このコラムでは、企業取引上生じる債権の不払いに対し、その回収の際に必要な注意点などについて詳しくご紹介、解説いたします。
債権回収の問題に直面し、回収のタイミングや方法、解決でお悩みの際にご参考ください。
とりわけ、債権回収の際には「時効」に注意が必要です。時効にかかってしまうと中断の措置をとっていない限りその債権は消滅してしまうからです。
1 債権回収とは?
債権回収とは、債権者たる企業や個人が有する取引先企業や個人に対する債権を回収すること、支払ってもらうことです。
とりわけ、支払い期限を徒過した場合に、約束の代金当を支払ってもらう場合を債権回収と呼ぶことが多いです。
あらゆる企業や会社は、日々事業活動を行い、自社の製品やサービスの対価としてその代金を支払ってもらうこととなります。
その支払いが遅れたり、支払われないとなると事業活動に大きな影響を及ぼします。最悪の場合には自社の倒産という事態にもなりかねません。
責任ある経営者の立場からすれば、雇用している従業員の生活にも影響しかねないことから債権の不払いには細心の注意が必要です。
なお、売掛金など支払いを求める側の権利のことを「債権」と言い、これを支払う側から見た義務のことを「債務」と言います。これはいずれも同一の売掛金などについて、支払いを受ける側から見たものか、支払いをする側から見たものかの違いに過ぎないので用語の使い方にご注意ください。
2 契約書がないと債権回収はできないのか?
上記の債権回収に関し、そもそも契約書が存在しないと債権回収ができないのではないかとか、不利になるのではないかとの心配を持たれるケースがあります。
たしかに企業取引の際に、契約書をきちんと交わしていればそれに越したことはありません。
しかし、商慣習上、いちいち契約書を交わしていないことも多々あるのが実情です。
そのような場合に、「契約書がない」というだけで債権回収ができなくなるということはありません。
というのも、契約書はあくまで当事者間の契約内容を文書に残したという点に意味があるのであり、契約書がないからと言って法的にその契約内容がなかったことになる訳では無いからです。
また、契約書がなくても、発注書、注文書、見積書、請求書などの関係各書類があれば当事者間の契約の存在や内容が明らかにできます。
したがって、債権回収の際にもこれら書類に基づき請求をし、債権回収をすることは可能です。
3 債権回収の注意点・リスク
以上の債権回収に関し、当然のことですが、取引先の企業や個人が優良企業や優良顧客であればいわゆる債権回収の問題は生じません。
しかし、多くの企業では、必ずしも常にこれら優良顧客ばかりを相手にしているとは言えません。また、優良顧客もいつまでも経営が安定しているとは限りません。
そのため、債権回収の問題やリスクは、企業活動を行う上でどの企業でも考慮すべき問題だと言えます。
そして、債権回収の際の注意すべき点としては以下のとおり整理できます。
【債権回収の際の注意点】
- 不払いの兆候を早期に把握する
- 支払い延期の申し出には厳格な態度をとる
- すみやかに弁護士に相談する
- 保証人などの担保をとる
- 新たな取引を制限する
ポイントは、「債権回収は、速やかかつ厳格な態度で臨む」と表現することができます。
このことが債権の効率的かつ高額な回収に繋がります。
以上を順番に説明します。
1.不払いの兆候を早期に把握する
およそどのような取引先であっても、通常は不払いが生じる前にその兆候が現れます。
したがって、まずはその兆候を見逃さず掴み、次の行動に移してください。
不払いの兆候としては、正当な理由なく支払い延期を求めてくる、電話などで催促しても連絡が付きにくくなる、話し合いに応じようとしなくなる、事業を縮小しているなどです。
2.支払い延期の申し出には厳格な態度をとる
債務者からの支払い延期の申し入れは、多くの場合でその後の不払いに繋がります。
そのため、支払い延期の申し入れを受けた際には慎重かつ厳格な対応が求められます。
そこで、まずは支払い延期を求める理由を具体的に明らかにさせることが必要です。これができないようであればその後の不払いの可能性はかなり高いものと予想されます。
そして、説明を求める際には、具体的な経営状況を明らかにするための資料の提供も求めることが必要です。その上で最終的には、延期を認めても支払いが確保できるかどうかを判断することとなります。
3.すみやかに弁護士に相談する
上記の1、2の状態に至った際には、その時点でその後の対応やリスクに関し弁護士に法律相談をすることがお勧めです。
法律相談だけであれば相談料程度で済みますし、顧問弁護士がいる場合には顧問料の範囲内でアドバイスを受けられることでしょう。
すぐに法律相談をすることで債権回収のリスクを最大限に低下させることができます。
また、相手方が破産手続きの申し立てに入るまでに債権を回収する可能性も高まります。
この破産については、破産手続きの申し立ての結果、免責が認められてしまうと債権の回収は実現しません。
そのため、相手方が破産を取る前に回収をすることがとても大切になってきます。
4.保証人などの担保をとる
もともとの取引の際に保証人などの担保を設定していなかった場合でも、支払い延期を求められた際に保証人を入れることは可能です。
そのため、支払い延期の申し入れに対しては保証人の差し入れを求めることが有効です。
その際、会社の代表者を保証人とすることも少なくありませんが、会社の経営状態が悪化している場合には代表者もまた困窮していることが多いので、できれば代表者以外の者を保証人とすることが望ましいです。
5.新たな取引を制限する
割とありがちなのが、継続的取引や付き合いの長い取引先との関係で、支払い延期の申し入れがあったのにその後また新たな取引に応じてしまうケースです。
このようなケースでは、支払い延期を求められた取引に関し、相当確実に支払いが確保されない以上は新たな取引を行うべきではありません。そうしないことには新たな取引もまた不払いになり、雪だるま式に不良債権が膨れ上がってしまいます。
4 債権回収時の消滅時効とは?
