労働審判対応や手続の流れについての弁護士解説

1 労働審判とは何か?

(1)労働審判とは?

会社と従業員の間で生じた労使紛争について、労働者側から労働審判の申立がされることがあります(労働審判は使用者側である会社から申し立てることも可能ですが、実情はほぼすべて労働者側からの申立となっています)。

この労働審判とは、「労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争に関し、裁判所において、裁判官及び労働関係に関する専門的な知識経験を有する者で組織する委員会が、当事者の申立てにより、事件を審理し、調停の成立による解決の見込みがある場合にはこれを試み、その解決に至らない場合には、労働審判を行う手続」のことを指します(労働審判法1条)。

そのため、労使間の紛争は広くこの労働審判の対象とすることが可能です。

また、労働審判は民事訴訟と異なり、早期解決を念頭においていることから、申立人としては申立の時点ですでに金銭解決を念頭においた話し合いでの解決を想定していることが通常です。

(2)労働審判の申立件数と申立内容の傾向について

この労働審判に関し、令和3年司法統計によれば、同年に申し立てられた労働審判総数3,609件のうち金銭を目的とするものが1,791件で、金銭を目的とするもの以外は1,818件となっています(令和3年司法統計年報)。

金銭を目的とするもの以外の大半は解雇等ですから、労働審判手続きの約半数は解雇等に関した申立となっています。

また、金銭を目的とするもののうち約7割は賃金等を巡る紛争ですから、労働審判手続きの3,4割は賃金に関する申立となっていると言えます。

(3)労働審判の特徴~迅速な手続きによる解決~

以上の労働審判手続きは、迅速な手続きにより労使間紛争を解決する制度であること(労働審判法15条)から、迅速な解決が難しいような労使間紛争は労働審判による解決には馴染みません。

すなわち、労働審判手続きは、3回以内の期日において審理を終結することとされており(労働審判法15条2項)、争点が多い、複雑、当事者が多数、事実関係が複雑な場合には労働審判によるべきでないと考えられています。

当然、申立をされた企業、会社側としても、申立に対して速やかな準備や対応が求められるという点に特徴があります。

実際、労働審判手続きは、平成18年から令和4年までに終了した事件について,平均審理期間は81.2日であり,66.9%の事件が申立てから3か月以内に終了しています(裁判所のHPより労働審判手続)。

2 労働審判が申し立てられた場合の対応とは?

労働者から労働審判の申立が裁判所になされると、裁判所から会社に申立書などと一緒に期日の呼び出し状が届きます。

民事訴訟と異なり、労働審判手続きにおいては、裁判所からは指定された初回期日への出頭を強く要請され、期日の変更にも容易には応じてもらえません。

民事訴訟であれば、裁判の初回期日は犠牲陳述による対応(民事訴訟法158条)や期日変更の対応が可能な点と大きく異なっています。

そのため、万が一、裁判所から労働審判の申立書等が届いた際には、すぐに弁護士に相談と依頼をすることが不可欠です。

その上で内容に対する答弁の準備もさることながら、会社の重要な関係者や弁護士の出頭のための日程確保をすることとなります。

この労働審判手続きの具体的な流れは事項で詳しく解説をします。

3 労働審判手続きの具体的な流れは?

(1)申し立てから初回期日まで

従業員から労働審判の申立がされると、裁判所は、その日から40日以内に第1回の期日を指定するのが原則です(労働審判規則13条)。

これは、申立日からカウントしての40日以内ということなので、実際に申立書の写しや呼び出し状が裁判所から届くころにはすでに時間が経過しており、第1回期日まであまり時間がないというケースも生じてきます。

そうして裁判所から申立書や呼び出し状などを受け取った後は、内容をすぐに精査し、答弁書の作成の準備に取り掛かることとなります。この時点で労働審判の第1回期日までに残り30日前後ということも少なくありません。

併せて前項でも解説したとおり、初回期日の変更は容易でないことから、可能な限り指定された期日への出頭確保をすることとなります。

その上で、限られた時間で答弁書を指定された期日までに提出することとなります。この期限は第1回期日よりも当然に前であり、その1週間前くらいとされることが多いです。

結果、呼び出し状が届いてから答弁書を提出するまでの期間は実質、20日前後しかないことも通常です。

そのため、この限られた期間でどれだけ充実した準備ができるかが非常に重要となります。

(2)第1回期日

労働審判は、「労働審判官一人及び労働審判員二人で組織する労働審判委員会で労働審判手続を行う」とされています(労働審判法7条)。

この労働審判官というのは、裁判官が労働事件に精通した裁判官以外の民間人から選任し、うち1名が使用者側の経験が、うち1名が労働者側の経験が豊富な人物から選ばれるのが通常です。

労働審判委員会では、申立書と答弁書を事前に周到に精査検討の上で当該労働審判手続きの進め方について評議を済ませています。

その結果、第1回期日では、申立書や答弁書にある内容を前提に、口頭で補充の質問をしたり、確認した内容を前提にあるべき解決案を双方に打診したりということが行われます。

すなわち、労働審判手続きでは、裁判手続きと異なり、初回からかなり内容に立ち入り、解決案に立ち入った上での進行が予定されているのです。

結果、使用者側としても、初回期日だから様子見程度で臨もうという態度では、労働審判委員会に圧倒され、結果、十分に自社の考えを伝えることができずに不利な結果になってしまいかねません。

