2026年1月1日、下請代金支払遅延等防止法(下請法)は「中小受託取引適正化法」(通称:取適法)へと改正・改称され、施行されました。法律名や「親事業者」「下請事業者」といった用語が変わっただけでなく、価格協議に応じない一方的な代金決定の禁止、手形払等の禁止、従業員数基準の追加など、実務に直結する見直しが行われています。
この点、建設業の経営者の方からは、「建設工事は建設業法の対象だから、取適法は関係ない」というお声をよく伺います。確かに、建設工事の下請負そのものは取適法の対象外です。しかし、設計図面の作成、特注建設資材の製造、資材の運送などを外注する取引は、取適法の対象になり得ます。
このように、単純に「建設業だから建設業法」とはならない点、注意が必要です。
そこで、本記事では、2026年1月1日施行の改正内容を中心に、建設業法の概要や取適法との違い、そして自社のどの取引がどちらの法律の対象になるのかを、図表も用いて整理してわかりやすく解説します。(本記事は2026年10月時点の情報に基づいています。)
1.【2026年1月1日施行】下請法から「取適法」へ──改正の全体像
⑴ 取適法とは何か
取適法の正式名称は、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(略称:中小受託取引適正化法)です。令和7年5月に成立・公布された改正法により、旧・下請法が改称・強化されたもので、令和8年(2026年)1月1日以降に行う製造委託等から適用されています。
その目的は、発注側(委託事業者)と受注側(中小受託事業者)との取引を公正にし、中小受託事業者の利益を保護することです。
独占禁止法の「優越的地位の濫用」規制を補完する法律として、適用対象を明確にし、違反行為の類型を具体的に定めることで、簡易・迅速に中小受託事業者の保護を図っています。
取適法が適用されるのは、次の5つの取引類型のいずれかに当たり、かつ、当事者の資本金または従業員数が基準を満たす取引です。建設業者の取引にあてはめると、次のようになります。
表1 取適法の対象となる5つの取引類型と、建設業での具体例
| 取引類型 | 内容 | 建設業での具体例 |
|---|---|---|
| ①製造委託 | 物品の規格・仕様等を指定して、製造・加工を他の事業者に依頼する | 仕様を指定した特注の建設資材・建具の製造を外注する(販売する建売物件や、請け負った工事に使う資材など) |
| ②修理委託 | 請け負った物品の修理等を他の事業者に委託する | 建設工事に該当しない設備機器の部品交換などの修理作業を再委託する |
| ③情報成果物作成委託 | 設計図・プログラム・デザインなどの作成を他の事業者に委託する | 請け負った建築物の設計、内装設計、工事図面の作成を設計事務所等に外注する |
| ④役務提供委託 | 他者に提供する役務(サービス)の全部または一部を他の事業者に委託する | 請け負った建設工事一式に含まれる警備業務を警備会社に委託する |
| ⑤特定運送委託(2026年追加) | 販売・製造等に係る物品を取引の相手方へ運送する行為を、他の事業者に委託する | 業として販売する建設資材を顧客に届けるための運送を運送会社に委託する |
※建設業法に規定される建設業を営む者が、業として請け負う建設工事の全部または一部を他の建設業者に請け負わせる場合は、取適法の対象になりません(建設工事の下請負は建設業法で規律されるため)。
⑵ 2026年1月1日施行の主な改正ポイント
今回の改正は、「物価高・労務費上昇を取引価格に反映しやすくすること」と「下請法逃れを防ぐこと」を大きな柱としています。主な改正点は次のとおりです。
表2 取適法(2026年1月1日施行)の主な改正ポイント
| 改正事項 | 内容 | 建設業者への影響 |
|---|---|---|
| ①法律名・用語の変更 | 「下請代金支払遅延等防止法」→「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(通称:取適法) 「親事業者」→「委託事業者」 「下請事業者」→「中小受託事業者」 「下請代金」→「製造委託等代金」にそれぞれ変更 | 発注書・契約書ひな形・社内規程の用語の見直しが必要。 |
