病気休職を理由とした解雇は可能?~労働問題に詳しい弁護士解説~

このコラムについて

このコラムでは、従業員が病気や怪我により休職するに至り、その後の治療経過を踏まえても復職が難しいと判断した際に、解雇退職の処置を取ることの可否やリスク、従業員とのトラブルを避けるための方法について解説しています。

人は誰でもいつ病気になるか、怪我をするかわかりません。

これは労務上の原因によるか否かを問いません。

そうした事態に対して、会社としては従業員の雇用をどの程度確保しないといけないのか、会社経営者であればいつも頭を悩ませることでしょう。

そして、雇用契約の本質が従業員から会社に対する労務の提供と、これに対する会社から従業員に対する賃金の支払いという点にあることに照らすと、「病気や怪我で働けない以上は労務の提供はできない=解雇や退職は当然」と言いたいところです。

ところが多くの裁判例では、病気休職後の「治癒の有無」や「復職の可否」、すなわち労務提供の可否について労働者に有利な判断を下しています

これは一重に雇用契約の維持を通じた労働者の生活保障にあります。

そのため、病気休職を根拠として、解雇や自然退職を検討した際には、後に不当解雇などと争われ敗訴することを避けるために、こうした裁判例を事前に十分検討し、理解しておくことが大切です。

当然、事案は同じではないので専門の弁護士に解説を求め、自社におけるケースでの見込みを検討することも大切です。

そこで、以下では病気休職の従業員に対する処遇について、病気休職の事情ごとに一覧性や流れを考慮し、整理しています。

病気休職の従業員の処遇にお悩みの際には、このコラムをしっかりと読んで知識を身に着け、対策をとるようにしてください。

では、さっそく見ていきましょう。

1 病気休職とは何か?

まず、以下ではそもそも病気休職とは何か、その根拠や病気休暇との違いなどについて説明をします。

(1)病気休職の根拠について

病気休職:企業において、従業員や社員が病気やけがのために一時的に勤務を休むことをいう。

病気休職とは、企業において、従業員や社員が病気やけがのために一時的に勤務を休むことを「病気休職」と呼びます。その原因が業務によるか否かは問いません。

そして、この病気休職について、実は法律上の規定は何もありません。そのため、病気休職に際してどのような処遇とするかは会社と従業員との間で決められる問題になります。

具体的には、就業規則に病気休職の規定が設けられていればこれに基づき処遇が決まることとなります。

例えば、厚労省のモデル就業規則によれば以下のように規定されています。

001018385

(休職)

第9条 労働者が、次のいずれかに該当するときは、所定の期間休職とする。

① 業務外の傷病による欠勤が〇か月を超え、なお療養を継続する必要があるため勤務できないとき 〇年以内

② 前号のほか、特別な事情があり休職させることが適当と認められるとき 必要な期間

2 休職期間中に休職事由が消滅したときは、原則として元の職務に復帰させる。ただし、元の職務に復帰させることが困難又は不適当な場合には、他の職務に就かせることがある。

3 第1項第1号により休職し、休職期間が満了してもなお傷病が治癒せず就業が困難な場合は、休職期間の満了をもって退職とする。

また、仮に就業規則に病気休職の規定がなくても、使用者と労働者との合意により休職とするケースもあります。

そして、病気休職に至るのは、病気休職期間が数ヶ月など長期に及ぶようなケースです。そこまで至らないケースでは有給休暇の利用などにより対処することも少なくありません。

弁護士 呉 裕麻
弁護士 呉 裕麻

病気休職は、①就業規則で規定するかもしくは、②使用者と従業員で合意により決めるかという問題です。したがって、まずは就業規則の有無や内容をご確認ください。

(2)病気休職の機能や役割

ところで、病気や傷病により業務に耐えない状況となれば、労務の提供ができないものとして普通解雇事由となるのが通常です。

すなわち、多くの企業では、就業規則に労務の提供ができない場合を普通解雇事由と定めています。

そして、厚労省のモデル就業規則では病気休職に関して普通解雇にて以下のように定めています。

001018385-1

(解雇)

第53条 労働者が次のいずれかに該当するときは、解雇することがある。

③ 業務上の負傷又は疾病による療養の開始後3年を経過しても当該負傷又は疾病が治らない場合であって、労働者が傷病補償年金を受けているとき又は受けることとなったとき(会社が打ち切り補償を支払ったときを含む。)。

④ 精神又は身体の障害により業務に耐えられないとき。

しかし、この病気休職規定があることにより、病気等になったとしても直ちに解雇とせずに猶予を設けることで、従業員の身分を保障する機能を持ちます。

このことから、病気休職は解雇猶予制度だと言われることがあります。

そして、かかる病気休職は、最近では多くの企業に就業規則上の定めがされる傾向にあります。

ただし、その具体的な期間の定め方などは会社の実情に照らし、慎重に定めておくことが重要です。

そうしないと病気休職規定を活用し、いつまでも休職を続け、繰り返されるケースが生じかねないからです。

また、病気求職中の賃金は、「ノーワークノーペイ」の原則から無給となります。

なお、病気休職を繰り返した従業員との雇用問題が紛争に展開した事例についての解決事例は、以下からご参照ください。

また、就業規則の定め方の注意点などは以下の記事をご参照ください。

弁護士 呉 裕麻
弁護士 呉 裕麻

病気休職は解雇猶予のためのものです。これにより離職を防ぐ効果があります。

そのメリットを踏まえ、多くの企業で取り入れられています。ただし、賃金の支払い義務は生じません。もっとも、従業員としての地位はあるので社会保険料の負担は生じます。

(3)病気休職と病気休暇の違いについて

以上の病気休職と似て非なるものとして「病気休暇」があります。

病気休暇は、病気休職と異なり、企業が任意で定める「特別休暇」の一部として位置付けられます

この特別休暇には、介護休暇、産前産後休暇、慶弔休暇などがあり、従業員に対する福利厚生として機能しています。

かかる病気休暇も、その利用の可否は病気休職と同様に会社にかかる規定が設けられているか否かによるので、まずは就業規則にかかる規定を設けているかどうかを確認するようにしてください。

なお、病気休暇の採用率としては、約23%との調査結果があります。

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また、病気休暇の際に賃金を保証するか否かも就業規則によるところ、民間企業について、統計上は病気休暇を採用している企業のうち約30%の企業は有給としているとのことです。