あらゆる債権は消滅時効の対象となり、時効の完成猶予の措置を取らずに消滅時効期間が経過するともはや強制的に債権の回収をすることはできなくなってしまいます。
その意味でも「債権回収はスピードが命」と言えるのです。
では、いわゆる売掛金の消滅時効期間はどれくらいでしょうか?
結論から申し上げますと、商事債権たる売掛金債権は、5年の消滅時効の対象となります(民法166条1項1号)。
ただし、上記の民法の消滅時効に関する規定は2020年に改正がされています。なので、2020年以前に発生した売掛金債権の消滅時効は2年となりますので注意が必要です。
かかる消滅時効に対しては、時効の完成猶予の措置等をとることで延長することも可能です。
具体的には以下の方法があります。
【消滅時効の延長制度】
① 催告による時効の完成猶予(民法150条1項)
債権者から債務者に対して当該債権について支払いを求める意思表示(内容証明郵便の送付等)をしておくことで、時効の完成を催告の時点(内容証明郵便を相手方が受け取った時点)から6か月間に限り猶予させる制度です。
消滅時効は本来、上記のとおり5年ですが、その時効完成間近になってしまった場合にこの催告をしておくことで、時効の完成を逃れることができます。
ただし、この時効の完成の猶予は、半年に限られることと、繰り返しの催告は時効の完成猶予の効果をもたらさないことに注意が必要です(民法150条2項)。
② 裁判上の請求による時効の完成猶予(民法147条1項)
当該債権について、訴訟(通常訴訟)、支払督促を申し立てる、調停を申し立てることで時効の完成猶予とすることが可能となるものです。
したがって、時効が完成しそうな場合には、訴訟を起こすなどの法的手続を経ることで時効の完成を猶予することができます。
③ 強制執行等による時効の完成猶予(民法148条1項)
強制執行の手続をとることでも時効の完成猶予が可能です。
④ 仮差押え等による時効の完成猶予(民法149条)
③の強制執行以外でも、仮差押えの方法でも時効の完成猶予は可能です。
⑤ 協議を行う旨の合意による時効の完成猶予(民法151条)
以上の②から④の方法はいわゆる法的手続きによる時効の完成猶予ですが、これらとは別に債権者と債務者において協議を行う旨の合意により時効の完成猶予をすることも可能です。
この場合には、協議の対象となる権利について、協議を行う旨の合意を書面で交わしたことを条件に一定の期間は時効の完成が猶予されます。
⑥ 債務の承認による時効の更新(民法152条)
以上の時効の完成猶予とは別に、債務者が債務の存在を承認した際には、時効は「その時から新たにその進行を始める」とされています。
これは時効の完成猶予とは別に、改めて債務の承認をした時点から時効が進むこととなるものです。
この債務の承認は口頭でも構いませんが、後になって言った言わないを防ぐためには、債務の承認を内容とする書面の作成が重要です。
5 債権回収の具体的方法には何があるか?