| ②協議に応じない一方的な代金決定の禁止(新設) | 中小受託事業者から代金(単価)の協議の求めがあったのに、協議に応じなかったり、必要な説明をしなかったりして、一方的に代金を決定することを禁止(第5条第2項第4号)。 | 労務費・資材費の上昇を理由とする単価引上げの申入れには、協議に応じ、据え置く場合は理由を書面・メール等で説明する体制が必要。 |
| ③手形払等の禁止 | 手形による支払を禁止(支払遅延に該当)。電子記録債権・一括決済方式など、支払期日までに代金の満額に相当する現金を得ることが困難な支払手段も禁止。 | 手形・ファクタリング・電子記録債権で支払っている取引は、現金払い等への見直しが必要。 |
| ④従業員基準の追加 | 従来の「資本金」基準に加え、「常時使用する従業員数」の基準を新設(委託事業者300人超/100人超)。資本金が基準を下回っていても、従業員数が基準を超えれば委託事業者になる。 | 資本金が小さい会社でも、従業員数によっては取適法上の「委託事業者」になる。増資・減資による規制逃れも防止。 |
| ⑤特定運送委託の追加 | 販売・製造・修理・情報成果物の作成に係る物品を、取引の相手方へ運送する行為を委託する取引を新たに対象に追加。 | 販売する建設資材の運送を外注している場合は対象になり得る。 |
| ⑥減額への遅延利息 | 責めに帰すべき理由なく代金を減額した場合にも、年14.6%の遅延利息の支払義務を明確化(第6条第2項)。 | 振込手数料の天引き等も「減額」に当たるため、支払処理の確認が必要。 |
| ⑦報復措置の禁止(申告先の拡大) | 公正取引委員会・中小企業庁に加え、事業所管省庁へ違反を知らせたことを理由とする取引停止等の不利益取扱いを禁止。 | 取引先からの申告を理由とした取引数量の削減等は禁物。 |
| ⑧事業所管省庁による指導・助言 | 公正取引委員会・中小企業庁に加え、事業を所管する省庁も指導・助言を行う体制へ整備(面的執行の強化)。 | 国土交通省など所管省庁からの指導を受ける可能性。 |
| ⑨発注内容の明示方法 | 発注内容(4条明示)は、書面のほか、電子メール等の電磁的方法でも可能。中小受託事業者から書面を求められた場合は、原則として遅滞なく書面を交付。 | 電子メール・発注システムでの明示が行いやすくなる一方、記載漏れに注意。 |
なお、旧・下請法から引き続き適用される基本ルールは、次のとおりです。
🔴発注内容等の明示義務(発注の都度、直ちに、給付の内容・代金の額・支払期日・支払方法などを明示)
🔴支払期日を定める義務(給付を受領した日から60日以内で、できる限り短い期間内に定める)
🔴書類等の作成・保存義務(取引の記録を2年間保存)
🔴遅延利息の支払義務(年14.6%)
🔴11項目の禁止行為(受領拒否、支払遅延、減額、返品、買いたたき、購入・利用強制、報復措置、有償支給原材料等の対価の早期決済、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更・やり直し、協議に応じない一方的な代金決定)。相手方の了解を得ていても、違反になります。
※役務提供委託・特定運送委託には、受領拒否と返品の禁止は適用されません。
⑶ 改正を建設業者の取引にあてはめると
🔴価格協議:設計事務所や特注建具メーカーから、人件費・材料費の上昇を理由に報酬・単価の引上げを求められた場合、協議に応じず従来の価格を据え置くことは、買いたたきや「協議に応じない一方的な代金決定」に当たるおそれがあります。
🔴手形払の禁止:特注資材の製造代金などを手形で支払っている場合は、支払手段の見直しが必要です。
🔴従業員基準:資本金が1,000万円以下の会社でも、従業員数が100人(製造委託・特定運送委託等は300人)を超えれば、委託事業者として取適法の規制を受ける場合があります。
2.建設業法の概要
