1. 工事請負契約書の重要性と目的
⑴工事請負契約書とは何か?
工事請負契約書とは、建設業において工事の発注者(施主)と受注者(施工業者)との間で交わされる基本的な契約書を指します。
建設工事は、建物の新築・改修、道路や橋梁といった土木工事など、多岐にわたる成果物の完成を目的として実施されます。
これらの工事は
- 多額の資金を要すること
- 完成まで長期間を要すること
- 多数の関係者が存在すること
から、口頭の合意だけでは不十分であり、契約内容を文書化しておく必要があります。
そして、この契約書には、
- 工事の範囲
- 工期
- 工事代金
- 代金の支払時期や方法
- 瑕疵担保責任
- 追加工事の取り扱い
などが詳細に記載されます。
こうした明文化は、契約当事者双方の合意内容を明確にし、後日の誤解や紛争を防止する役割を果たします。
そして、建設業において契約書がない、あるいは不十分であることは、紛争のリスクを高め、その結果として多額の損害を被り、企業経営に甚大な影響を及ぼす可能性があります。
このように、発注者、受注者のいずれの立場でも、契約書の有無や内容が将来的なリスク回避に直結するため、しっかりとした工事請負契約書の取り交わしは健全な経営に欠かせません。
⑵工事請負契約書の主な目的と役割
工事請負契約書は、単に取引条件を記すことだけが目的ではありません。すなわち、工事請負契約書には、権利義務関係を明確化するなど、大きく以下の4つの機能が挙げられます。
権利義務関係の明確化機能
工事内容、代金の総額や支払時期、工期や納期などを文書に明記することで、双方の認識の齟齬を防ぎます。
特に建設工事では、設計変更や追加工事が発生しやすいため、契約書に「変更時の取り扱い」を規定しておくことが極めて重要です。
紛争予防機能
工事請負契約書に限らず、契約書は「予防法務」の道具でもあります。工事遅延や代金未払いといったトラブルを想定し、損害賠償や解除権に関する条項を盛り込むことで、事前に紛争を予防することができます。
紛争解決機能
実際に紛争が生じた場合、契約書は裁判所や仲裁機関が事実関係を判断する際の証拠資料となります。
口頭合意やメールのやり取りは証拠資料として不十分な場合がありますが、正式な契約書は極めて強力な証拠能力を持ちます。
特に代金未払い、瑕疵(欠陥)修補、工期遅延といった典型的な争点では、契約書に基づく主張が結果を大きく左右します。
信頼醸成機能
契約書は単なる「証拠」にとどまらず、取引先との信頼関係を築く材料にもなります。
契約書を整備する企業は「コンプライアンス意識が高く、誠実な経営を行っている」と評価されやすく、取引先や金融機関からの信用力向上にもつながります。
特に建設業は下請関係が多層的に絡み合う業界であるため、契約書の有無が企業の健全性を示す重要な指標ともいえるでしょう。
⑶契約書が機能する具体的場面
⑵で解説したとおり、契約書の存在は、万一トラブルが発生した際に極めて大きな意味を持ちます。
たとえば次のような場面を想定してみましょう。
工期遅延
自然災害や人材不足を理由に工事が遅れた場合、損害賠償を請求できるのか、あるいは免責されるのかは契約条項によって大きく変わります。
追加工事
現場で発注者が口頭で依頼した追加工事を巡り、後日代金の支払いを拒まれた場合、契約書に「追加工事は書面での合意が必要」と明記されていれば請求が認められる可能性が高まります。
瑕疵担保責任(契約不適合責任)
建物引渡し後に欠陥が見つかった場合、その修補を誰がどの期間負担するかは契約書の記載に基づいて判断されます。
これらはすべて実務上頻発するトラブルですが、契約書を適切に作成していれば、発注者・受注者いずれの立場でも自身の権利を守ることができます。
逆に、契約書が存在しない場合や不十分な場合には、たとえ正当な主張をしても裁判所に認められにくくなり、企業として大きな損害を被る恐れがあります。
2. 工事請負契約書の法定記載事項と条項
⑴法定記載事項の詳細について
工事請負契約書については、建設業法19条で以下のとおり法定記載事項が定められています。