他方で、国家公務員の場合には90日間は病気休暇による場合でも賃金が支払われ、地方公務員でも同様のケースが多くなっています。

なお、厚労省のモデル就業規則では病気休暇について以下のように定めています。

001018385-2

(病気休暇)

第31条 労働者が私的な負傷又は疾病のため療養する必要があり、その勤務しないことがやむを得ないと認められる場合に、病気休暇を〇日与える。

弁護士 呉 裕麻
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病気休暇は主に公務員の場合に強い身分保証として機能します。民間の場合には、賃金の補償をするか否かは任意であり、そのため無給の場合には病気休職とほぼ同じ意味を持ちます。

(4)病気休職の原因について

以上の病気休職について、業務外での病気や怪我が原因のもの「私傷病休職」といいます。

他方で、業務が原因で病気やけがを負った場合、労働基準法や労災保険法に基づき、特別な保護が提供されます。

これを「業務起因休職」と呼びます。

私傷病休業:業務外での病気や怪我が原因の休職

業務起因休職業務が原因で病気やけがを負った場合の休職

私傷病休職と、業務起因休職とでは、利用できる保険の内容や解雇制限の規定の有無など扱いに違いが生じるため、いずれが原因となるのかをしっかりと確認することが大切です。

また、傷病名によっては、私傷病休職なのか、業務起因休職なのかを巡り争いとなることもありますので注意が必要です(とりわけうつ病などのメンタル疾患の場合に争いになる傾向にあります)。

この点に関しては、⑼福田工業事件にて業務起因休職か否かが争われた事例をご紹介していますので、ご参照ください。

弁護士 呉 裕麻
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病気休職の原因となる傷病の発生が業務によるか否かでその後の手続きや補償の内容、解雇の可否が変わるのでその見極めが非常に重要となります。

2 病気休職の際の会社の対応は?

病気休職は、従業員の健康と安全を守るための重要な制度です。

そのため、病気休職規定を設けた企業は、従業員が病気休職を必要とする際に適切な対応を行う義務があります。

そこで以下、私傷病休職業務起因休職の場合の会社がとるべき対応について詳しく解説します。

(1)私傷病休職の場合

① 診断書の提出

私傷病休職を利用する際、従業員に対しては医師の診断書を提出するよう求めることができます。

これは、病気休職規定の適用の可否を判断するための必須の前提となります。

したがって、診断書には、病名、治療内容、休職期間が明記されている必要があります。

企業としては、従業員から診断書の提出がされた以上は、その内容によほどの疑義がない限り、病気休職を認めることになります。

他方で、休職の当否を認めるために特定の病院への受診を命ずることの可否が争われた事例もありますのでご参照ください。

(⑴懲戒処分無効確認請求事件〔帯広電報電話局(NTT)事件〕)

② 休職期間の設定

診断書の提出を受けた企業は、就業規則に基づいて休職期間を設定します。

これは、診断書に記載された療養に必要な期間を基に決定することとなります。

ただし、診断書に長期的な休職が記載されている場合には、休職期間の途中にも従業員に傷病の状況の報告を求め、追加で診断書の提出を求めることも必要です。

③ 休職期間中の対応

休職中の従業員に対して、企業は以下のような対応を行います。

連絡の維持


定期的に従業員と電話やメールで連絡を取り、治療の進捗状況や復職の見込みを確認します。

復職準備


従業員が復職できるよう、必要な準備や支援を行います。たとえば、業務内容の見直しや職場環境の整備などが含まれます。

④ 復職の際の対応

従業員が復職する際、企業は次のような対応を行います。

健康状態の確認

復職前に再度医師の診断書を確認し、従業員の健康状態を把握します。

これにより当該傷病が復職可能な程度に「治癒」したと認められるかを確認することとなります。

場合によっては、主治医以外の産業医の診断を求めることも必要です。

そして、産業医の診察を求めることは、職場復帰の可否を判断するために重要なことから、従業員はこれを拒否することはできません。

業務内容の調整

必要に応じて、業務内容や勤務時間の調整を行い、従業員が無理なく復職できるよう配慮します。

場合によっては、従前の業務と異なる業務への配置転換を検討します。

これは従業員に対する雇用確保のための配慮であり、かかる配慮を欠くと後に争われた際に不利な結論を導く傾向があります。

この点に関しては、負担軽減措置をとること、残業が少ない部門に配置することも可能だったなどを理由に、休職期間満了に伴う退職を無効とした裁判例があります。

(⒁地位確認等請求事件〔キヤノンソフト情報システム事件〕)

弁護士 呉 裕麻
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傷病を抱えた従業員は、心身の不調から上記の会社とのやりとりがスムーズにいかないこともあり得ます。その時には従業員に対する配慮もしつつ、必要な手続きをしっかりと行うこととなります。

(2)業務起因休職の場合

業務が原因で病気やけがを負った場合、企業は労働基準法や労災保険法に基づいて特別な対応を行う必要があります。

以下、解説します。

① 労災保険の申請

業務が原因で病気やけがを負った従業員は、労災保険の対象となります。

企業は、従業員が労災保険の給付を受けられるよう、必要な手続きをサポートします。

② 休職期間の設定

業務起因休職の場合も、休職期間は医師の診断書に基づいて設定されます。

企業は、労働基準法や就業規則に従い、適切な休職期間を設定します。

また、長期的な治療が必要な場合は、定期的に診断書を更新してもらうことが必要です。

③ 休職期間中の対応

休職中の従業員に対して、企業は以下のような対応を行います。

連絡の維持

定期的に従業員と連絡を取り、治療の進捗状況や復職の見込みを確認します。

労災保険のサポート

労災保険の給付がスムーズに行われるよう、必要なサポートを提供します。

④ 職場の改善

業務起因休職の原因となった職場環境や職務内容の改善も重要です。

企業は、再発防止のために以下のような対策を講じることも検討の余地があります。

リスクアセスメント:職場環境や業務プロセスを評価し、リスクを特定します。

安全対策の強化:リスクを軽減するための安全対策を強化し、従業員の安全を確保します。

⑤ 復職後の対応

従業員が復職する際、企業は次のような対応を行います。

健康状態の確認

復職前に再度医師の診断書を確認し、従業員の健康状態を把握します。

業務内容の調整

必要に応じて、業務内容や勤務時間の調整を行い、従業員が無理なく復職できるよう配慮します。

弁護士 呉 裕麻
弁護士 呉 裕麻

休職の原因が職場内におけるストレスなどを原因としたメンタル不全の場合には、従業員が連絡を拒否し、会社とのやりとりに問題が生じることもあり得ます。

場合によっては会社からの連絡自体をパワハラ、ハラスメントだと主張するケースもあります。

しかし、会社としては必ず従業員と連絡をとり、診断書などの資料の提供を受けられるように進めることが必要です。もし従業員とのコンタクトに難しい面が生じたら弁護士への相談をご検討ください。

3 休職期間が満了した際の対応は?解雇は可能か?