⑴ 建設業法とは何か
建設業法は、建設業を営む者の資質の向上や建設工事の請負契約の適正化などを図ることで、建設工事の適正な施工を確保し、発注者を保護するとともに、建設業の健全な発達を促進することを目的とした法律です。
許可制度を中心に、請負契約の適正化、技術者の配置、下請負人の保護などが規定されています。
建設業を営むには、軽微な建設工事のみを請け負う場合を除き、国土交通大臣または都道府県知事の許可が必要です。
また、元請として一定額以上の下請契約を締結する場合には、より厳格な要件を満たす「特定建設業」の許可が必要になります。違反があった場合には、指示処分や営業停止、許可取消といった重い行政処分につながるため、日常的なコンプライアンス体制の構築が求められます。
⑵ 建設業法の主な規制(元請・下請の取引に関するもの)
表3 建設業法の主な規制の全体像
| 規制項目 | 内容 | 主な条文 |
|---|---|---|
| 許可制度 | 軽微な工事を除き、建設業の許可が必要。元請として5,000万円以上(建築一式工事は8,000万円以上)の下請契約を結ぶ場合は、特定建設業の許可が必要。 | 第3条 |
| 請負契約の書面化 | 工事内容・請負代金・工期・支払時期などの法定事項を書面に記載し、署名または記名押印のうえ、相互に交付する。追加・変更工事も書面で合意する。 | 第18条・第19条 |
| 見積り・契約内容の適正化 | 見積条件の提示、不当に低い請負代金での契約(原価割れ契約)の禁止、著しく短い工期での契約の禁止、著しく低い労務費等による見積りの禁止など。 | 第19条の3・第19条の5・第20条 |
| 下請代金の支払 | 元請負人は、注文者から代金の支払を受けたときは、1か月以内で、できる限り短い期間内に下請代金を支払う。特定建設業者は、一定の下請負人に対し、引渡しの申出から50日以内に支払う。 | 第24条の3・第24条の6 |
| 一括下請負の禁止 | 請け負った工事を一括して他の業者に請け負わせることは、原則として禁止。 | 第22条 |
| 技術者の配置 | 工事現場に、主任技術者または監理技術者を配置する。一定額以上の工事では専任が必要。 | 第26条 |
| 監督処分・罰則 | 指示処分・営業停止処分・許可取消処分。無許可営業などには、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金などの刑事罰。 | 第28条・第29条・第47条 |
※条文番号は主なものを示しています。具体的な適用にあたっては、最新の法令をご確認ください。
⑶.建設業法の最近の改正(時系列)
建設業法は、「担い手の確保」「働き方改革」「処遇改善」を軸に、近年、大きな改正が続いています。特に、2024年6月に公布された「第三次・担い手3法」による改正は、段階的に施行され、2025年12月12日に全面施行されました。主な改正を時系列で整理します。
建設業法の主な改正の時系列(2019年〜2026年)
| 時期 | 改正・施行の内容 | 実務上のポイント |
|---|---|---|
| 2019年6月12日 公布 (新・担い手3法) | 【令和元年改正】働き方改革・生産性向上を目的とした改正(令和元年法律第30号)。 ・2019年9月1日:建設業従事者の責務の追加など一部施行 ・2020年10月1日:主な規定が施行(著しく短い工期での請負契約の禁止、中央建設業審議会による「工期に関する基準」の作成・勧告、許可基準の見直し・社会保険加入の許可要件化、監理技術者を補佐する者の配置による専任の緩和、事業承継制度の創設など) ・2021年4月1日:技術検定制度の見直し(技士補の創設) | 工期ダンピングの禁止、許可・更新時の社会保険加入の確認など。 |
| 2023年1月1日 | 建設業法施行令の改正により、技術者の専任を要する請負代金額、特定建設業許可を要する下請代金額などの金額要件を引上げ。 | 自社の工事が専任技術者・特定建設業の要件に当たるかを再確認。 |