(建設工事の請負契約の内容)
第十九条 建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。
一 工事内容
二 請負代金の額
三 工事着手の時期及び工事完成の時期
四 工事を施工しない日又は時間帯の定めをするときは、その内容
五 請負代金の全部又は一部の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期及び方法
六 当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の申出があつた場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め
七 天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め
八 価格等(物価統制令(昭和二十一年勅令第百十八号)第二条に規定する価格等をいう。)の変動又は変更に基づく工事内容の変更又は請負代金の額の変更及びその額の算定方法に関する定め
九 工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め
十 注文者が工事に使用する資材を提供し、又は建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容及び方法に関する定め
十一 注文者が工事の全部又は一部の完成を確認するための検査の時期及び方法並びに引渡しの時期
十二 工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法
十三 工事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任又は当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置に関する定めをするときは、その内容
十四 各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金
十五 契約に関する紛争の解決方法
十六 その他国土交通省令で定める事項
約款
これら法定記載事項の記載を欠いた契約書は紛争時に大きなリスクとなります。
上記の条文にある法定記載事項を分かりやすく解説すると以下のとおりとなります。
工事内容
工事の名称、工事場所、工事の具体的な内容(設計図書や仕様書を添付することが多い)。
工期
工事の着工日と完成引渡し日を明確に記載。工期の始期終期を曖昧にすると、遅延や引渡し時期を巡る紛争が生じやすくなります。
請負代金とその支払方法
工事代金の総額、支払時期(着手金・中間金・最終金)、支払方法(振込口座や現金払い)などを具体的に明記。
遅延損害金
工期遅延が発生した場合の損害賠償額。施主、発注者側の保護だけでなく、不可抗力事由を明確化して受注者のリスクを限定する役割もあります。
瑕疵担保責任(契約不適合責任)
引渡し後に欠陥が発覚した場合の責任範囲、保証期間。特に建設工事では重大な欠陥が多額の損害を生むため、必須の条項です。
契約解除の条件
債務不履行が発生した場合に契約を解除できる条件や手続き。解除条項が曖昧だと、発注者・受注者双方に大きな不利益をもたらします。
これらの法定記載事項を契約書に盛り込むことで、建設業における取引の透明性と安全性が確保されます。
企業経営者としては、契約書にこれらの記載が欠けていないか必ず確認し、必要に応じて専門家に相談することが重要です。
⑵工期に関する条項についての補足説明
法定記載事項は上記のとおりですが、建設工事の現場では、天候不順や資材不足、発注者による設計変更など、工期に影響を与える事態が少なくありません。
そのため、工期に関する条項は特に重要です。遅延に対して違約金を課す場合もあります。
そこで、以下、これらの点についてさらに掘り下げて解説をします。
工期遅延と違約金の取扱い
契約書には「工期に遅れた場合、1日につき工事代金の○%を違約金として支払う」といった定めを設けるのが一般的です。
