提供を中止したすしのメニューを取り扱っているかのようにテレビコマーシャルなどで宣伝したとして、消費者庁は9日、回転ずしチェーン「スシロー」を運営する事業会社、あきんどスシロー(大阪府吹田市)の景品表示法違反(おとり広告)を認定し、再発防止を求める措置命令を出した。 発表によると、同社は2021年9~12月、全国の約600店舗で実施したキャンペーンで「新物!濃厚うに包み」(税込み110円)、「冬の味覚!豪華かにづくし」(同858円)など期間限定の3商品を売り出し、テレビコマーシャルや自社のウェブサイトで宣伝した。 しかし、実際は宣伝を続けている間、店舗の9割超で提供されない時期があった。提供できなかった店舗は583店舗に上り、同庁は、実際には購入できない商品を購入できるかのように表示した「おとり広告」に当たると判断した。
(日経新聞2022年6月9日)
景品表示法は正式には「不当景品類及び不当表示防止法」といいます。法律の名称からも分かるように、過大な景品で顧客を誘引したり、不当な表示で顧客を誘引したりすることを防止するためのものです。
そのうち、不当表示の防止に関しては、優良誤認表示、有利誤認表示、誤認のおそれのある表示の大きく3つの表示規制をしています。
今回はこのうちの「誤認のおそれのある表示」のうち「おとり広告」の禁止の規定に違反したことが問題となっています。
報道によると、大々的なキャンペーン広告にもかかわらず、大半の期間、大半の店舗で該当商品が提供できていなかったのであり、消費者に対する裏切りの程度は著しいといえます。この度の措置命令は当然のことだといえます。
気になるのは、これだけの企業でありながら、内部統制がどうして働かなかったのかという点です。キャンペーンの開始前もしくは開始後、現場からはきっと相当な悲鳴が上がったことでしょう。来店客からのクレームを直接受けるのは現場に他ならないからです。
本来であればかかる現場からの声を受け、早急にキャンペーンのあり方、CMのあり方について方向性を検討し、修正が図られるべきでした。かつ、1度目のキャンペーンでこのような事態になった以上、2度目のキャンペーンではいよいよその教訓を活かすべきでした。
本件はそのような企業経営上の判断が機能しなかった事例として今後、語り継がれると思います。
なお、今回の件がいわゆる詐欺に該当しないのかが問題となります。
すなわち、十分提供できない商品をおとりにして顧客を誘引し、他の商品を提供し、その代金を受け取っているので一種の詐欺ではないかとの疑問があるのです。
この点、詐欺の成立のためには
(1)(お店側の)欺罔行為
(2)(顧客の)錯誤
(3)錯誤に基づく(代金支払いという)処分行為
(4)(1)~(3)が因果関係で結ばれていること
が要件となります。
本件では、(1)お店はキャンペーン商品がたくさんありますよ、という欺罔行為を働き、(2)顧客はこれを真実だと誤信して来店をしています。
しかし、(3)キャンペーン商品がないと知った顧客は、キャンペーン商品以外の商品を自ら注文し、その代金を支払った。
というだけです。なので、(1)、(2)と(3)の間には(4)因果関係がないため、詐欺にはならないのです。
ちょっと難しい問題ではありますが、景品表示法は上記のような詐欺にあたらないような事例についても法規制を働かせるという機能をもっているともいえます。
このように相互の法律がお互いの不足している点を補充しているということはよくあることです。