企業経営者にとって、従業員が病気で休職した後の復職の可否の判断は非常に難しい問題です。

特に、休職期間が満了した際に自然退職とできるのか、もしくは解雇が可能なのかについては慎重な検討や判断が必要です。

そこで、以下、ケースごとに休職期間満了後の対応について解説をします。

(1)私傷病休職の場合

私傷病休職の場合には、休職期間が満了しても従業員が復職できないとなると、企業としては自然退職もしくは普通解雇を検討することができます。

この点、病気休職期間が満了した後に治癒せず、復職ができない場合には自然退職とするのか、もしくは普通解雇にするのかは就業規則の規定によります。

すなわち、休職期間経過後に復職できない場合には自然退職すると規定していれば退職に、普通解雇とすると規定していれば解雇になるのです。

とはいえ、いずれのケースであっても、きちんと休職期間を設け、診断書や本人の説明、これまでの業務や配置転換可能な代替業務について確認の上で、それでも復職が不可とのことであれば自然退職、解雇が可能です。

そしてこのような手続き、段取りを経た場合には、これら自然退職、解雇の効力が覆ることはまずあり得ません。

というのも、雇用契約における労働者の本質的な義務である労務の提供が不可能である以上は、企業が雇用契約を維持する義務はないからです

弁護士 呉 裕麻
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病気休職後の退職は、自然退職であっても解雇であっても本人の心身の不調から労務を提供できないための退職となります。

それゆえ、退職事由としては「本人都合」「自己都合」として処理することとなります。

(2) 業務起因休職の場合

他方で、業務が原因で休職している従業員に対しては、休職期間が満了しても解雇することは原則としてできません。これは、以下の理由によります。

すなわち、労働基準法第19条では、労働災害が原因で休業している労働者に対しては、休業期間およびその後30日間は解雇を禁止しているからです。

この規定は、労働災害によって休業するに至った以上、単に治療が終了したからといって直ちに解雇をすることを認めないものとし、従業員の雇用を守る趣旨です。

労働基準法

(解雇制限)

第十九条 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。

ただし、この規定の反対解釈として、治療が終了してから30日以上が経過した場合には解雇が可能です。

この点に関しては、解雇制限中の解雇予告の効力が争われた事例がありますのでそちらもご参照ください。

(⑷地位保全等仮処分命令申立事件〔栄大事件〕)。

また、治療開始後、3年が経過しても治療が終わらない場合には、1200日分の打切補償を支払うことで解雇が可能となります。

弁護士 呉 裕麻
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業務起因休職の際には、たちまちの解雇は原則許されませんが、例外もあるのでその点をお知りおきください。

4 病気休職の従業員を退職・解雇する際の注意点は?

以上のように、病気休職中もしくは治療終了後の従業員に対する処遇については、就業規則や法令に従った対応や注意が必要です。

そこで、病気休職の従業員を退職、解雇する際の注意点について以下、まとめてみました。

(1)傷病内容の確認

まずは傷病内容の確認です。

具体的にどのような傷病なのか、診断書の提出と共に本人からの説明を受けるようにしてください。

本人の説明についてはしっかりと記録に残すようにしてください。

(2)私傷病か業務起因かの判断

診断書や本人からの説明を踏まえ、当該傷病が私傷病か、業務起因かを判断します。

この点で本人と会社の言い分が異なることとなると、労災保険の適否を巡り争いとなる可能性が生じます。

(3)休職期間の決定

当該傷病内容や治療の見込みを踏まえ、休職期間を設定します。

病気休職の場合には就業規則に規定のある範囲で設定をしてください。

(4)保険の適用

私傷病の場合には、健康保険に基づきし傷病手当を利用してもらうようになります。

他方で、業務起因の場合には労災保険の利用をするようになります。

(5)治療状況の確認

休職後は、適宜のタイミングで会社から従業員に連絡をとり、体調や治療状況、症状を確認するようにしてください。

当然、その内容はきちんと記録に残し、個人情報に配慮の上で社内の必要な部署にて共有するようにしてください。

(6)復職の可否の検討

休職期間を経たら、復職の可否を検討することとなります。

その時点での診断書を改めて従業員から提出してもらい、また、症状や復職の可否、意向について本人からヒアリングするようにしてください。

診断書の内容などを踏まえて復職が可能と判断した際には、復職を認めてください。

必要に応じ、復職当初は時短勤務や業務負荷を下げての対応も検討してください。

(7)自然退職、解雇の判断

従業員本人からの説明を経ても、復職が不相当と判断した際には、自然退職、もしくは解雇としてください。

この判断に至る際には、後に争われるリスクを考慮して慎重に行うようにしてください

また、弁護士への相談も欠かさずするようにしてください。

病気休職に関する解雇の可否は、労働基準法労働契約法に基づき判断されます。

特に、労働基準法第19条では、労働災害が原因で休業している労働者の解雇を禁止しており、労働契約法第16条では、解雇が客観的に合理的な理由に基づき、社会通念上相当と認められる場合に限り有効とされています。

5 病気休職に関する重要裁判例について

以下では、病気休職に際して会社が注意すべき点について判断されてきた各種裁判例をご紹介します。

病気休職の対応や判断の参考にしてください。

  • 判決年月日
  • 裁判所
  • 処分の有効性
  • 事案の概要
  • 業種や業務内容
  • 傷病名
  • 裁判所の判断理由

昭和61年3月13日

最高裁

有効

総合精密検診を受診すべき旨を命じた業務命令が有効とされた事例

上告人…日本電信電話株式会社

被上告人…電話交換の作業

頸肩腕症候群

公社就業規則及び健康管理規程によれば、公社においては、職員は常に健康の保持増進に努める義務があるとともに、健康管理上必要な事項に関する健康管理従事者の指示を誠実に遵守する義務があるばかりか、要管理者は、健康回復に努める義務があり、その健康回復を目的とする健康管理従事者の指示に従う義務があることとされている。