これは発注者にとっては工期遵守を確保する手段となり、受注者にとっては計画的な工事遂行を促す圧力となります。
しかし、注意すべきは「全ての遅延が受注者の責任ではない」という点です。
台風や地震などの不可抗力、発注者の追加指示による設計変更、支給資材の遅延など、受注者に責任がない遅延についてまで違約金を課すのは不合理です。
そのため、契約書には「不可抗力による遅延の場合は違約金を免除する」などの条項を盛り込むことが望まれます。
工期延長の規定
工期を延長せざるを得ない事由が発生した場合の取り扱いも契約書に明記する必要があります。
たとえば「発注者の指示により設計変更が生じた場合は、受注者は工期延長を請求できる」といった規定を設けることで、受注者の不利益を防止できます。
工期と違約金に関する条項は、紛争の発生頻度が高い部分であり、発注者・受注者双方にとって極めて実務的な意味を持ちます。
企業経営者としては、契約書にどのような場合に違約金が発生し、どのような場合に工期延長が認められるのかを必ずチェックすべきです。
⑶法定記載事項以外でも盛り込むべき条項
工事請負契約書には、法定記載事項以外にも重要な項目が存在します。
特に以下の点は、企業経営に直結するリスクを回避するために必須といえます。
追加工事の取扱い
建設工事では、現場の状況により追加工事が発生することが少なくありません。
契約書に「追加工事は発注者と受注者が書面で合意した場合のみ有効」と定めておくことで、代金未払いのリスクを防止できます。
安全管理と損害賠償責任
工事中の事故や第三者への損害が発生した場合の責任分担を明確にしておく必要があります。
特に企業経営者が発注者の立場であれば、現場管理の範囲を限定することで予期せぬ損害賠償責任を回避できます。
保険加入の義務付け
建設業は事故や損害のリスクが高いため、受注者に対して建設工事保険や賠償責任保険への加入を義務付けることが推奨されます。
紛争解決条項
万一トラブルが裁判に発展した場合の管轄裁判所をあらかじめ合意しておくことは、迅速な解決に直結します。
また、仲裁や調停による解決方法を定めることも考えられます。
これらの条項は、必ずしも法定記載事項ではありませんが、実務においては極めて重要です。
企業経営者が契約書を確認する際には、これらが適切に盛り込まれているかどうかを必ず確認し、不備があれば修正を依頼することが肝要です。
⑷国土交通省の標準様式と法令上の位置づけ
工事請負契約書の作成にあたっては、国土交通省が公表している「建設工事標準請負契約約款」が参考となります。
この標準約款は、建設業界における契約のひな形として位置づけられ、法令に則った形で広く活用されています。
特に、公共工事や大規模な建設業務においては、この標準版を基に契約を構成することが一般的です。
もちろん、案件によっては個別に条項を修正する必要があり、標準様式と個別契約のバランスをとることが大切です。
国土交通省のホームページには、契約書の最新版やガイドラインが掲載されており、必要に応じてダウンロード可能です。
企業が法令遵守を徹底するうえで、これらの資料を参考にすることは欠かせません。
3. 工事請負契約書の締結と注意点
⑴契約書締結の場面と流れ
繰り返しになりますが、建設業における工事請負契約書は、工事の依頼者(施主、発注者)と施工者(請負人)の間で工事の内容・範囲・代金・工期などを明確に定めるために不可欠な契約書です。
建設業は多額の費用と長期間にわたるプロジェクトを伴うため、口頭や曖昧な合意に基づいて進めると重大な紛争につながりかねません。
契約書を締結する流れは一般的に以下のように進みます。
- まず、発注者と請負人の間で工事の基本的な内容や予算の大枠について合意が形成されます。

- その後、設計図や仕様書を踏まえた詳細な見積書が提出され、工事費用・工期・支払い条件について協議されます。
- これらが整った段階で契約書の草案が作成され、両当事者が内容を確認・修正し、最終的に署名・押印をもって契約が成立します。

