店舗の評価を落としてしまうことも多々あります。
これら誹謗中傷は、店舗の売り上げに直結する問題であるだけでなく、そこで働く従業員のモチベーション低下や、新規応募者の減少にも悪影響を及ぼします。
したがって、経営者としては、このような現代社会ならではの誹謗中傷対策にも十分意識を向けることが大切です。
他にも、カスタマーハラスメント(カスハラ)対策も同様に店舗の評価や従業員のモチベーション低下につながりますので十分な対策が必要な問題です。
そして、これらの問題は、その分野に詳しい弁護士に相談することで早急に最善の解決が可能な分野でもあります。
2 飲食業の特徴について
飲食業は、以下のような特徴があります。
①事業者数が非常に多い
②店舗数も多い
③店舗ごとに従業員も多く雇う
④業界全般的に人手不足の影響が深刻である
⑤不特定多数の来店客との接点が多数ある
⑥昨今のSNSやグルメサイト、Googleマップなどによる評価の対象に常にさらされている
そのため、従業員との雇用契約に際しては、従業員の質、サービス残業や未払い賃金の問題、パワハラやセクハラの問題が良くあるところです。これらの問題が生じると、職場環境は悪化の一途を辿り、充実したサービス提供はままなりません。
当然、売り上げ減少に直結しかねない問題です。
また、来店客との関係では、カスタマーハラスメントの問題や風評被害の問題が多く話題になっています。
3 飲食業において発生しやすい法的トラブル
以上のような特徴や課題を持つ飲食業では、主に以下の法的トラブルが散見されます。
①労務問題
飲食業ではサービス残業を始めとして、未払い賃金の問題が多いという特徴があります。
また、忙しい現場にて職人が料理を振るうという状況下でパワハラが生じやすいという特徴もあります。
さらに、男女が共同して店舗運営を行うことも多く、職場内にてセクハラの問題が生じることも少なくありません。
その他、職場内で人間関係上のトラブルを起こすなどする従業員に対する解雇の問題も生じ得ます。
②風評被害
現代社会において、飲食店はSNSなどを通じた評価に常にさらされています。
当然、当該店舗や従業員をプラスに評価する内容については歓迎すべきですが、事実無根な内容や、名誉毀損、侮辱等に相当する風評被害に対しては厳然たる対処も必要です。
そのためには書き込みに対して企業としての冷静な回答をする、運営媒体に対して削除申請をするなどの対処が考えられます。
③クレームやカスタマーハラスメント
いわゆる風評被害とは別に、顧客によるクレームやカスタマーハラスメントも飲食業に横行、蔓延している問題です。
クレームやカスタマーハラスメントについては、従業員の心身の負担になり、モチベーション低下にも繋がることから経営者として厳正な対処が求められる問題です。
4 飲食業特有の法的問題への弁護士による対応
飲食業特有の法的問題に対しては、その問題ごとに以下のような弁護士対応が可能です。
①労務問題
採用の際の注意事項、面接での質問事項についての助言が可能です。特に最近では、面接応募があった際に、応募者の適正などをインターネットやSNSで検索することでリサーチするケースが増えています。
また、採用に至った際には労働条件通知書をしっかりと作成し、後に労働条件を巡る紛争に発展することを防ぐことが可能です。
さらに、採用後にパワハラ、セクハラの問題が生じた際には相談を受けた経営者や店長からのヒアリングを通じて、これら問題を如何にして解決するか最善の助言が可能です。
大切な従業員をパワハラやセクハラにより失うことは何よりの損失です。そうした結果に至る前に、退職に繋がりかねない法的問題を根から摘むことが大切です。
他にも、勤務態度に問題がある従業員の処遇を巡っては自主退職を促したり、場合によっては解雇を言い渡したりすることもあるかと思います。
こうした法的措置は後の紛争に繋がりやすい問題であることから、事前に弁護士に相談をし、最悪の結果にならないような配慮をお勧めします。
②風評被害
風評被害は、飲食業にとって切っても切れない関係にあります。
不特定多数の顧客を対象とし、顧客が飲食店の利用に伴う感想や意見をSNSや掲示板などに書き込むことは日常茶飯事になりました。
その内容のうち、悪意のあるコメントはいわゆる風評被害として企業が正面から対応をするべき問題です。
ここで、風評被害という用語と、誹謗中傷の意味、その法的責任については別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。
いずれにしても、風評被害により飲食店がメリットを受けることは皆無です。そのため、しっかりとした対策が求められる問題です。
③カスタマーハラスメント
最後に忘れてならないのがカスタマーハラスメントの問題です。
カスタマーハラスメントの問題は、職場環境を悪化させ、従業員のモチベーション低下を引き起こす最悪の問題です。
したがって、カスタマーハラスメントが生じた際には現場任せにするのではなく、即座に経営者としての正しい判断が求められます。
また、カスタマーハラスメント問題は、損害賠償、謝罪という民事上の問題にとどまらず、強要、強迫などという刑事上の問題も含む問題となっています。
そのため、多彩な視点で問題に対処できる、カスタマーハラスメント問題に精通した弁護士への相談が有効です。
5 弁護士に依頼するメリット
以上のように飲食業では、多くの法律問題と背中合わせで日々の営業がなされています。
こうした問題について、可能な限り問題が顕在化しないように解決をすることを心がけ、万が一、問題が顕在化した場合にはすぐに対処できることが安定した経営環境、安定した売り上げの確保、安定した従業員の確保に繋がります。
そのため、飲食業の経営者の方が日ごろの業務に関し弁護士に相談をすることは大きな意味を持つといえます。
当然、安心して経営に専念できるようにもなります。
これらを踏まえて、飲食業の実情に詳しい弁護士に相談することのメリットは大きいものといえます。
6 まずは弁護士にご相談ください
飲食業の経営を巡り生じる様々な問題については、経営者の方が一人で抱え込むのではなく、専門の弁護士への相談が最善です。
「こんな小さな問題で相談してよいのか?」
そう考えることなく、お気軽に弁護士へご相談ください。