被上告人に対し頸肩腕症候群総合精密検診の受診方を命ずる本件業務命令については、その効力を肯定することができ、これを拒否した被上告人の行為は公社就業規則五九条三号所定の懲戒事由にあたるというべきである。

弁護士 呉 裕麻
弁護士 呉 裕麻

会社からの受診命令の効力が肯定された事例です。休業を認めるか否かの判断に必要な限り、当然のことだと考えられます。

  • 判決年月日
  • 裁判所
  • 処分の有効性
  • 事案の概要
  • 業種や業務内容
  • 傷病名
  • 裁判所の判断理由

昭和61年5月23日

札幌地裁

無効

タクシー会社の心臓障害でペースメーカーの植込み手術を受けたタクシー運転手に対する解雇が無効とされた事例

被告:一般乗用旅客自動車運送事業等を目的とする株式会社

原告:タクシー乗務員

完全房室ブロック症状

本件解雇時における原告の心臓機能の障害は、刺激伝導路に限られた機能障害であり、本件ペースメーカーの装着により、右機能障害による心臓機能の欠陥は健常者とほぼ異ならない程度に補われたものというべきである。・・・してみると、原告の本件解雇当時における心臓機能障害が被告会社の就業規則三四条一項にいう「身体の故障により業務に耐えられない」場合に該当すると認めるのは困難である。

弁護士 呉 裕麻
弁護士 呉 裕麻

心臓機能の欠陥について、業務に支障がないと判断されたものです。傷病に対して必要な処置がされている以上はこのような判断は妥当なものと考えられます。

  • 判決年月日
  • 裁判所
  • 処分の有効性
  • 事案の概要
  • 業種や業務内容
  • 傷病名
  • 裁判所の判断理由

昭和62年12月9日

静岡地裁富士支部

有効

大型トラックの長距離運転に従事する労働者の傷病による休職期間が満了した時点において、手足のしびれ感の筋緊張症の症状が残存し、一定のならし運転期間が与えられたならば原職務に就労することが可能になったとの事実を認めることができない事情の下では、使用者に右健康状態に見合う職種、内容の業務を見つけて就労させなければならない法律上の義務があるものとはいえないことから、解雇が恣意的なものとはいえないとされた事例。

債務者…海陸運送業、運送取扱、倉庫業等

債権者…大型トラックによる長距離運転

手足のしびれ

大型トラックの長距離運転手であって、長時間の継続運転を必要とし、多大な危険性を伴う仕事であるかたわら、休職期間満了時点において、債権者には手足のしびれ感の筋緊張症の症状が残存し、自動車を運転すること自体はできないといい切れないものの、長時間にわたる運転業務に就くことは危険であると医師に診断されていたうえ、休職期間満了時から四か月余り経った時点においても、医師により、手指の巧緻運動に制限があり、右上肢に病的反射があり、右上下肢に筋萎縮があり、右握力が低下していると診断されていたものであって、かような機能の回復に一定の制限が残っている債権者の身体の状態によっては、作業中に広範な注意義務を要求され、さまざまな諸情勢に応じ、四肢を利用しての迅速かつ的確な運転操作を不可欠とする前記大型トラックの長距離運転手としての原職務について、債権者以外の他の長距離運転手と同程度に完全な労務を提供してその職務を行なうことは困難であるというべきであるから、結局、債権者は、休職期間満了時点において原職務に就労可能な状態に未だ回復していなかったものと認めざるをえない。

弁護士 呉 裕麻
弁護士 呉 裕麻

⑹賃金等請求事件〔片山組自宅治療命令事件・上告審〕が出される以前の事案で、復職先の業務を原職務に限定した事案です。現在もこの考え方が通用するとは言い切れないので現時点では参考程度に捉えるべきかと考えられます。

  • 判決年月日
  • 裁判所
  • 処分の有効性
  • 事案の概要
  • 業種や業務内容
  • 傷病名
  • 裁判所の判断理由

平成4年6月1日

大阪地裁

有効

Ⅰ労働基準法19条は、その定めの期間中における解雇そのものを禁ずる趣旨であり解雇の予告まで禁止したものではない。

Ⅱ腰痛を理由とする解雇につき、右腰痛が障害等級12級に相当する残存障害として保険給付がなされていること、右腰痛は回復し難いと診断されていること、労働者の職場が腰に相当な負担のかかる職場であること等から、解雇権の濫用に当らず有効とされた事例。

靴の修理、合鍵の作成等を業務とする会社

腰筋挫傷、腰椎椎間板障害(第五腰椎辷り症)

Ⅰ債権者は自ら腰痛の後遺障害があるとして、障害補償給付の支給を請求し、大阪中央労働基準監督署は障害等級一二級に相当する残存障害があるとしたこと、また、その根拠となった医証には債権者は回復し難い旨の記載があること、債権者代理人らによる前記復職を求める通知には、債権者は治療を要する状態であるが、一人店以外の店なら就労可能である旨の記載があることは疎明資料により認められ、これらの事実に、債務者の職場は、立ったり座ったりと腰に相当な負担のかかる職場であることを併せ考えると、債権者は債務者の職場に耐えられないといわざるをえず、右解雇を解雇権の濫用とする事情の窺われない本件にあっては、債務者に対する解雇はやむをえないと評することができる。

Ⅱ労基法一九条は、同条所定の期間中の解雇を禁ずる趣旨であり、解雇予告までも禁ずるものではないから、症状固定日から解雇の効力発生日まで三〇日間を超える本件解雇は同条に違反するものではない。

弁護士 呉 裕麻
弁護士 呉 裕麻

労基法19条にある解雇制限の解釈についても争われた事例です。同条は期間内の解雇を制限したものの、解雇予告まで制限したものではないとされました。その趣旨に照らせば妥当な判断と認められます。

  • 判決年月日
  • 裁判所
  • 処分の有効性
  • 事案の概要
  • 業種や業務内容
  • 傷病名
  • 裁判所の判断理由

平成10年3月24日

札幌地裁小樽支部

無効

脳卒中で倒れて右半身不随となり、入院治療を受けた私立高校の保健体育教諭の解雇につき、解雇時の状態が就業規則の解雇事由である「身体の障害により業務に堪えられないと認めたとき」に該当しないとして、解雇を無効であるとした事例。