このプロセスにおいて重要なのは、契約書が単なる形式的な文書ではなく、後日の紛争解決において決定的な証拠となる点です。
そのため、特に「契約金額」「支払時期」「工期」「変更・追加工事の扱い」「瑕疵担保責任」などの項目については、実務に即して具体的に記載する必要があります。
⑵未締結時の罰則とリスク
工事請負契約書を締結しないまま工事を開始することは、建設業法上のリスクのみならず、民事上の大きなトラブルにつながります。
建設業法第19条では、請負契約の締結にあたり「書面による契約を行うこと」が義務付けられており、違反した場合は監督処分や営業停止命令を受ける可能性があります。
企業経営者にとっては、事業の信用や取引先との関係に直結する重大なリスクとなります。
また、契約書未締結のまま工事が進行した場合、追加工事費用や工期延長の取り扱いについて合意が不十分となり、支払いをめぐる争いが発生しやすくなります。
例えば、発注者が「追加工事は依頼していない」と主張し、請負人が「口頭で依頼を受けた」と主張するケースでは、書面がないため証拠関係が曖昧となり、最終的には裁判所で不利な判断を受ける可能性があります。
さらに、契約書がない場合には、民法の一般規定に基づいて処理されることになりますが、これでは発注者側・請負人側いずれにとっても十分な保護が得られない可能性があります。
特に企業経営者がリスクマネジメントの観点から注意すべきは、工期の遅延や瑕疵が生じた際の責任追及が困難になることです。
⑶締結時の注意点とポイント
工事請負契約書を締結する際には、単に「契約書を作成する」ことが目的ではなく、将来のリスクを見越して条項を整備することが肝心です。
以下、企業経営者が押さえておくべきポイントを挙げます。
第一に、契約内容の具体性です。
工事の範囲や仕様、使用する資材の種類・品質基準を明確に記載しなければ、完成物の品質をめぐる争いの原因となります。
また、支払いについても「前払金」「出来高払い」「竣工後の残金支払い」など、具体的な時期と金額を定めることで資金繰りの不安を防ぐことができます。
第二に、工期と遅延に関する取り決めです。
工事の進行は天候や資材調達の影響を受けやすく、工期の延長が不可避となる場合があります。
そこで、不可抗力による遅延をどう扱うか、遅延した場合の違約金をどう定めるかを明確に規定することが重要です。
第三に、変更・追加工事のルール化です。
建設業では工事の途中で設計変更や追加工事が生じることは珍しくありません。
この場合、追加工事の発注方法や費用の算定方法を契約書に盛り込んでおくことで、後日のトラブルを未然に防ぐことができます。
第四に、瑕疵担保責任や保証期間の明記です。
完成物に欠陥があった場合、どの範囲まで請負人が責任を負うのか、また保証期間をどの程度とするのかを明確にしておかなければ、完成後に長期的な紛争を抱えるリスクが生じます。
最後に、紛争解決方法の指定です。
万が一契約に関する紛争が発生した場合、調停や仲裁を利用するのか、管轄裁判所をどこに指定するのかを事前に取り決めておくことで、解決のスピードとコストを抑えることが可能です。
また、工事請負契約書には、印紙税の課税が該当する場合があります。
契約金額に応じて印紙を貼付する義務があり、これを怠ると追徴課税のリスクが生じます。
印紙の額は、契約金額ごとに異なるため、国税庁の資料や一覧表を確認することが求められます。
経営者としては、契約書の法的効力自体だけでなく、税務上の義務も同様に重視する必要があります。
4. 近年の改正と電子契約の動向
⑴近年の法改正の影響
建設業界を取り巻く契約関連法規は、近年大きな改正が相次いでおり、企業経営者にとっても無視できない影響を与えています。
特に、工事請負契約における瑕疵担保責任(契約不適合責任)や工期遅延に関する条項、契約書の形式に関して、明確化と規範の整備が進められています。
2020年代に入ってからの民法改正により、契約不適合責任の規定が従来の瑕疵担保責任から改められ、契約内容に沿った完成物の提供義務が強化されました。
これにより、建設業においても、受注者は契約書に基づき、設計や仕様通りの成果物を提供する責任が明文化され、発注者側の権利保護が強化されました。