| 2024年6月14日 公布 (第三次・担い手3法) | 「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律」(令和6年法律第49号)が公布。処遇改善、資材高騰に伴う労務費へのしわ寄せ防止、ICTを活用した生産性向上が柱。 | 段階的に施行(2024年9月1日/12月13日/2025年12月12日)。 |
| 2024年9月1日 | 中央建設業審議会が「労務費の基準」を作成・勧告できる権限、国が建設業従事者の処遇確保等の取組状況を調査・公表する権限が施行。 | 標準的な労務費の目安を国が示す仕組みの土台。 |
| 2024年12月13日 | ・建設業者に、労働者の処遇確保の努力義務 ・資材高騰時の請負代金等の「変更方法」を、契約書の記載事項として明確化 ・資材高騰など請負額に影響するおそれのある事象の情報を、契約前に受注者から注文者へ通知する義務 ・資材高騰が顕在化した場合、受注者から契約変更協議の申出があれば、注文者は誠実に協議に応じる努力義務(公共工事発注者は義務) ・ICT活用等による現場技術者の専任義務の合理化 など ・建設業法令遵守ガイドラインを改定 | 契約書のひな形に「変更方法」を記載する必要。資材価格の変動リスクは、契約前に共有。 |
| 2025年2月1日 | 建設業法施行令の改正により金額要件を引上げ。 ・特定建設業許可・監理技術者の配置・施工体制台帳の作成を要する下請代金額:4,500万円→5,000万円(建築一式工事は7,000万円→8,000万円) ・主任技術者・監理技術者の専任を要する請負代金額:4,000万円→4,500万円(建築一式工事は8,000万円→9,000万円) | 特定建設業許可が必要かどうかの基準額が変わっている。 |
| 2025年12月 | 中央建設業審議会が「労務費に関する基準」を作成・勧告。国土交通省が運用方針を公表。 | 見積りの際の労務費の目安(基準値)として活用。 |
| 2025年12月12日 全面施行 | 【改正法の全面施行】 ・著しく低い労務費等による見積り・見積り依頼の禁止(違反した注文者は国土交通大臣等が勧告・公表、違反した建設業者は指導・監督) ・原価割れ契約の禁止を、受注者にも拡大(これまでは注文者のみ) ・工期ダンピング対策の強化(著しく短い工期での契約締結を、受注者にも禁止) | 「安く受けること」自体が規制の対象に。労務費・材料費・法定福利費等を内訳明示した見積書の作成が重要。 |
| 2026年3月 | 国土交通省が「建設工事の見積書様式例」と書き方ガイドを公表(労務費・材料費・法定福利費・安全衛生経費等の内訳を記載した見積書)。 | 見積書様式の見直し。 |
| 2026年6月29日 | 国土交通省が「労務費に関する基準」の運用方針を改正。 | 最新の運用方針・基準値を確認。 |
※2024年12月13日の施行内容は主なものを記載しています。改正の詳細や最新の運用は、国土交通省の公表資料をご確認ください。
2025年12月の全面施行により、建設業法の規制は、発注者側だけでなく、受注者側(元請・下請)にも及ぶようになりました。建設業者は、建設工事については建設業法、周辺取引については取適法というように、二つの法律を使い分けながら対応する必要があります。
3.建設業法と取適法の主な違い
建設業においては、元請・下請間の取引が日常的に行われますが、その際に問題となる法令として、「建設業法」と「取適法」があります。両者は似た場面で問題となることが多い一方、守ろうとするもの、適用の判断軸、規制の中身は大きく異なります。
表4 建設業法と取適法(旧・下請法)の比較
| 項目 | 建設業法 | 取適法(旧・下請法) |
|---|---|---|
| 目的 | 建設工事の適正な施工の確保、発注者の保護、建設業の健全な発達 | 受託取引の公正化、中小受託事業者の利益保護 |
| 対象となる取引 | 建設工事の請負契約(元請・下請の別、金額、当事者の規模を問わない) | ①製造委託・②修理委託・③情報成果物作成委託・④役務提供委託・⑤特定運送委託の5類型(建設工事の請負は対象外) |
