業務命令違反による解雇は可能?問題社員の処分のための弁護士解説

業務命令違反による解雇は可能?問題社員の処分のための弁護士解説

この記事では、会社ないし上司が従業員ないし部下に対して下した業務命令に関し、その違反を根拠とした解雇ができるかどうかについて、使用者側の弁護士の観点から詳しく解説をしています。

会社としては、事業活動のために従業員に対して必要な業務命令を日々します。

仮に従業員がこれに応じなければ企業活動は維持できません。

そのため、従業員が業務命令に違反した場合には、会社として適切な処置をとる必要があります。

ただし、業務命令に違反したとしてすぐに解雇ができるかという点については注意が必要です。

というのも、日本の雇用環境や法制度ないし裁判例の蓄積の下では、ただ単に一度でも業務命令違反があれば解雇が許されるとは言い難く、不当解雇と争われ、トラブルになる可能性があるからです。

この点に関し、厚生労働省のモデル就業規則でも、「正当な理由なく、しばしば業務上の指示・命令に従わなかったとき」を懲戒解雇事由と規定しており、単なる業務命令違反を直ちには普通解雇事由、懲戒解雇事由とは捉えていない点に注意が必要です。

2 労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第53条に定める普通解雇、前条に定める減給又は出勤停止とすることがある。
④ 正当な理由なく、しばしば業務上の指示・命令に従わなかったとき。

そこで、以下、そもそも業務命令とは何か、その違反に対して具体的にどのような場合であれば解雇が可能なのか、仮に解雇が無理だとしたら他にはどのような手段をとる事が可能なのかなどについて、顧問弁護士としての経験や、各種裁判例も踏まえて詳しく解説をします。

従業員による業務命令違反でお悩みの経営者の方は、この記事を読んで、適切な対処を選択するようになさってください。

1 業務命令違反とは?

⑴業務命令違反の影響について

業務命令違反とは…

従業員が、会社や上司の指揮・命令に対して、正当な理由なくこれに従わないこと

を意味します。

会社とすれば、必要な指揮・命令に従わない従業員に対して苦慮することとなります。

社内の雰囲気は悪くなり、社員のモチベーションも下がる事でしょう。

当然、改善のための方策を考えないといけません。

⑵業務命令の根拠は?

そこで、状況を改善するために業務命令を発出することを検討するようになります。

その前提として、まず、そもそも会社や上司が従業員に対して業務命令を出せる根拠はどこにあるのかを確認しておきたいと思います。

この点、会社と従業員との間では労働契約が締結されています。

この労働契約は、労働者が労働力を提供すること、使用者がこれに賃金を支払うことを本質としています。

労働契約法
(労働契約の成立)
第六条 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。

そのため、会社は従業員に対して、必要な労働に対する業務命令を出すことが可能です。

また、労働者は、上記の労働力の提供に際して、「単に会社や上司の指示にしたがって言われたこと、業務をすればよい」とはなりません。

すなわち、労働力の提供に際しては、単に労働力を提供するだけで構わないとはならず、誠実労働義務職務専念義務にしたがったものであることが必要です。

これは具体的には、「表面上は労働力を提供している(=会社や上司の作業内容の指示には従っている)ものの、労働力提供の際の労働者の態度ないし姿勢に問題があるケース(=勤務時間中であるにもかかわらず、労働組合の組合員バッジを着用している、自分だけイヤフォンで音楽を聴きながら作業をしているなど)」などです。

会社としては、職場秩序の維持の観点から、単に労働力を提供してもらうだけではなく、従業員には誠実に労働してもらいたいし、職務に専念してもらいたいと考えるのが当然です。

そのため、服務規律としてこれらを制限することが認められるのです。

以上を整理すると…

①労働内容そのものについての業務命令

・会社は、雇用契約の本質として、従業員から労働力の提供を受けることができる
・労働力の提供を受けるために、労働内容自体についての業務命令ができる

②労働内容に附随する事柄についての業務命令

・会社は、雇用契約に付随するものとして、職場の服務規律を維持する立場にある
・服務規律を維持し、誠実に労働をしてもらい、職務に専念してもらうためにこれらに違反しないよう業務命令ができる