また、建設業法や下請法においても契約書面の保存義務や明確な記載事項が求められる方向に改正されており、企業経営者は契約書の整備状況を見直す必要があります。
具体的には、工事内容、工期、代金、支払条件、追加工事や変更工事の扱いなど、契約書に明確に記載することが法令遵守の観点から重要になっています。
さらに、紛争時の裁判例や行政指導も、契約書の条項を重視する傾向が強まっています。
契約書が不十分な場合、遅延や追加工事、欠陥対応の責任範囲で不利な判断を受けるリスクが高まるため、経営者は最新の法改正に対応した契約書の見直しを行う必要があります。
⑵電子契約の可否と利点
近年、建設業においても電子契約の導入が注目されています。電子契約とは、紙の契約書に代わり、電子署名やクラウドサービスを用いて契約締結を行う方法です。
電子契約は民法上、電子署名法や電子契約法に準拠していれば、紙の契約書と同等の効力を持ちます。
建設業における契約書でも、法定記載事項を満たし、電子署名が有効であれば、電子契約による締結が可能です。
電子契約の最大の利点は、契約書の保管・管理の効率化にあります。従来の紙契約書は大量の保管スペースを必要とし、検索や内容確認にも時間を要しましたが、電子契約であればクラウド上で安全に保管でき、必要に応じて即座に確認できます。
さらに、遠隔地の取引先とも即時に契約を締結できるため、業務のスピードアップやコスト削減につながります。
加えて、電子契約は改ざん防止や履歴管理が容易であり、トラブル発生時には契約の真正性や締結日時を証明しやすい点も大きなメリットです。
建設業の現場では、複数の下請業者や資材供給業者との契約が重なるため、電子契約を活用することで、契約管理の透明性と安全性を確保できます。
⑶グレーゾーン解消制度とその適用
建設業界では、法的な解釈が不明確な契約手法や慣行が存在する場合があります。
例えば、追加工事や設計変更の扱い、支払条件の曖昧な契約条項などは、後日の紛争時に問題となりやすい領域です。
これに対応する制度として「グレーゾーン解消制度」があります。
グレーゾーン解消制度は、国の行政機関が特定の契約方法や条項が法律上許容されるかどうかを事前に判断する仕組みです。
これにより、企業は不確実性を抱えたまま契約を結ぶリスクを回避できます。建設業においては、契約書に関する疑義を事前に相談し、行政見解を得ることで、将来の紛争や行政指導のリスクを低減できます。
この制度の適用例としては、電子契約の方式が建設業法の要件を満たすかどうか、契約書に含めるべき条項の適法性、追加工事費用の請求方法などがあります。
経営者は、電子契約や新しい契約条項を導入する際に、グレーゾーン解消制度を活用することで、法的リスクを事前に評価し、安全に契約を締結することが可能です。
5. 契約書トラブルを弁護士に相談、依頼するメリットについて
建設業における工事請負契約書は、企業経営者にとって非常に重要なリスク管理ツールです。
しかし、実際の現場では契約書の不備や認識の齟齬、予期せぬトラブルが発生することがあります。
工事請負契約書は専門性が高く、企業経営者が自ら作成するのは難しい場面も多いです。
そのため、弁護士や建設業向けコンサルタントのサポートを受けることが推奨されます。
企業経営者向けのセミナーを受講することもお勧めです。契約書の基礎から最新の法改正まで学ぶことができ、実務に直結する知識を習得できます。
弁護士に相談・依頼することは、企業にとって多くのメリットがあります。
本項では、具体的なメリットや弁護士活用の意義について詳しく解説します。
(1) 法的リスクの早期把握と回避
工事請負契約書に関するトラブルは、代金未払い、工期遅延、追加工事の費用負担、瑕疵担保責任など多岐にわたります。
契約書の条項が不十分な場合、発注者・受注者双方の立場で法的リスクが高まります。
弁護士に相談することで、契約書の内容が最新の法規制や判例に照らして適正であるかを評価できます。