そして、第1回期日で心証を示された上で、場合によってはこの期日にてすぐさま和解が成立することもあります。

そうでない場合は、第2回期日を設けることとなり、それまでに解決案を検討したり、主張や立証を補充したりすることとなります。

(3)第2回期日

第2回期日では、第1回期日を踏まえて改めて和解での解決の可否を双方に確認されます。

これが可能ということであれば和解となり、条件の再検討等が必要であれば第3回を設けることとなります。

(4)第3回期日

第2回期日を踏まえて第3回を設け、改めて和解の可否を検討することもありますが、これが無理であれば労働審判手続きとしては終結し、労働審判の言い渡しがされます(労働審判法20条)。

この労働審判は、いわば双方の主張を踏まえた労働審判委員会としての結論であり、裁判における判決に相当するような意味を持ちます。

この労働審判に不服の場合には、異議の申立が可能です(労働審判法21条)。

そして、異議申立の結果、当初から当該労働審判手続きの申立にかかる請求については、訴えの提起(裁判の申立)があったのと同様の効果が生じます(労働審判法22条1項)。

すなわち、労働審判の結果に対する不服があると、もともと裁判の手続を申し立てたのと同様の結果になり、以後、当該請求について裁判手続きに移行するのです。

4 実際の労働審判の解決の傾向はどうなっているか?

(1)労働審判で解決するケースの比率

以上のような流れで行われる労働審判については、上記のとおり、申立の時点ですでに和解による解決を念頭においていることもあり、相当多数は調停により解決しています。

具体的には約70%が調停によって解決しているのです。

労働審判制度の現状と課題

そのため、労働審判の申立がされた時点で会社側としても、調停による解決を想定しておくことが重要です。

当然、この解決については、企業が一定の金額を労働者に支払わせる内容となることが通常なので、労働審判の申立があれば大半のケースでは企業側が一定の金銭を支払って終了しているのが実情です。

この点、労働者からの申立やその内容に対して納得がいかないという会社としての立場もあると思います。

この点に関しては、最終的には労働審判での調停成立を拒否し、審判の言い渡しにより会社に有利な結論が出る見込みがどの程度あるかということをまず考える必要があります。

その上で、その審判に対して異議申立をし、民事訴訟を継続することで得られるメリットとデメリットはどの程度あるかという問題を検討することが重要です。

(2)労働審判における金銭的な解決水準~民事訴訟との比較~

労働審判は通常は金銭での解決を想定しています。そうすると、労働審判の結果、和解や審判により会社として実際にどの程度の水準の金銭を支払うかを予想しておくことはとても大切です。

その際には、労働審判で解決せず、訴訟に移行した場合にはどの程度の金銭の支払いになるかという点も併せて検討しておくことが有用です。

この点、厚生労働省による令和4年10月26日付け「解雇に関する紛争解決制度の現状と労働審判事件等における解決金額等に関する調査について」では、以下のような結果が報告されています。

平均値中央値
労働審判における調停又は審判2,852,637円1,500,000円
民事訴訟における和解6,134,219円3,000,000円

この統計からは、「労働審判手続きよりも労働関係民事訴訟の方がより高額での解決となっている」ということが言えます。

そして、労働事件に精通した弁護士としての大雑把な説明の仕方としては、「労働審判での解決は賃金月額の半年程度、民事訴訟での解決は賃金月額の1年程度」という言い方をすることがあります。

すなわち、労働審判という手続きは「労働者としても、民事訴訟によらず労働審判を選択することで、解決水準は下がるものの、早期に解決できるというメリットを選択している」ということができます。

したがって、会社としても、このような解決水準を念頭に、「労働審判により早期に(民事訴訟よりも)低い金額で妥協をするかどうか」を考えることが重要になります。

5 労働審判対応を放置するリスク

労働審判は労使間紛争を解決するための制度であり、裁判所から企業に対しては誠実な対応、迅速な対応を強く求められる手続きです。

なおかつ、労働事件という紛争類型について専門的な対応も求められます。

そのため、裁判所から届いた呼び出し状などを放置することは、答弁書提出までの期間をいたずらに消費することになり、初回期日で十分な対応ができないというリスクがあります。

いくら会社として当該申し立てに言い分や反論があっても、事前にしっかりと検討をし、提出をしないことには裁判所には伝わりません。

結果、労働審判委員会に不利な心証を持たれてしまっては元も子もありません。

すなわち、労働審判手続きを放置することはリスク、デメリットとしかいえないのです。

6 弁護士による労働審判対応

弁護士であれば、申し立てられた労働審判に対して以下のような対応が可能です。

①期日まで

申立書の内容を踏まえて会社の言い分を前提に、しっかりとした答弁書の作成と書証の準備が可能

②期日にて

労働審判委員会の心証を正確に理解、把握し、会社の置かれた状況を的確に分析が可能

③和解について

労働審判委員会の心証開示を前提に、当該事案の性質にも照らし、あるべき和解水準を検討可能

7 弁護士に依頼するメリット

以上のように、労働審判手続きは、専門性の他に迅速性も求められる手続きです。

会社のみで対応をするべきケースではなく、この分野に詳しい弁護士に依頼するメリットが大きいと言えます。

その結果、弁護士によりしっかりとした答弁書の作成や書証の作成、提出が可能となり、労働審判委員会の心証を有利に変更することが可能です。

当然、不利な水準での和解を避けることにも繋がります。

会社では、突然申し立てられた労働審判に人員や労力を割くこととなりますが、弁護士を立てることで最低限の負担で済ませることも可能となります。

8 労働審判対応については弁護士にご相談ください

労働審判は、単なる労務問題についての知識や経験だけではなく、労働審判自体の経験も問われる案件です。

また、労働審判委員会の心証を踏まえた労使間の駆け引きもまた重要になります。

そのため、労働審判の申立書や呼び出し状が届いたら急いでこの分野に詳しい弁護士へのご相談をお勧めいたします。

タイトルとURLをコピーしました