と、まとめることができます。

以上のように、会社や上司には、従業員に対して以上のような意味での業務命令権限があり、一定の業務を要求することができると言えるのです。

<strong>弁護士 呉 裕麻</strong>
弁護士 呉 裕麻

基本的に会社は従業員に対して広範な業務命令権限を持ちます。

しかし、それはあくまで業務そのものであるか、これに関連するものに限られる点に注意が必要です。

⑶業務命令の具体的な例や内容について

以上の業務命令の法的な根拠を踏まえ、実際の業務命令の具体的な例や内容を示すと以下のとおりです。

当然、これらはあくまで一例なので業種や業務の内容によって千差万別です。

実際のご自身の会社の実情に照らし、どのような業務命令を念頭に当該従業員との問題を考えるのか、整理をしてみてください。

例えば…

  • 会社の前の公道の清掃
  • 社内、工場の清掃
  • 交通整理(学校の教員など)
  • 懇親会の段取り
  • 出張の際の引率

⑷業務命令違反とは何を指すか?

以上のような会社ないし上司からの業務命令に対して、「正当な理由なく」これに従わないことが違法な業務命令違反となります。

したがって、会社ないし上司から業務命令がなされても、これを拒否することに「正当な理由」が存在する場合には、業務命令違反には該当しないのです。

すなわち、業務命令にも一定の限界があり、これを拒否することに「正当な理由」がある場合には、そもそも違法な業務命令違反とはならないということ、会社や上司は、雇用契約があるからと言って従業員に対して何でもかんでも「業務命令」として従業員に押し付けることはできないということです。

その意味で、業務命令違反を正当化し得る「正当な理由」とは何かを具体的に理解しておくことはとても大切です。

そこで、この「正当な理由」を整理すると、以下のとおりにまとめる事ができます。

業務命令の内容自体が違法ないし、不当な場合

違法行為や不当な行為を強要することは業務命令としても許されませんので正当理由が認められます。

例えば、業務命令と称して犯罪を犯さないと成し得ない業務を指示する場合です。

法律で禁止されていることを業務命令として強要されるいわれはないからです。

36協定に違反する残業を強いての業務命令

36協定違反も①と同様に違法行為(労働基準法違反)です。したがって、これを拒否することには正当な理由が認められます。

他にも、そもそも残業代の支払いがされていない状況での残業を強いての業務命令の場合でも同様です。

職場内にパワハラやセクハラの問題があるにもかかわらず、業務命令に従うことで、これらの被害が拡大するような場合

会社には、パワハラやセクハラを未然に防止する義務があります。したがって、業務命令に従うことでこれらの被害が拡大するような場合にはこれを拒否することに正当な理由が認められます。

なお、パワハラとセクハラに関しては別のページにも詳しく解説をしてますのでご参照ください。

これらの例にあるような場合には、いくら業務命令であったとしても、これに応じない従業員に対して懲戒処分等を下す事は違法となるので注意が必要です。

2 業務命令違反があった場合の対応や進め方は?

業務命令違反に対して取り得る対応について

以上を踏まえて、従業員が業務命令に違反した場合に取り得る対応について詳しく見ていきたいと思います。

具体的には、以下のような3つの対応が考えられます。順次詳しく解説していきたいと思います。

具体的な対応

  1. 顛末書、始末書の作成
  2. 配置転換、査定などの人事権の行使
  3. 懲戒処分(含む解雇)