被告…小樽双葉女子学園高等学校

原告…保健体育の教諭の職

右半身不随

Ⅰ体育の教員であっても、加齢により体力が落ち、体育の実技の模範を示すことが困難になることは当然に予想され、かかる場合には、生徒の一人あるいは数人に実際に実技をさせ、その良い点、悪い点を指摘するなど言葉を用いること等によって、模範となるべき実技の方法を説明するといった方法が用いられていることは公知の事実である。

Ⅱ原告においても、右のような方法をとる等の工夫をすることによって、生徒に模範となるべき体育実技の方法を説明することは可能であると認められる。

Ⅲ右のような方法を取る場合、原告の言語能力が問題となりうるが、前記認定のとおり、通常の場合であれば、原告の会話内容を理解することはさほど困難ではなく、慣れることによってさらに聞き取りは容易になると認められる。

Ⅳまた、緊急の際における対処についても、教員が適切な指示を出すことは必要であるが、必要となる全ての対処を教員一人で行うことはもともと無理であり、その点からいえば、原告においても、自らがけがをした生徒を運ぶなどの対処をすることは困難であるものの、生徒に対し適切な指示を行うことによって対処することが可能であり、緊急の際における対処の点が、原告が業務に堪えられないことの決定的要因になるものではないというべきである。

弁護士 呉 裕麻
弁護士 呉 裕麻

体育教諭という立場において、後遺障害を負った場合に、雇用主がどの程度雇用確保のために配慮をすべきかが争われた事例です。雇用主からすればかなり厳しい判断だと考えざるを得ない事案です。

  • 判決年月日
  • 裁判所
  • 処分の有効性
  • 事案の概要
  • 業種や業務内容
  • 傷病名
  • 裁判所の判断理由

平成10年4月9日

最高裁

無効

職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合、疾病のためその命じられた業務のうち一部の労務の提供ができなくなったときでも、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易に照らして当該労働者が配置される現実的可能性のある他の業務があり、労働者がその業務に労務提供をすることを申し出ていれば、債務の本旨に従った履行の提供があると解すべき事案

被上告人…土木建築の設計、施工、請負等

上告人…建築工事現場における現場監督業務

バセドウ病

上告人は、被上告人に雇用されて以来二一年以上にわたり建築工事現場における現場監督業務に従事してきたものであるが、労働契約上その職種や業務内容が現場監督業務に限定されていたとは認定されておらず、・・・事務作業に係る労務の提供は可能であり、かつ、その提供を申し出ていたというべきである。そうすると、右事実から直ちに上告人が債務の本旨に従った労務の提供をしなかったものと断定することはできず、上告人の能力、経験、地位、被上告人の規模、業種、被上告人における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして上告人が配置される現実的可能性があると認められる業務が他にあったかどうかを検討すべきである。

弁護士 呉 裕麻
弁護士 呉 裕麻

職種限定をしていない以上は、傷病を負った際の原職務と異なる業務について復職の余地があるかを厳しく判断した事案です。この裁判例を踏まえると、復職時に会社としては、会社の実情を踏まえたあらゆるポストでの復職の可否を真剣に検討しておくことがポイントとなります。

  • 判決年月日
  • 裁判所
  • 処分の有効性
  • 事案の概要
  • 業種や業務内容
  • 傷病名
  • 裁判所の判断理由

平成10年5月13日

大阪地裁

無効

尿路結石や風等で欠席がちだった労働者に対する解雇が、当該労働者は身体虚弱で業務に耐えられないとまでは認められないとして無効とされ、かつ、右労働者の欠勤が病気欠勤制度を乱用したとまでは断定できず、会社の秩序を乱したともいえないとされた事例

牛乳、乳飲料及び乳製品の製造販売等

風邪、腰痛、尿路結石、椎間板ヘルニア等

原告の病気欠勤日数は、他の従業員に比して多かったものの、病気欠勤のうちの長期欠勤の原因は、尿路結石、椎間板ヘルニア等、いずれも自己の健康管理では予防しきれない疾病で、原告が各疾病に罹患したこと自体はやむを得ないものである。

しかも各疾病はいずれも一過性のものであって、原告は、現在、そのいずれからも完治したことが認められる。

休暇の取り方には、一部において、不自然さは免れないものの、原告が病気欠勤制度を濫用したとまでは断定できないし、原告は、病気欠勤の初日には病気欠勤する旨の連絡をし、長期の病気欠勤をする際には、医師の作成した診断書を提出したのであるから、被告は、これを前提に業務の段取りを取り付けることが可能であったというべきであって、原告が、病気欠勤に起因して、被告の秩序を乱したとまではいえない。

弁護士 呉 裕麻
弁護士 呉 裕麻

職場を休みがちな従業員に手を焼いて解雇をしたものの、結論が覆ってしまった事案です。病気休職制度の利用に際しては、欠勤や有給休暇の利用なども絡んでくることから、会社からするとあらゆる方法で休みがちになる従業員に手を焼くことが多々あります。しかし、そうした場合こそ、冷静かつ客観的な判断をしないと思わぬ結果に至りかねません。

  • 判決年月日
  • 裁判所
  • 処分の有効性
  • 事案の概要
  • 業種や業務内容
  • 傷病名
  • 裁判所の判断理由

平成10年9月22日

東京地裁

有効

病状の悪化により勤務を継続することが困難となった嘱託社員の解雇が、就業規則上の解雇事由である心身虚弱のため業務に耐えられない場合に該当し、解雇権の濫用には当たらないとされた事例。

被告…東京電力

原告…被告の嘱託社員

慢性腎不全

被告は、実際には原告が出勤していないにもかかわらず、出勤したものとして扱い、賃金を支払ったり、現実に来社しなくとも、電話連絡をすれば、出勤扱いとし、欠勤控除はしない扱いとするなどの対応を取っていたが、ほとんど出社しない日が続いたため、原告は、被告の就業規則取扱規程に定める心身虚弱のため業務に耐えられない場合に該当すると認められ、本件解雇には、相当な解雇理由が存在し、かつその手段も不相当なものでなく、解雇権の濫用には当たらないといえる。

