新型コロナウイルスを理由とした診察拒否の可否

母親が新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)が発生した病院に勤めていることを理由に、北海道旭川市の旭川医科大病院が子どもの受診を拒否したのは不当だとして、父親が吉田晃敏学長に30万円の損害賠償を求め、旭川簡裁に提訴していたことが28日、分かった。提訴は12月10日付。

(日経新聞2020年12月28日)
 
 
様々な業種で、新型コロナウイルスの感染やその疑い、緊急事態宣言対象地域への出入りを理由とした顧客へのサービス提供の拒否が行われています。
本件報道では、こうした中、クラスター発生の病院での稼働を理由として、その子どもの診察を拒否したとされています。
 
このような病院側の対応について、法律上はまず第1に医師法19条1項に定める「応召義務」に違反しないかどうかが問題となります。
医師法19条1項は、「診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」と定めているので、本件の受診拒否理由について、「正当な事由」が認められるかどうかが問題となります。また、前提として、そもそも応召義務は「誰に対する義務」なのかも問題となります。
 
まず、そもそも応召義務は誰に対する義務か、という点ですが、これは医師の国に対する義務と解されており、患者に対する義務とは解されていません。そのため、受診を拒否したことが直ちに患者との関係での「応召義務違反」とはなりません。
 
とはいえ、応召義務が患者保護のための規定との側面もあることから、受診拒否について民事上の不法行為が成立する場合には、医師に患者に対する損害賠償責任が生じることは当然です。
 
この点に関して裁判例では、「応招義務は患者保護の側面をも有すると解されるから、医師が診療を拒否して患者に損害を与えた場合には、当該医師に過失があるという一応の推定がなされ、同医師において同診療拒否を正当ならしめる事由の存在、すなわち、この正当事由に該当する具体的事実を主張・立証しないかぎり、同医師は患者の被った損害を賠償すべき責任を負うと解するのが相当」と判断しています(神戸地裁平成4年6月30日)。
 
 
そうすると、受診拒否について、「正当事由」があるかどうかが重要となります。
この点、「正当な事由」のある場合とは、医師の不在又は病気等により事実上診療が不可能な場合に限られると解される(昭和30年8月12日付医収第755号長野県衛生部長あて厚生省医務局医務課長回答)とされています。
 
裁判例では、対応できる医師の有無や対応できるベッドの有無などの事情を個別に検討した上で、正当事由の有無を詳細に認定するケースが見受けられます。
 
その上で、患者としては、応召義務違反を理由とした具体的な損害の立証も必要です。
 
 
以上を踏まえると、冒頭の件での受診拒否については、医師の不在又は病気等により事実上診察が不可能な場合とは認めがたいことから、応召義務違反が認められる可能性があると思います。とはいえ、受診拒否により具体的にどのような「損害」を被ったといえるのかが定かでなく(予約を断られた結果、他院で受診できたのかどうかや、受診拒否の結果、治療が遅れて症状が悪化したのかどうかなど)、仮にこれが認められなければ損害賠償としては認容され得ません。
 
 
 
 
 
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