⑴顛末書、始末書の作成

最初の対応として、顛末書ないし、始末書の作成を当該従業員に求めることが考えられます。

ここで、顛末書と始末書の違いについて簡単に説明すると…

顛末書: 起きた出来事の事実を経過としてまとめる文書という性質を持つもの

始末書: 起きた事実を前提として、自分の落ち度を認める反省、謝罪の意味を含める文書

と、なります。

すなわち、反省や謝罪の意図が含まれるか否かの違いがあります。

そのため、顛末書の方が責任追及の程度としては劣るものとなります。

業務命令違反に対して、まずはこの顛末書の作成を求めることが本来だといえます。

それでも業務命令違反を繰り返す場合には、当該従業員に対して反省・謝罪の意図を含める始末書の作成を求めることがふさわしいと考えられます。

これら顛末書や始末書の作成に際しては、従業員に自らの手で作成させることが望ましいです。

とりわけ始末書に関して、反省謝罪の意思に反し、会社において文案を作成するなどすると、後に強制的に書かされたとして、このことがパワハラだと争われる可能性が生じてしまいます。

⑵配置転換、査定などの人事権の行使

次に、業務命令に従わない従業員に対しては、当該業務とは異なる業務を担当するように配置転換をすることが可能です。

配置転換は、職種や職域限定がなされていなければ比較的広範に会社に裁量が認められます。

したがって、これを行うことが有効です。

その他、人事考課など査定の際に業務命令違反の事実を考慮することも有効です。

⑶懲戒処分(含む解雇)

業務命令違反の回数や内容、本人の態度等に照らし、もはや懲戒処分を付すしかないとなれば、いよいよこれらを課すことを検討するようになります。

そして、懲戒処分を検討することとなれば、戒告、譴責といった1番軽い種類の処分から検討を始め、減給処分出勤停止停職処分降格、最終的には普通解雇懲戒解雇にするかどうかを決めることとなります。

ただし、最初から解雇処分をする事は、後に解雇の効力を争われる可能性がありますので、注意が必要です。

そのため、まずは戒告や譴責から始め、それでも業務命令違反を繰り返すようであれば、徐々に重い処分を付すようにするケースが多いです。

とは言え、対象となる業務命令違反の内容が相当重大で本人に反省の姿勢も見られないような場合には、ケースによっては最初から普通解雇に伏すことも可能だとは考えられます。

この普通解雇にしたとしても、有効性が維持できるか否かの見極めは非常に難しい判断なので、必ず弁護士に問い合わせるようにしてください

<strong>弁護士 呉 裕麻</strong>
弁護士 呉 裕麻

従業員の業務命令違反の態度に対して不満を感じ、勢いで解雇に至ってしまうケースがありますが、後に争われ事件となると多額の解決金の負担を余儀なくされることもありますので注意が必要です。

3 業務命令違反で解雇する際の5つの注意点・事項

⑴業務命令違反で解雇する際のポイントについて

従業員による業務命令違反が重大で、もはや解雇以外に選択肢が考えられない場合には、以下のような5つの注意点・事項を踏まえて解雇に踏み切るようにしてください。

以下、これら5つの注意点・事項について順番に解説していきたいと思います。

5つの注意事項

  1. 業務命令の内容を明確にする
  2. 業務命令違反の事実を明確にする
  3. 業務命令違反の理由を明確にする
  4. 弁明の機会を保障する
  5. 解雇までの手続や段階を踏む

⑵業務命令の内容を明確にする

第一に重要な事は、まずそもそも業務命令の内容を明確にしておくことです。

日々の様々な業務の中で、当該業務命令が業務命令として従業員に伝わっていないこともあり得ます。

これはすなわち、ただ単に当該業務をお願いしていたに過ぎないのか、もしくは業務命令として会社や上司は考えていたのかそのことが正確に従業員に伝わっていたのかという問題です。