弁護士 呉 裕麻
弁護士 呉 裕麻

慢性腎不全のために労務提供に相当の困難があったことからかかる結論に至ったものと考えられます。

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平成13年6月28日

大阪地裁

有効

労働者が業務と関係ない原因によりヘルニアに罹患し、就労が長期間不能になったことが解雇事由に該当し、また、会社は同人に業務内容の変更を提案していることなども考慮すると、同人に対する解雇は解雇権の濫用にも当たらず有効であるとされた事例

プラスチック製品の製造販売

腹部ヘルニア

債権者は、業務との関連が認められない疾病により、平成九年六月一六日以降債務者での就労が長期間不可能な状態となったのであり、平成九年七月二〇日当時の債権者は、債務者の就業規則二七条一の「精神若しくは身体上の障害のため業務に耐えられないと認められるとき」に該当するといえ、本件解雇については合理的な理由があるといえる。

債務者は、平成八年一〇月二二日以降、平成九年六月二日に債権者に業務内容の変更を提示したり、同月二〇日に復職要求をするまで約八か月間債権者の欠勤要請を受け入れて来たりしていたこと、他方平成九年六月二日の業務内容の変更の提示については、債権者もこれを一旦了承していたという本件解雇に至る経緯などを総合考慮すると、本件解雇について社会通念上相当性を欠くものとはいえない。

弁護士 呉 裕麻
弁護士 呉 裕麻

腹部ヘルニアのために労務提供に相当の困難があったことからかかる結論に至ったものと考えられます。

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平成14年4月10日

大阪地裁

無効

組立工に対する解雇が、休職を命じることも配置可能な業務の有無の検討もせずになされたものであって、無効と判断された事例。

債務者…種製缶業

債権者…製缶溶接組立工

糖尿病

債務者は、平成一三年九月一三日の債権者の労務内容をみて、製缶溶接組立業務を行うことが困難であると判断し、その後、医師から入院加療が必要と診断されている原告に対し、特段休職を命じることもなく、また、使用者として、債権者の今後の就労につき、債務者において配置可能な業務があるかを検討することなく、本件解雇を行うに至っており、このような経緯からすれば、本件解雇は、合理的な理由なく行われたもので、解雇権の濫用であり無効というべきである。

弁護士 呉 裕麻
弁護士 呉 裕麻

解雇をするに際して、事前に取り得る手段を講じていないことが債務者に不利に働いた事案です。解雇をするに際しては事前の段取りや手段を尽くすことがとても大切です。

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平成17年1月19日

東京高裁

有効

頸椎症性脊髄症による長期間の休業の後、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えないとしてなされた歯科衛生士の解雇を有効とした第一審判決が維持された事例。

被控訴人:横浜市学校保健会

控訴人:小学校の歯科巡回指導を行う歯科衛生士

頸椎症性脊髄症

Ⅰ児童を座らせたり、控訴人が高い位置に座るなどの方法は、児童や控訴人の介護者に大きな負担を与え、かつ効率性を減殺させるものであって、限られた予算の中で多人数かつ多様な児童を短時間のうちに的確に検査しなければならない小学校の歯口清掃検査の遂行に支障があることは明らかである。

Ⅱ本件解雇当時、控訴人は左上肢を一時的に持ち上げることができるものの、左上肢を上げたままの姿勢を長く保持することが困難であり、左上肢を上げ下げする動作を繰り返すと左手に不随意運動が生じてしまうおそれがあることが認められるのであって、左のひじが長時間・連続的に随意的運動ないし保持ができたとは認められないことは前記認定のとおりであるところ、歯口清掃検査を的確に行うためには、右手だけではなく、左手をはじめ身体全体が的確な検査のために有機的に連動しなければならないのであって、現在の検査方法を採用したとしても、控訴人が、多様な児童の口腔内の状況を迅速かつ的確に検査できると評することはできない

弁護士 呉 裕麻
弁護士 呉 裕麻

復職に際して、雇用主側に一定の配慮が求められることは当然だとしても、その配慮をしたとしても十分な労務提供が不可な場合にはやはり労務提供はできないものとして扱われざるを得ません。この点、⑸労働契約に基づく地位確認等請求事件〔学校法人小樽双葉女子学園事件・第一審〕との違いをご理解ください。

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平成17年3月25日

神戸地裁

無効

C型慢性肝炎に罹患している原告が、C型肝炎罹患を上司に報告されたことによりプライバシーを侵害された上、解雇されるなどしたとして、共同不法行為ないし使用者責任に基づきA社、D社に損害賠償を請求した事案において、違法な解雇であって著しい違法行為であるとして、100万円の慰謝料支払等を命じた事例

被告A…労働者派遣事業等を業とする株式会社 原告…被告Aとの間で、D神戸支店を勤務先とし、医薬品の配送補助及び倉庫内でのピッキング作業等を内容とする雇用契約を締結

C型慢性肝炎

ⅠC型肝炎ウイルスは、・・・通常の日常生活において感染することはなく、・・・就業に関しては、運動強度の高い野外での肉体労働は別として一般的な労働に従事するのは支障ないと診断されていることからすれば、原告がC型肝炎に罹患していることのみを根拠として「就業に適しない」と解することは到底できない。

Ⅱ原告の病状に関する調査が一切なされておらず、C型肝炎であることのみを理由に解雇をすることは到底許されるものではなく、本件解雇はC型肝炎に対する十分な認識ないし調査もないまま一種の偏見に基づいてなされたものであり、著しく社会的相当性を逸脱した違法行為というべきである。

弁護士 呉 裕麻
弁護士 呉 裕麻

C型慢性肝炎に対する無理解から誤った結論に至った事例です。傷病内容については正確な理解とプライバシーに対する配慮を求められます。

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平成18年5月11日

札幌高裁

無効

控訴人に雇用され、重機運転手として稼働していた被控訴人が、控訴人から「近年視力の減退等に伴い車両の運転に支障が有り、当社業務に不適格」としてされた平成16年3月31日付けの普通解雇が無効であるなどとして争った事案。

控訴人…ガソリンスタンドの経営、土砂・火山灰・火山礫の採取及び販売等を目的とする株式会社

被控訴人…重機で土砂、火山灰等の採取、運搬等をする業務に従事

視力障害

*幼少時に左眼を負傷しており、その視力は、右眼が1.2、左眼が0.03(矯正不能)