| 適用の判断軸 | 取引の内容(建設工事かどうか)。資本金・従業員数は問わない | 取引の内容(5類型)と、当事者の規模(資本金または従業員数)の両方 |
| 契約書・発注書面 | 契約締結時に、法定事項を記載した書面に署名または記名押印し、相互に交付(追加・変更時も書面)。 | 発注の都度、直ちに、明示事項を書面または電磁的方法で明示。取引の記録を2年間保存。 |
| 支払期日 | 注文者から支払を受けた日から1か月以内(できる限り短い期間内)。特定建設業者は、一定の下請負人に対し、引渡しの申出から50日以内。 | 給付を受領した日(役務は提供を受けた日)から60日以内で、できる限り短い期間内。検査の有無を問わない。 |
| 手形等での支払 | 特定建設業者は、割引を受けることが困難な手形の交付が禁止。それ以外も、割引料等を下請負人の負担としないよう配慮が必要。 | 手形払は禁止。電子記録債権・一括決済方式も、支払期日までに満額の現金を得ることが困難なものは禁止(2026年1月1日〜)。 |
| 主な禁止・規制行為 | 不当に低い請負代金の禁止、著しく短い工期の禁止、不当な使用資材等の購入強制の禁止、一括下請負の禁止、下請負人への不利益取扱いの禁止 など | 受領拒否、支払遅延、減額、返品、買いたたき、購入・利用強制、報復措置、不当な給付内容の変更・やり直し、協議に応じない一方的な代金決定 など(11項目) |
| 違反した場合 | 指示処分・営業停止処分・許可取消処分(国土交通大臣・都道府県知事)。無許可営業などには刑事罰。 | 公正取引委員会の勧告(原則として事業者名が公表される)、指導・助言。発注内容の明示義務・書類保存義務違反などには50万円以下の罰金。 |
| 所管 | 国土交通省・都道府県(建設Gメンなどによる取引実態の調査) | 公正取引委員会・中小企業庁・事業所管省庁 |
両者の適用対象の違いをひと言でいえば、建設業法は「建設工事かどうか」、取適法は「取引の種類×当事者の規模」で決まります。また、建設工事の請負は取適法の対象外ですが、同じ工事案件の中でも、設計・資材の製造・運送・警備といった周辺の取引は取適法の対象になり得ます。つまり、同じ元請業者でも、取引相手と取引内容ごとに適用される法律が異なるのです。
なお、建設業法と取適法のどちらも適用されない取引であっても、独占禁止法の「優越的地位の濫用」に該当する場合があります。「どちらの法律の対象でもないから自由」と考えるのは危険です。
4.一目でわかる!自社の取引は建設業法?取適法?
「自社のこの取引は、どちらの法律の対象なのか」を判断するための図表を用意しました。まず、図1のチャートで大まかに判定し、図2で取引相手別の全体像を確認し、表5で具体的な取引を照らし合わせてください。
⑴ 判定チャート(図1)
図1 建設業法・取適法の3ステップ判定チャート

⑵ 取引相手別の一覧図(図2)
図2 取引相手別・適用される法律の一覧図(元請建設業者の例)

⑶ 取引別の早見表(表5)
表5 建設業者の取引別・適用法令の早見表
| 取引の例 | 建設業法 | 取適法 | ポイント |
|---|---|---|---|
| 工事の下請負(基礎・内装・電気・配管など、建設業者への発注) | ○ | × | 建設工事の下請負は取適法の対象外。建設業法の書面契約・支払期日等のルールが適用される。 |
| 一人親方(従業員を使わない個人)への工事発注 | ○ | × | 取適法は対象外。ただし、一人親方は「フリーランス法」(2024年11月施行)上の特定受託事業者に当たるため、同法の取引条件の明示・支払期日等も確認が必要。 |
| 請け負った建築物の設計・内装設計・工事図面の作成を、設計事務所や個人設計者に外注 | × | ○ | 情報成果物作成委託。発注側・受注側が資本金(5,000万円基準)または従業員数(100人基準)の要件を満たす場合に対象。 |