そもそも、業務命令が業務命令として伝わっていない場合には、これをしていなかったからとして、業務命令違反であるとは認められないからです。

非常に基本的なことですが、業務命令を業務命令として明らかにしておく事はとても重要なことなのです。

そのためには、業務命令の内容を記載した書面を交付するなどの工夫が必要です。

実際、裁判例でも会社が主張する業務命令がそもそも存在しないもしくは証拠により認定ができないとして、会社側の言い分が否定されたケースもあります。

結局、業務命令については単に口頭での指示に頼るのではなく、文書や書面、メールなど形に残る方法で行うこと、後に証明できるようにしておくことがとても大切です。

⑶業務命令違反の事実を明確にする

第二に重要な事は、上記の通り、業務命令が客観的に明らかであったとして、当該業務命令に当該従業員が違反をしたとの事実を客観的に明確にすることです。

業務命令に違反したことを客観的に明らかにできなければ、これを理由として解雇したとしても、業務命令違反がそもそもないとして争われる可能性があります。

また、裁判例では、従業員として当該業務命令を拒否したとまでは認められないとして会社の言い分を排斥した事例も存在します。

したがって、業務命令違反についても書面で証拠に残るようにしておくことが大切です

⑷業務命令違反の理由を明確にする

第三に重要な事は、当該従業員による当該業務命令に対する違反の理由を明らかにすることです。

先に説明したように、業務命令に違反したとしても、正当な理由がある場合には、業務命令違反を理由とした処分等を付す事は許されません。

そのため、どうして業務命令に違反したのかを明らかにする必要があります。

そして、従業員の主張する業務命令違反の理由がとおりそうかどうかを客観的に、法的な観点から分析することが大切です。

この分析を軽視したために、裁判になって従業員の言い分がそのまま認められ、会社として多額の賠償金を負担せざるを得なくなった事例もあるのです。

⑸弁明の機会を保障する

第四に大事な事は、解雇処分に至る前に、当該従業員に弁明の機会を与えることです。

当然にこの際、業務命令違反の理由を聴取しておく必要があります。

弁明の機会を保証しない事は、手続き保証に反するものとして解雇の効力を否定される余地が生じてしまいます。

⑹解雇までの手続や段階を踏む

第五に大事な事は、解雇に至るまでの手続や段階をきちんと踏むことです。

単に業務命令違反があったと言うだけで、いきなり普通解雇をすることは危険です。

解雇に関する裁判所の判断の傾向としては、当該解雇に至ることがやむを得ないと認められることが重要だとされているからです。

<strong>弁護士 呉 裕麻</strong>
弁護士 呉 裕麻

これら5つのポイントは、仮に後に裁判になった際にも非常に重視される要素です。言い換えると、これらのポイントを踏まえておくことで後に争われる可能性や敗訴の可能性を下げることが可能です。

4 業務命令違反に関して争われた裁判例について

業務命令違反に関する裁判例について

会社ないし上司からの業務命令に関して裁判で争われた事例は多数あります。

その中から以下のとおりいくつかの事例をご紹介します。業務命令違反による解雇の当否等に関して検討する際の参考にしてください。

■ 平成30年11月29日東京地裁判決

  • 概要
  • 裁判で争われた内容
  • 問題となった業務命令
  • 当該業務命令違反についての判断
  • 裁判の結論

電話対応における問題、チラシ配布行動に欠席、被告主催行事の引率者として業務に当たる際に自覚と責任を欠く行動がみられた原告が、勤務状況が著しく不良として普通解雇された事例。

普通解雇の有効性

原告は、専従役員(執行委員)時代に、被告主催行事のほか、中央本部の役職員が中核的役割を担うべき団体行動やチラシの配布活動等で、無責任で無自覚な態度に終始していた。