Ⅰ控訴人は、重機の運転技能に問題がないと判断されて雇用された、その大型特殊免許は、平成16年2月12日に更新されている。

Ⅱ大型自動車と大型特殊自動車(重機)とでは、車両の仕様、用途ないし運転態様も、免許を受けるための適性試験の合格基準(道路交通法施行規則23条参照)も異にするのであるから、一眼につき視力障害のある被控訴人が大型免許を受けられないからといって、そのことから直ちに大型特殊免許を有する被控訴人を大型特殊自動車(重機)の運転業務に従事させることが危険であるとまでは認められない。

Ⅲ控訴人は、被控訴人の視力障害を原因とする業務不適格性を主張するが、控訴人の主張する事故が被控訴人の視力障害に起因することを認めるに足る証拠はない。 Ⅳ採用の際に視力障害について申告しなかったことが経歴詐称とまではいえない。

弁護士 呉 裕麻
弁護士 呉 裕麻

視力障害の点について経歴詐称か否かも含めて争われた事案です。また、大型自動車と大型特殊自動車(重機)の性質の違いについても検討の上で解雇無効の結論に至っています。

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平成20年1月25日

大阪地裁

無効

自律神経失調症等を理由に休職した労働者に対する休職期間満了による解雇を無効とした例

プログラマー

自律神経失調症

Ⅰ今回の復職可能との判断は、原告の独断によるものではなく、医師の診断によるものである上、原告が面談を拒否したのは、既に調停を申し立てていたためであり、被告は調停での話し合いを通じて、C医師との面談や原告本人との面談を求めることは可能であったはずであるし、他に被告の嘱託医による診断を求める等の手段を講じることも可能であったはずである。

しかるに、そのような交渉をすることなく被告は原告の復職を認めないと述べて調停を不成立としたものであり、復職の可否を判断できる状況になかったとの被告の主張は採用の限りでない。

Ⅱ被告は、復職不可との医師の意見書を提出するが、原告を診察することなく作成されたものであり、採用できない。

Ⅲ被告の主張する業務の特殊性は、主に残業の多さによるものであり、残業に耐えないことをもって債務の本旨に従った労務の提供がないということはできない。

Ⅳ負担軽減措置をとるなどの配慮をすることも不可能ではないし、残業が少ないサポート部門に配置することも可能であったはず。

弁護士 呉 裕麻
弁護士 呉 裕麻

復職の可否について、双方から診断書や意見書の提出がなされた事案です。この点、復職不可の判断のためには医師の診察が必要なことは明らかですが、会社は診察なくかかる意見書を作成してもらっている点、疑問があります。また、そもそも業務負荷が高いことについては、残業が理由なので、これを当然の前提とした判断もまた妥当ではありませんでした。

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平成24年3月9日

東京地裁

有効

休職期間満了により自然退職とされた原告が、元上司の被告からパワハラ行為を受けたため精神疾患を発症し、損害を被ったとして、被告らに対し、損害賠償を求めるとともに、被告会社に対し、地位確認及び自然退職後の賃金支払を求めた事案

ホテル業

精神疾患

原告には、平成21年3月及び4月の2か月間に・・・合計23日間、断続的な不就労状態が続いていたといえること、そして、本件診断書によれば、上記不就労状態は、適応障害が原因であるとされ、1か月半程度の自宅療養が必要とされることからみて、本件休職命令を発した・・・時点において原告が、本件就業規則20条1項(1)号にいう「業務外の傷病(私傷病)により勤務不能のため…断続的な不就労状態の日数が2ヶ月間に20日以上に達し」、「以後もその状態が継続する可能性あるとき」に該当していたことは明らかである。

弁護士 呉 裕麻
弁護士 呉 裕麻

本件では原告が主張するパワハラ行為の一部については不法行為と認定されましたが、これが労災とはされていません。そのこともあり、休職期間満了に伴う自然退職を有効と判断しました。

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平成26年2月7日

東京地裁

有効

被告の従業員であった原告が、休職期間満了による退職処分を受けたが、労基法19条1項に違反するなどとし、地位確認などを求めたがいずれも棄却された事例

被告…電気通信事業、電気通信に関するソフトウェアの開発、制作及び販売等を目的とする株式会社

原告…被告会社の社員(コンテンツ部副部長→管財部へ異動、降格)

業務外の傷病(突発性難聴、めまい症、頭痛、吐き気)

原告の退職や休職等に向けた違法な行為等があったとは認め難く、原告が発症しためまいや自律神経失調症、うつ病の発症時期や発症原因を明らかにする的確な医学的証拠はない。

診断書があるという程度では、直ちに業務起因性を肯認することは困難である。

そうしてみると、原告主張のように労基法19条1項の適用の余地があるとはおよそいえず、むしろ、原告は、就業規則の規程に基づき、休職期間の満了に伴い被告を退職したと認められるから、原告の地位確認請求及び賃金請求は、いずれもこれを肯認することはできない。

弁護士 呉 裕麻
弁護士 呉 裕麻

傷病が業務起因のものか否かが争われた事案です。診断書上はそのような記載があったものの、これだけでは不十分だとされました。その結果、自然退職として有効との判断が維持されました。

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平成27年7月29日

東京地裁

有効

私病であるアスペルガー症候群に罹患して休職していた労働者について、就業規則の定める休職期間満了時に、現実的に配置される可能性があると認められる業務について労務を提供することができ、かつ、本人がその提供を申し出ていたとはいえないから、休職期間満了をもって労働契約が終了した事案

被告…株式会社

原告…被告会社の社員(システムエンジニア→ソフトウェア開発部門→予算管理の業務)

アスペルガー症候群

原告は、本件休職期間満了日の直前になっても、依然としてアスペルガー症候群であるとの病識を欠いたままであった上、試験出社時においては、本件休職命令前から原告の上司であり、原告のほとんどの精神科の通院に付き添ってきた上司から、職場での居眠りを指摘されたり、業界誌等の閲読を促されたりした場合に、自分の考えに固執して全く指摘を受け入れない態度を示し(朝の挨拶、手帳の持参、コートの保管、寝癖、メガネの汚れ、ネクタイ等についての指導に対し、容易に応じないことについても同じ。)、指導を要する事項についての上司とのコミュニケーションが成立しない精神状態であった。さらに、試験出社中、ニヤニヤしたり、独り言を言ったりするという不穏な行動があって、周囲の同僚から苦情を受ける状態であった。原告の従前の業務である予算管理の業務は、対人交渉の比較的少ない部署であるが、指導を要する事項について上司とのコミュニケーションが成立しない精神状態で、かつ、不穏な行動により周囲に不安を与えている状態では、同部署においても就労可能とは認め難い。