| 仕様を指定した特注の建設資材・建具・鉄骨などの製造を外注 | × | ○ | 製造委託。資本金3億円/1,000万円または従業員300人の基準で判断。カタログ品(規格品)の購入は、原則として「委託」に当たらず対象外。 |
| 業として販売する建設資材の、販売先までの運送を外注 | × | ○(新) | 特定運送委託(2026年1月1日から対象)。資本金3億円/1,000万円または従業員300人の基準で判断。 |
| 請け負った建設工事一式に含まれる警備業務を、警備会社に外注 | × | ○ | 役務提供委託。資本金5,000万円/1,000万円または従業員100人の基準で判断。 |
| 請け負った測量業務そのものを、測量会社に再委託 | × | ○ | 役務提供委託として対象になり得る(他者に提供する役務の再委託のため)。 |
| 自社が施工する工事のために必要な測量・調査を外注 | × | × | 自社が使う役務(自ら用いる役務)の委託であり、取適法の対象外が原則。ただし独占禁止法には注意。 |
| 自社で使う建設機械・社用車の修理を外注 | × | × | 自社でその修理を業として行っている場合を除き、原則として対象外。 |
| カタログ品(規格品)の資材の購入 | × | × | 仕様を指定しない購入は「委託」に当たらない。ただし、自社向けに加工・刻印等をさせる場合は製造委託になり得る。 |
※「○」「×」は、各法律の対象になり得るか否かを示します。取適法については、さらに資本金または従業員数の基準を満たす必要があります(表6)。個別の取引の判断は、契約書の名称ではなく、実際の取引内容に基づいて行います。
⑷ 取適法の適用基準(資本金・従業員数)(表6)
取適法は、取引の内容に加え、発注側と受注側の資本金または常時使用する従業員数が次の基準に当てはまる場合に適用されます。2026年1月1日から、従業員数の基準が追加されました。
表6 取適法の適用基準
| 取引の類型 | 委託事業者(発注側) | 中小受託事業者(受注側) |
|---|---|---|
| A 製造委託・修理委託・特定運送委託、プログラムの作成(情報成果物)、運送・倉庫保管・情報処理の役務提供委託 | 資本金 3億円超 資本金 1,000万円超3億円以下 常時使用する従業員 300人超 | 資本金 3億円以下(個人を含む) 資本金 1,000万円以下(個人を含む) 従業員 300人以下(個人を含む) |
| B 情報成果物作成委託(プログラムを除く)・役務提供委託(運送・倉庫保管・情報処理を除く) ※設計図面の作成、警備、測量の再委託など | 資本金 5,000万円超 資本金 1,000万円超5,000万円以下 常時使用する従業員 100人超 | 資本金 5,000万円以下(個人を含む) 資本金 1,000万円以下(個人を含む) 従業員 100人以下(個人を含む) |
※資本金基準が適用される場合は資本金で、資本金基準が適用されない場合に従業員基準で判断します。「常時使用する従業員」は、正社員のほか、パート・アルバイトなども含み(日々雇い入れられる者を除く)、事業者単位で数えます(グループ会社は合算しません)。従業員数は、委託をした時点で判断します。
建設業の元請企業は比較的規模が大きく、下請企業が中小規模であるケースが多いため、基準を満たす取引は少なくありません。特に、増資・減資や従業員数の増減によって、取適法の適用関係が変わる可能性があります。自社と取引先の資本金・従業員数を定期的に確認することが重要です。
⑸ 一人親方・個人事業主への発注(ケース別)
ケース1:大手建設会社が一人親方に工事を発注する場合
建設工事の請負契約であり、建設業法の対象です。取適法は適用されません。ただし、従業員を使用しない一人親方への発注には、フリーランス法も適用されるため、取引条件の明示や支払期日(原則、給付を受領した日から60日以内)などを併せて確認する必要があります。
ケース2:中堅建設会社が個人の設計者に設計業務を委託する場合
