美容外科「高須クリニック」の高須克弥院長が、衆議院厚生労働委員会での発言でクリニックの名誉を傷つけられたなどとして、民進党の大西健介議員らを提訴した。
訴えによると、民進党の大西健介議員は17日の衆議院厚生労働委員会で美容外科の誇大広告などの問題についてふれ、「テレビCMも陳腐なものが多く、皆さんよくご存じのイエス○○とクリニック名を連呼するだけのCMとか」などと発言した。
これについて「高須クリニック」の高須院長は、クリニックの名誉を傷つけられたなどとして大西議員と民進党の蓮舫代表らに対し1000万円の損害賠償と謝罪広告の掲載を求める訴えを東京地裁に起こした。
高須クリニック・高須院長「僕の方に正義がありますから。絶対に勝ちます」
これについて大西議員は、「質問の中では具体的なクリニック名は一切出しておらず、党の顧問弁護士と相談し対応していきたい」などとコメントしている。
(日テレニュース 2017年5月22日)
5月17日の厚労委員会での民進党大西議員の発言で名誉が毀損されたとして同月19日に高須クリニックが提訴したとのことです。発言からわずか2日での提訴というのは驚きのスピードですが、本件では大西議員の発言が高須クリニックの名誉を棄損したといえるかどうか、様々な論点があり、興味深いです。
(1)まず、高須クリニックは医療法人ですが、法人でも名誉棄損の対象となることは現在は争いはありません。
(2)次に、大西議員の発言が高須クリニックを指しているのか、という問題があります。
大西議員は「皆さんよくご存じのイエス○○とクリニック名を連呼するだけのCMとか」と発言していますが、高須クリニックのCMは「イエス高須クリニック」というキャッチフレーズでおなじみで、放映地域や回数、期間などに照らすと非常に多くの方に知れ渡っているCMです。
そうすると、美容外科のCMであり、「イエス〇〇」というキャッチフレーズを使っているとなると、大西議員の発言を聞いた一般人は「これは高須クリニックのことを指している」と容易に理解できるといえます。
なので、いくら「〇〇」と伏せて発言をしても、これが高須クリニックのことを指していると容易に推測できる以上は大西議員の発言は高須クリニックのことを指していることは明らかと言えそうです。
(3)最後に、大西議員の発言が高須クリニックの名誉を棄損しているかどうかです。
発言では、高須クリニックのCMのことを「陳腐なCM」としています。陳腐とは、「ありふれていて、古くさくつまらないこと。」を指しますが、これにより高須クリニックの名誉すなわち社会的評価が低下したと言えるかという問題です。
この点、陳腐という表現が高須クリニックを悪くいう表現であることは確かですが、その発言のみから高須クリニックの社会的評価も低下するかというと疑問です。
通常、社会的評価が低下したと端的に認められるのは、
ア 何らかの犯罪行為に加担しているかのような表現
イ 犯罪行為でなくても違法行為をしているかのような表現
ウ その他社会的に非難されるような行動をとっているかのように受け止められる表現
です。
アの例は、「〇〇医院は医師法に違反して、医師の資格がない者が医療に従事している」
イの例は、「〇〇医院は患者を不安にさせるような勧誘をしつこく続け、ぼろ儲けしている」
ウの例は、「〇〇医院は障害者の患者は徹頭徹尾対応しないという診察方針をとっている」
というような感じです。
これらに比較すると大西議員の発言は、高須クリニックのCMを「陳腐」と表現したものであり、これによりたちまちに高須クリニックの名誉すなわち社会的評価が低下したとまでは言い難いように思います。これを言い換えると、大西議員が「陳腐」と言っただけでは社会一般の人々の高須クリニックに対する評価は変わらないということです。
そうすると、本件で名誉棄損が成立する余地は低いのかと個人的には考えています。
ただ、名誉棄損とは別個、「名誉感情」を侵害したとしていくらかの慰謝料請求が認められる余地もあり、また民進党の立場からするとこの問題を訴訟で長引かせたくはないとの思惑もあるでしょうから、双方の歩み寄りによって早期解決もあり得るのではないかと思います。
いずれにしても名誉棄損の成立要件は非常に難しいことを十分ご理解頂ければと思います。