弁護士 呉 裕麻
弁護士 呉 裕麻

アスペルガー症候群としての特性に対する本人の無自覚や関係する行動のために就労可能性が否定されました。会社としては、いわゆる問題社員として処遇に困ったものだと考えられます。その場合に、退職が認められて当然と捉えるのではなく、時間をかけ、適切な段取りを踏んで処分に至ることが大切です。

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平成24年4月27日

最高裁

無効

従業員が、何らかの精神的な不調のために、実在しない嫌がらせを受けているとの認識を有しており、被害に係る問題が解決されたと判断できない限り出勤しない旨をあらかじめ使用者に伝えた上で、有給休暇を全て取得した後、約40日間にわたり欠勤を続けたなどしたことを理由とした諭旨退職の懲戒処分は無効であるとされた事案

被告…電子計算機、電子計算機周辺機器等及びそれらのソフトウェアの研究開発、製造等を目的とする株式会社

原告…システムエンジニア                   

妄想性障害

精神的な不調のために欠勤を続けていると認められる労働者に対しては、精神的な不調が解消されない限り引き続き出勤しないことが予想されるところであるから、使用者としては、精神科医による健康診断を実施するなどした上で、その診断結果等に応じて、必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべきであり、このような対応を採ることなく、諭旨退職の懲戒処分の措置を執ることは、適切なものとはいい難い。

弁護士 呉 裕麻
弁護士 呉 裕麻

本件は、精神的な不調を来した従業員が欠勤を続けた結果、会社として諭旨退職処分をしたものの、他に取り得る手段があることを根拠としてかかる処分の無効が認められた事案です。本件に限らず、解雇に至るに際しては、会社として取り得る手段をとっていることが解雇の相当性判断に際して問われるので注意が必要です。

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平成27年5月28日

東京地裁

有効

本件は、⒅の事案の続きの事案で、諭旨退職が無効となったことから原告が復職を求めたところ、被告が、原告の心身の不調を理由に原告の就労申出を拒絶し、平成25年1月11日付けで休職を命じ、さらに、平成26年11月14日、休職期間が満了することとなる同月30日付けで原告の退職の手続をとる旨通知したことから、原告が、被告に対し、上記休職を命ずる命令の無効確認等を求めた事です。

⒅と同じ          

⒅と同じ

原告が、本件休職命令後、休職期間が満了するまでの間、精神科医による適切な治療を受けていたことを認めるに足りる証拠はない。そうすると、原告が本件諭旨退職処分を受けた後の平成21年7月から平成22年6月までの約1年間、株式会社fにおいて稼働していた事実や、原告本人尋問の結果を考慮しても、本件休職命令の原因となった原告の妄想性障害がなくなったことが確認され、原告が復職可能な状態になったことを認めるに足りない。

したがって、本件休職命令の休職期間が満了したことにより、本件就業規則第37条第6号に基づき、原告は自然退職し、本件労働契約は終了したことになる。

弁護士 呉 裕麻
弁護士 呉 裕麻

⒅の諭旨退職の後に復職したことを経て、会社として休職命令を経て自然退職に至った事案です。この件では会社として病気休職期間を経て自然退職にしていることから、その効力については問題なく有効とされました。

6 病気休職をする従業員の処遇に関し、当事務所にできること

企業経営者にとって、病気休職を理由とした従業員の処遇について適切に対応することは、労務管理において重要な課題です。

岡山香川架け橋法律事務所では、企業が直面する労働問題について専門的なサポートを提供しています。

具体的には、まず病気により休職せざるを得ない従業員が生じた際に、以後、会社としてどのように対処すべきかを労基法や病気休職に関する裁判例を踏まえた必要事項を助言できます。

その際、個別のご相談としてお受けすることも可能ですし、顧問契約を締結の上で対応することも当然、可能です。

また、会社が当該従業員と休職に関しての面談を行う際に立ち会うことも可能です。

その上で、病気休職期間が経過し、復職を検討するようになった際の復職の可否の判断について、従業員から提出された診断書や症状についての説明を踏まえて、あるべき会社の対応を助言可能です。

この際にも、会社と従業員の面談に同席が可能です。

その上で、当該診断書などを踏まえて「治癒」されたと認め、復職を認めるのか否かの助言をいたします。

仮に治癒されたと認めた際には、復職することとなりますが、判断を誤ると職場での雰囲気や士気、生産性に影響が生じるため、その判断は非常にリスクを伴います。

続いて、治癒を認めずになった際にも、いきなり自然退職もしくは解雇とするのではなく、退職勧奨の方法をとることも考えられます。

その場合にも退職勧奨に向けての具体的助言や面談への立ち合いなどが可能です。

さらに、自然退職や解雇の効力を争われた場合の対応について助言をし、代理人として交渉や労働審判、訴訟の対応も可能です。

当然、これらの法的紛争を避けるための助言や交渉代理をすることも可能です。

以上を踏まえ、病気休職の従業員の人事、労務上の問題でお悩みの際にはいつでもお気軽にご相談ください。


この記事を書いた弁護士
代表弁護士 呉 裕麻(おー ゆうま)

出身:東京  出身大学:早稲田大学
労使問題を始めとして、契約書の作成やチェック、債権回収、著作権管理、クレーマー対応、誹謗中傷対策などについて、使用者側の立場から具体的な助言や対応が可能。

常に冷静で迅速、的確なアドバイスが評判。
信条は、「心は熱く、仕事はクールに。」

*近場、遠方を問わずZOOM相談希望の方はご遠慮なくお申し出ください。


執筆者:弁護士 呉裕麻(おー ゆうま)

1979年 東京都生まれ

2002年 早稲田大学法学部卒業

2006年 司法試験合格

2008年 岡山弁護士会に登録

2013年 岡山県倉敷市に岡山中庄架け橋法律事務所開所

2015年 弁護士法人に組織変更

2022年 弁護士法人岡山香川架け橋法律事務所に商号変更

2022年 香川県高松市に香川オフィスを開所

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