請け負った建築物の設計図面の作成を個人の設計者に委託する場合、「情報成果物作成委託」として取適法が適用される可能性があります。個人事業者は、資本金にかかわらず受注側(中小受託事業者)に当たりますので、発注側の資本金が1,000万円を超える場合(または、資本金が1,000万円以下でも従業員が100人を超える場合)は、特に注意が必要です。
ケース3:建設業者が測量業者に測量業務を委託する場合
発注者から請け負った測量業務そのものを再委託する場合は、「役務提供委託」として取適法が適用される可能性があります。他方、自社が施工する工事のために必要な測量を委託する場合は、自社が使う役務の委託となり、取適法の対象外が原則です。一人親方・個人事業主の測量業者であっても同じ考え方になります。
5.建設業者が知っておくべき実務対応(取適法対応を中心に)
取適法の改正内容を理解していても、契約書や支払方法、社内体制が旧来のままでは、思わぬ法令違反に発展しかねません。企業経営者が実務上、特に意識すべきポイントを整理します。
⑴ 取引の棚卸しと「適用法令マップ」の作成
最初の一歩は、自社の外注取引を洗い出し、前記の図1・図2・表5に沿って「建設業法の取引」「取適法の取引」「どちらでもない取引」に仕分けることです。取適法の対象となる取引については、相手方の資本金・従業員数も確認し、適用の有無を記録しておきましょう。
⑵ 発注書面(4条明示)・契約書の整備
取適法の対象取引では、発注の都度、直ちに、給付の内容、代金の額、支払期日、支払方法などを、書面または電子メール等の電磁的方法で明示する必要があります。設計図面の作成委託などで、成果物の知的財産権の譲渡・許諾を含む場合は、その範囲と対価も明示します。業務範囲、仕様変更の取扱い、追加業務が発生した場合の報酬の定めについても、あらかじめ明確にしておくことが重要です。
⑶ 支払条件の見直し
🔴支払期日:給付を受領した日(役務は提供を受けた日)から60日以内に定める。検査・検収に時間がかかる場合も、60日以内に支払う必要があります。
🔴手形払等の廃止:手形はもちろん、電子記録債権や一括決済方式も、支払期日までに満額の現金を得ることが困難なものは使えません。
🔴請求書の遅れ・事務処理の遅れ・発注者からの入金遅れを理由に支払を遅らせることは、支払遅延になります。建設工事で見られる「元請が発注者から入金を受けてから下請に支払う」慣行も、取適法の対象取引には通用しません。
🔴振込手数料の天引き:相手方の了承があっても、振込手数料を差し引くと「減額」に当たります。
⑷ 価格協議への対応体制づくり
協議に応じない一方的な代金決定が禁止されたことから、取引先から価格改定の申入れがあった場合に備え、窓口の明確化、協議の実施、回答内容の記録を社内ルール化しておくことが重要です。申入れを受け入れられない場合でも、その理由を書面・電子メール等で具体的に説明することが望まれます。一律の単価引下げや、発注者の予算額だけを基準とした指値発注は、買いたたきに当たるおそれがあります。
⑸ 設計変更・やり直し・追加の費用負担
建設業において頻繁に問題となるのが、設計変更ややり直し、追加業務の費用負担です。工事の下請負(建設業法)と、設計図面の作成などの周辺取引(取適法)とでは、適用される法律が異なります。
🔴建設工事の下請負(建設業法):追加・変更工事は、着工前に書面で請負代金や工期の変更を合意することが必要です(第19条第2項)。元請の指示や都合による変更ややり直しの費用を、合意なく下請に負担させることは、建設業法違反(第19条の3など)となるおそれがあります。
🔴設計図面の作成などの委託(取適法):中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに、費用を負担せずに給付内容を変更させたり、受領後にやり直しをさせたりすることは、「不当な給付内容の変更・不当なやり直し」として禁止されています。
天候や不可抗力による遅延・追加費用についても、契約書で負担の考え方をあらかじめ定めておくことが重要です。
⑹ 社内教育と情報共有