以上を踏まえ、具体的に債権回収をするためにはどのような方法があるのでしょうか。
大きくは以下のとおり整理することができます。
- 示談交渉
- 訴訟
1.示談交渉
まず、①示談交渉についてですが、当時者が自ら直接、取引先に持ちかけて売掛金の支払いを求めることが考えられます。
自ら示談交渉を持ち掛けて任意で支払ってもらうことができれば、費用をかけずに債権回収ができるというメリットがあります。
ただし、当事者間での請求は感情的な対応となり、トラブルの原因ともなりかねません。
また、債務者からずるずると支払いを引き延ばされたり、言い逃れをされたりする可能性があるので注意が必要です。
このことは、当事者が内容証明郵便を自ら作成して送付したとしても同様です。
そのため、当時者自ら取引先からの債権回収を実現しようと思った場合には、改めて厳格な態度を貫こと、手間を惜しまず繰り返し粘り強く督促をすることが大切です。
他方で、示談交渉の時点から弁護士に関与を依頼することも可能です。
この場合には、弁護士の名義にて取引先に請求をし、内容証明郵便を送付し、支払いを求めることとなりますので当事者自らの場合以上に取引先に対して強く支払いを求めることが可能となります。
当事者からの督促や内容証明郵便の送付とは異なり、弁護士ないし法律事務所からの督促や内容証明郵便の送付ともなれば、取引先としても軽々にこれを無視することはしづらくなります。
当然、弁護士を介入している以上は、示談に応じなければ仮差し押さえや訴訟を提起されると予想するからです。
2.訴訟
次に、②訴訟による場合ですが、これは取引先が任意の支払いをしない場合に選択する余地があります。
訴訟によれば、確定判決もしくは和解の結果、判決文や和解調書に基づき強制的に支払いを受けることが可能となる余地があります。
この訴訟には、少額訴訟、通常訴訟があります。
少額訴訟は60万円以下の金銭の支払いを求める場合に使うことが可能です。
この少額訴訟は1回の期日で審理を終えることとなり、長々と裁判手続きをしなくて良いというメリットがあります。
そのため、簡易で迅速な回収を目指す観点から、少額訴訟を検討することもお勧めです。
以上の示談交渉と訴訟の方法選択ですが、相手方会社の資産状況や倒産に対するリスクの有無や程度、強制的に回収するための財産の有無などに応じて変わってくるので債権回収に詳しい弁護士にアドバイスをもらうのが賢明です。
6 債権の保全方法について
以上の示談交渉や訴訟は、結果が出るまでに時間を要することから、これらの手段に先立ち取引先に対する売掛金を確実に回収するため、裁判所の保全手続きをとることがあります。
具体的には、取引先が有する財産(土地や建物、重機、車など)や債権(預金、売掛金など)などを仮差し押さえすることとなります。
この手続きを踏んでおくことで示談交渉や訴訟のために時間がかかったとしても回収し損ねることはなくなります。
7 示談や訴訟の結果などを踏まえた強制執行について
示談の結果、支払い内容を公正証書にしたり、訴訟の結果、判決や和解で支払い内容が確定したりした場合には、その後に取引先が約束を守らなければ財産(預金や不動産など)を強制的に差し押さえすることが可能です。
これは、上記の保全手続きとは異なり、単に財産を押さえるだけではなく、実際に自分のものとして終極的に回収することを意味します。
8 債権回収の注意点におけるサポートについて
以上のように企業活動上生じる債権回収の問題については、スピードが求められること、各種法的手続きが生じ専門的知識が問われることから債権回収に詳しい専門の弁護士への相談と依頼が有効です。
当事務所であれば、相談の段階から債権回収に向けての具体的なアドバイスが可能です。
また、示談交渉の際にどのような文面で通知書を作成するかのアドバイスや、実際に示談交渉の代理をすることも可能です。
さらに、法的手続きが必要なケースか否かの見極めや、これが必要な場合の代理も可能です。
これらのアドバイスや代理を通じて、少しでも多くの債権回収を実現することをお勧めします。
この記事を書いた弁護士
代表弁護士 呉 裕麻(おー ゆうま)
出身:東京 出身大学:早稲田大学
労使問題を始めとして、契約書の作成やチェック、債権回収、著作権管理、クレーマー対応、誹謗中傷対策などについて、使用者側の立場から具体的な助言や対応が可能。
常に冷静で迅速、的確なアドバイスが評判。
信条は、「心は熱く、仕事はクールに。」
執筆者:弁護士 呉裕麻(おー ゆうま)
1979年 東京都生まれ
2002年 早稲田大学法学部卒業
2006年 司法試験合格
2008年 岡山弁護士会に登録
2013年 岡山県倉敷市に岡山中庄架け橋法律事務所開所
2015年 弁護士法人に組織変更
2022年 弁護士法人岡山香川架け橋法律事務所に商号変更
2022年 香川県高松市に香川オフィスを開所