例えば、瑕疵担保責任の期間設定や工期遅延の免責条項、違約金の算定方法など、専門家の視点で条項をチェックすることにより、将来の紛争リスクを事前に回避できます。
さらに、契約書の修正案や条項の追加を弁護士が提案することで、契約締結前の段階でトラブルの芽を摘むことが可能です。
特に建設業のように多額の資金と複雑な工事工程を伴う業界では、初期段階で法的リスクを把握することが、経営上の損失回避につながります。
(2) 紛争発生時の迅速かつ適切な対応
契約書に関するトラブルが発生した場合、弁護士に依頼することは迅速な問題解決に直結します。
たとえば、工期遅延や代金未払いなど、双方の主張が対立する場合でも、弁護士は法的根拠に基づき交渉を行い、紛争の早期解決を図ることができます。
具体的には、次のような対応が可能です。
示談交渉
裁判に至る前に、双方が納得できる条件で合意を形成するための交渉を行います。その際には内容証明郵便の送付をすることで、相手方に正式な請求や通知を行う手段として活用できます。
裁判・仲裁対応
万一交渉で解決できない場合には、訴訟や仲裁手続きを代理し、権利保護を図ります。
このように、弁護士に依頼することで、単なる書面上の請求だけでは難しい紛争解決が可能となり、企業経営者は時間や労力を節約しつつ、事業運営に集中できます。
(3) 企業経営者にとっての安心感と戦略的活用
弁護士に契約書の作成・レビューや紛争対応を依頼する最大のメリットは、企業経営者にとっての心理的な安心感です。
建設業では、下請業者や資材供給業者、施主など複数の利害関係者が関与するため、契約書の不備が後々大きなトラブルに発展することがあります。
専門家の助言を受けることで、契約条項の不備やリスクを事前に洗い出し、修正・追加を行えます。
これにより、万一トラブルが発生しても、冷静かつ戦略的に対応でき、経営判断に必要な情報を得ることが可能です。
また、弁護士に依頼することは単なる防御策ではなく、交渉力を高める「戦略的手段」としても有効です。
契約締結前に弁護士の意見を取り入れることで、契約条件の調整や不利な条項の回避が可能になり、企業にとって有利な条件での取引を実現できます。
(4) コスト削減と時間効率の向上
弁護士に依頼することで、長期的なコスト削減にもつながります。
表面的には弁護士費用が発生しますが、契約書の不備や紛争による損害賠償、工期遅延による追加費用などを考慮すれば、初期段階で専門家を活用することは結果的に経営コストを抑えることになります。
さらに、弁護士による文書チェックや交渉代行により、経営者自身が契約書の細部まで確認する手間を省けるため、業務効率も向上します。
特に複数のプロジェクトが同時進行する建設業においては、時間の節約は経営資源の最適化に直結します。
6.まとめ
工事請負契約書に関するトラブルは、企業経営者にとって大きなリスクとなり得ます。しかし、弁護士に相談・依頼することで、
法的リスクを事前に把握・回避できる
紛争発生時に迅速かつ適切に対応できる
契約締結前に有利な条件で交渉できる
長期的なコスト削減と時間効率の向上が図れる
といったメリットがあります。建設業における契約書は、単なる形式的な書類ではなく、事業の安全と信頼性を確保する重要な経営資源です。
契約書トラブルに直面する前に専門家の助言を活用することで、企業経営者は安心して事業を推進できるでしょう。

この記事を書いた弁護士
代表弁護士 呉 裕麻(おー ゆうま)
出身:東京 出身大学:早稲田大学
労使問題を始めとして、契約書の作成やチェック、債権回収、著作権管理、クレーマー対応、誹謗中傷対策などについて、使用者側の立場から具体的な助言や対応が可能。
常に冷静で迅速、的確なアドバイスが評判。
信条は、「心は熱く、仕事はクールに。」
執筆者:弁護士 呉裕麻(おー ゆうま)
1979年 東京都生まれ
2002年 早稲田大学法学部卒業
2006年 司法試験合格
2008年 岡山弁護士会に登録
2013年 岡山県倉敷市に岡山中庄架け橋法律事務所開所
2015年 弁護士法人に組織変更
2022年 弁護士法人岡山香川架け橋法律事務所に商号変更
2022年 香川県高松市に香川オフィスを開所