法令への対応は、契約書や支払条件の整備だけで完結しません。実際の取引現場では、営業担当者や工事担当者の判断によって違反が生じることも少なくありません。建設工事は建設業法、周辺の外注取引は取適法というように、担当者が二つの法律の使い分けを理解できるよう、図表を使った研修や資料の共有を行うことが有効です。経営者が主導して体制整備を進めることが、取引先との信頼関係や安定経営にもつながります。
6.建設業における法令遵守に関して弁護士に依頼するメリット
取適法(旧・下請法)を含め、建設業を取り巻く法令環境は年々複雑化しています。建設業法、取適法、フリーランス法、独占禁止法などが重層的に関係するため、企業経営者自身がすべてを正確に把握し、実務に落とし込むことは容易ではありません。弁護士に相談・依頼することは、法的リスクを最小限に抑え、安定した経営を実現するうえで大きな意味を持ちます。
⑴ 弁護士への相談が法的なリスク回避に繋がる理由
建設業と取適法の関係は、一見すると単純に思えますが、実際には「取引の性質」「契約内容」「資本金・従業員数」「支払条件」など、複数の要素を総合的に判断する必要があります。これらを誤って理解したまま取引を進めると、意図せず法令違反となり、行政指導や勧告、さらには企業名の公表といった重大なリスクを負うことになりかねません。
弁護士に相談する最大のメリットは、条文の解釈だけでなく、建設業の実務や過去の事例を踏まえた具体的なアドバイスを受けられる点にあります。例えば、「この契約は取適法の対象になるのか」「この支払条件は問題ないのか」「この見積りは建設業法上問題ないか」といった実務的な疑問について、個別事情を踏まえた判断が可能となります。
また、問題が顕在化してから対応するのではなく、事前にリスクを把握し、契約書や社内ルールを整備することで、トラブルそのものを未然に防ぐことができます。これは、結果的に時間的・経済的な負担を軽減し、企業価値を守ることにつながります。
⑵ 当事務所がサポートできること
岡山香川架け橋法律事務所では、建設業を営む企業経営者の皆様に向けて、建設業法や取適法をはじめとする各種法令遵守のサポートを行っています。契約書のリーガルチェックやひな形の作成、支払条件や取引スキームの見直し、自社の取引の棚卸しと適用法令の整理など、実務に直結する支援を提供しています。
また、2026年1月1日に施行された取適法を踏まえた社内体制の整備についても、具体的な助言が可能です。営業担当者や現場担当者が判断に迷いやすいポイントを整理し、社内で共有すべきルールを明確化することで、組織全体として法令遵守を徹底するお手伝いをいたします。
さらに、万が一、取引先との間で取適法違反や建設業法違反が疑われるトラブルが発生した場合でも、交渉や対応方針の策定を含め、企業の立場に立ったサポートを行います。建設業と取適法の関係に不安を感じている企業経営者の方は、早めに弁護士へ相談することで、将来のリスクを大きく軽減することができるでしょう。
執筆者:弁護士 呉裕麻(おー ゆうま)
1979年 東京都生まれ
2002年 早稲田大学法学部卒業
2006年 司法試験合格
2008年 岡山弁護士会に登録
2013年 岡山県倉敷市に岡山中庄架け橋法律事務所開所
2015年 弁護士法人に組織変更
2022年 弁護士法人岡山香川架け橋法律事務所に商号変更
2022年 香川県高松市に香川オフィスを開所

この記事を書いた弁護士
代表弁護士 呉 裕麻(おー ゆうま)
出身:東京 出身大学:早稲田大学
労使問題を始めとして、契約書の作成やチェック、債権回収、著作権管理、クレーマー対応、誹謗中傷対策などについて、使用者側の立場から具体的な助言や対応が可能。
常に冷静で迅速、的確なアドバイスが評判。
信条は、「心は熱く、仕事はクールに。」
執筆者:弁護士 呉裕麻(おー ゆうま)
1979年 東京都生まれ
2002年 早稲田大学法学部卒業
2006年 司法試験合格
2008年 岡山弁護士会に登録
2013年 岡山県倉敷市に岡山中庄架け橋法律事務所開所
2015年 弁護士法人に組織変更
2022年 弁護士法人岡山香川架け橋法律事務所に商号変更
2022年 香川県高松市に香川オフィスを開所