例えば…

  1. 特定の地区本部等の電話を意図的に無視する
  2. 本件雇用契約締結前の専従役員時代のチラシ配布にたびたび遅刻していた
  3. 引率者として参加した活動で、空港での集合時に一人で飛行機のチェックインを済ませてしまったため、参加者と円滑に落ち合うことができなかった、現地での空き時間の大半を自由時間とし、参加者の食事や観光等に特段配慮することもなく、参加者相互の交流を図ろうとしなかった、帰路には、飛行機のオーバーブッキングに協力するためとして、無断で飛行機の便を変更して参加者と行動を共にせず、1万円のキャッシュバックを得た
  1. 原告以外にも在室者がいた中で原告のみが責めを負うべき問題であったかは判然としない部分もあるし、被告が主張するように、原告が特定の地区本部や支部の電話を意図的に無視するなどしていたとまでは具体的に認め難く、同様の問題がその後も繰り返されたなどの事情も認められない本件において、これを理由に原告の「勤務状況が著しく不良」であるとまではいえない。
  2. 原告が霞が関でのチラシ配布行動があることを失念し欠席したことがあったと認められるものの、その後、同様の問題が繰り返されたとまでは認め難い。
  3. a労組の中央本部である被告から、被告主催行事に引率者として参加する以上、参加者たる組合員相互の交流を図ったり、懇親会を取り仕切ったりして、組合運動を取りまとめ、推進していく能動的な活動が期待されることは確かであるが、こうした役割は、雇用契約に基づき指示された業務そのものというよりは、組合運動への取組みの問題という側面も強く、その全てを雇用契約上の勤務不良として捉えることは躊躇される。なお、この点が明確に業務として行うべきものであるなら、被告においてその旨を原告に指導し、業務の改善を求めるべきであるが、そのような指導がなされた経緯も具体的にはうかがわれない。

普通解雇無効

<strong>弁護士 呉 裕麻</strong>
弁護士 呉 裕麻

労働組合の専従職員に対し、業務命令違反を理由として解雇され、後に争われた事案です。

複数の業務命令違反が主張されましたが、業務命令違反の程度の問題や、そもそも雇用契約上の業務といえるかなどの観点から解雇無効の結論に至りました。

業務命令違反を根拠として処分をするに際しては、この事案のように、そもそも当該業務命令が当該従業員の雇用契約上の業務といえるかについても注意が必要です。

■ 平成30年4月13日東京地裁判決

  • 事案の概要
  • 裁判で争われた内容
  • 問題となった業務命令
  • 当該業務命令違反についての判断
  • 裁判の結論

業務命令違反等を理由に懲戒解雇された原告が、被告会社に対し、懲戒解雇は無効であると主張した事案。

懲戒解雇の有効性

  1. 被告は、原告に、被告の業務に専念し、a社に臨店するのは控え、臨店時には事前の承諾を得るようにする旨の業務命令を行った。
  2. 被告は、原告に、a社への臨店を認めるにあたり、〇月〇日には帰京するよう業務命令を行い、また、同日にも原告に対して同日中に帰京するよう業務命令を行った。
  3. 被告は、原告に、C社長を批判するような言動を行わないよう業務命令を行った。
  1. 原告は、a社の計画策定に関して1週間もの期間a社に臨店する旨の連絡を行ったり、a社の翌期の計画及び業務体制の説明とシステムの変更への対応を行うためにa社に臨店する旨の連絡を行うなど、翌期に原告がa社の運営に関与することを前提としてa社への頻回の臨店を行う旨を被告に連絡し、実際に臨店をしているのであって、被告が主張するような業務命令が行われていたとすれば原告がとったであろう行動としては不自然であると言わざるを得ない。被告とすれば問題行動と認識するであろう原告の行動について、指導等を行ったことを窺わせるようなメール等のやりとりはほとんど存在していないのであって、業務命令が存在するとすれば不自然な対応であり、被告が業務命令を行ったことを認めるに足りる適切な証拠はなく、業務命令が存在したと判断することはできない。
  2. 原告が被告に対して〇月〇日には帰京しない旨の連絡をした後も、被告は、原告に対して、業務命令違反であるとの指摘を行っておらず、原告とB専務との間で、これとは関係のない内容のメールのやりとりを行うなどしているのであって、このような対応は、上記業務命令が存在するとすれば不自然な対応であり、被告が業務命令を行ったことを認めるに足りる適切な証拠はなく、業務命令が存在したと判断することはできない。
  3. 原告がミーティングの翌日に上司に送ったメールに対して、被告としては、業務命令の趣旨、目的を含めて原告に釘を刺す等の対応をとってもおかしくないところ、そのような対応は何ら行われていない。被告が上記業務命令を行ったことを認めるに足りる適切な証拠はない。

