総菜で転びけが、逆転敗訴 安全管理、店に責任なし
スーパーのレジ前に落ちていた総菜の天ぷらを踏んで転び、けがをしたとして、東京都練馬区の男性(36)がスーパー大手サミット(東京)に約120万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は4日、約57万円の支払いを命じた一審東京地裁判決を取り消し、請求を棄却した。
平田豊(ひらた・ゆたか)裁判長は「レジ前に客が天ぷらを落とすことは通常想定しがたい。従業員の巡回など、安全確認のため特段の措置を講じる法的義務が、店側にあったとは認められない」と指摘した。
判決によると、男性は2018年4月、サミットストア練馬春日町店で、カボチャの天ぷらに足を滑らせて転倒し、膝の靱帯(じんたい)を損傷した。
昨年12月の地裁判決は、客が総菜をパックに詰める販売方法では、運ぶ途中で落とすことも十分想定されるとし「混み合う時間帯には安全確認を強化、徹底すべきだった」としていた。
これとは別に、神奈川県のスーパーの生鮮野菜売り場で転び、けがをした客が起こした訴訟では、東京地裁が今年7月28日に約2184万円の賠償を命じている。
スーパー店内での転倒事故の事例として、アイスクリーム、天ぷら、サニーレタスの水での3件の事例(いずれも地裁では客側の勝訴)をこの間、ご紹介してきました。そうした中、天ぷらでの転倒事故の件で高裁が逆転判決を言い渡しました。
報道によるところの判断の理由は上記のとおりですが、要するに「お店側としては客が天ぷらをレジ前に落とすことまでは想定し難いのでそのための注意義務が認められない」ということです。
アイスクリームの事件と天ぷらの事件は来店客が落としたことで他の客が転倒した事例であるところ、裁判所が店側の過失を判断するにはこれらが落ちること、落ちていることの具体的予見可能性を求めることとなります。その際、「店内のどこに落ちていたのか」も判断のための重要なポイントとなります。アイスクリーム売り場の近辺であれば、これを購入した客が落とす可能性があることの予見可能性を認めやすくなります。他方でレジの前に天ぷらが落ちていることは通常想定し難いので、天ぷらがレジ前に落ちていたとしても店側にその予見可能性を認めることは容易ではないと言えます。
すなわち、アイスクリームにしろ天ぷらにしろ、店内の売り場近辺やレジの前で落ちることが通常のことなのかを厳密に証拠に基づき検討した結果、天ぷらの事件の高裁ではそこまでの予見可能性はないと判断したものといえます。
逆に、アイスクリームや天ぷらが日ごろから床によく落ちているという事情があるようならば、当然、店側としてそのことについての具体的予見可能性があったとなりますから、法的責任は避けられません。
アイスクリームや天ぷらとは異なり、サニーレタスの水の件については、判決文を見たわけではありませんが、サニーレタスの水が垂れたことが店員による品出しの際の結果であれば、店側の責任は避けがたいと思います。店員の作業の結果に他ならず、客側が負うべきリスクとは言えません。
【追記】
上記のうち天ぷらの事件については2022年4月21日付で客側からの上告を受理しないとの最高裁の決定が出され、結果、高裁の結論が維持されるに至りました。この結論自体は妥当なものと私は考えています。