懲戒解雇無効

<strong>弁護士 呉 裕麻</strong>
弁護士 呉 裕麻

本件は、原告が被告からの業務命令に違反をしたとして懲戒解雇された事案です。

ところが、裁判では、懲戒解雇の根拠となる業務命令の存在自体がことごとく否定されています。

その結果、懲戒事由も肯定されず、懲戒解雇は無効とされてしまいました。

この事案からは、解雇の前提となる業務命令の存在と内容を如何にきちんと形に残すことの大切さが分かります。

■ 平成27年10月28日東京地裁判決

  • 事案の概要
  • 裁判で争われた内容
  • 問題となった業務命令
  • 当該業務命令違反についての判断
  • 裁判の結論

被告のマーケティング本部パートナーセールス部で就労していた原告が、被告から不当に解雇(本採用拒否)されたとして、地位確認及び解雇後の賃金の支払を求めた事案。

解雇の有効性等

被告は、被告の扱う5商品について、原告に社内デモ等を行わせるよう指示した。

また、事業計画を発表する会議において事業計画を発表するよう指示した。

しかし原告は、「bシリーズ」以外の被告商品についての知識・情報が不足しており、指導・教育を受ける機会もないまま、2週間で社内デモ等を実施しても被告が求める水準に達した内容のデモ等を行うのは困難であること、これまでの売上額等からすれば、過去に作られた売上目標を達成するような事業計画を策定・発表することは不可能であることなどを述べた。

上記のような意見を述べて本件業務命令を拒否する意向を示したからといって、即解雇に相当する重大な業務命令違反に当たるとは認め難い。

原告が本件業務命令を拒否したい理由として、上記意見を述べたのであるから、上司としては、原告が述べる理由が不当であったり、誤解があったりすると考えるのであれば、まずは本件業務命令の趣旨を説明するなどして、原告の誤りを指摘・指導し、その理解が得られるよう努めるべきであったといえる。

解雇無効

<strong>弁護士 呉 裕麻</strong>
弁護士 呉 裕麻

本件は、業務命令に対して、従業員からこれを拒否するに足る正当な理由が示されていた事案です。

裁判所は、拒否の理由が正当であるとして、本件解雇を無効と判断しました。

会社としては、業務命令に従わない従業員に対しては、どのような理由からこれに従わないのか、理由を明確にし、確認をしておくことが大切です。

■ 平成28年2月4日東京地裁判決

  • 事案の概要
  • 裁判で争われた内容
  • 問題となった業務命令
  • 当該業務命令違反についての判断
  • 裁判の結論

被告に雇用されていた原告が、被告による解雇は権利の濫用として無効であると主張し、労働契約上の地位の確認を求めるとともに、解雇後の賃金、賞与等の支払を求めた事案。

解雇の有効性等

  1. 原告が上司の発言を曲解して、b社の担当を外れてよいとの承諾を得たと広く吹聴し、上司、同僚及び部下に対してb社の仕事はもうやらないとの発言を繰り返した。また、上司であるCやEとのミーティングにおいて、同人らに対し、繰り返しb社の仕事をやりたくないことやb社の担当交代の時期を早めてほしいこと等の要望を述べるとともに、b社の業務が大変な状況にあることを訴えた。
  2. 原告が組織改編の案に対する不満を感情的に訴え、合理的な理由なく不服を露わにし、被告の指示に従わない姿勢を明らかにした。
  3. 原告が、新組織に移行する際の引継ぎに関し、担当を外れるプロジェクトは一切やらない等と述べて合理的な理由なく引継ぎの業務を拒否したり、担当を指示していたプロジェクトから降りる旨を述べたり、組織改編への不満を繰り返し述べるとともに顧客から委託される業務を独自の判断で拒否する姿勢を示した。

①原告が従業員に対してb社の担当から外れる旨を打ち明けたことそれ自体をもって、解雇事由として取り上げるほどに不適切な行為であったとは解し難い。

原告は、b社の担当を早く外してほしい旨の要望を繰り返し述べつつも、b社の業務の遂行を拒否することはなく、与えられた業務は全てこなしていたのであるから、原告が繰り返し要望を述べたことそれ自体を捉えて、原告がC及びEの指示・命令に背いたとか、原告が業務遂行を拒否し続けたなどと評価することもできない。

いずれもミーティングにおける発言であり、原告がところ構わず声高に要望を述べ続けたというものではないから、このことをもって、解雇事由として取り上げるほどに不適切な行為であったとまでは評価できないというべきである。

②原告が、不服を露わにしたということそれ自体が解雇事由に当たるということもできない。

原告は、これまで半年以上にわたって長時間労働を余儀なくされ、b社の業務が大変な状況にあることを訴えてきてもいたから、組織改編によって業務負担が軽減されるとの期待を抱いていたであろうことは容易に推認することができるところ、新しいチームの構成を見て、これではb社の業務をこなすことができないだろうと考え、大いに落胆したものと解される。

原告は本件組織改編に対する不満を述べたことが認められるが、原告が顧客から委託される業務を独自の判断で拒否する姿勢を示したと評価できるような発言をしたとは認めるに足りず、原告が不満を述べたことそれ自体が解雇の理由になるということもできない。

③原告は結局のところ案件を担当することに同意し、実際に業務を行っているのであり、原告が業務を拒否したということにはできない。

原告は、合理的な理由で上司に意見を述べたにすぎないというべきであるから、原告が上記意見を述べたことそれ自体が解雇の理由になると解することもできないし、原告が業務遂行を拒否したということはできない。

原告は、月平均97.8時間に及ぶ長時間の所定時間外労働を行っていたところ、本件組織改編後の同年9月も90.5時間の所定時間外労働を行っており、本件組織改編によって原告の就労環境が改善する兆しがあったとは認められないから、原告において、業務負担の大きいb社の担当から外れたいと考えたとしても無理からぬところであり、上司にその旨を強く要望したとしても原告を責めることはできない。

したがって、原告の発言が解雇の理由になるということはできない。

解雇無効

<strong>弁護士 呉 裕麻</strong>
弁護士 呉 裕麻

本件は、業務命令に対する要望、不服を繰り返し述べたことなどを理由に業務命令違反とされました。

しかし、原告は要望等を述べるなどしつつも、指示された業務事態は行っていたケースであり、従って要望を述べるなどすることから解雇事由が認められるものではないとされたものです。

会社としては、業務命令に対して要望、不服を述べる従業員の態度に不満があったとしても、ここはいったん落ち着いて当該業務事態をきちんとこなしているかどうかを中心に、その後の対応を検討することが大切だと言える事案です。

■ 平成24年10月3日東京地裁立川支部判決

  • 事案の概要
  • 裁判で争われた内容
  • 問題となった業務命令
  • 当該業務命令違反についての判断
  • 裁判の結論

原告らが、被告学園らによる立ち番の指示は、指揮命令権の違法な行使ないし濫用であり、人格権及び団結権を侵害する共同不法行為に当たるとして、被告らに対し、損害賠償を求めた事案。

損害賠償請求

被告学園ないし同理事長である被告が元教員である原告らに対し立ち番(交通立ち番、行事立ち番)の指示を行った。

①交通立ち番は、平日については授業時間帯及び授業終了後が実施時間とされていたこと、授業終了後の立ち番は、下校開始時間午後3時10分を過ぎた午後3時30分に開始するもので、生徒の多くはすでに通学路にいない状況での立ち番となるものであったこと、年度の授業が全て終了した生徒自宅学習期間や土曜日などの不登校日にも立ち番が実施されていたこと、原告らの交通立ち番実施中に生徒に会う機会はほとんどなかったこと、本件立ち番の実施場所は、風雨を避けたり休憩を取れるような場所ではなかったこと、地点によっては近くにトイレもないこと、立ち番の実施中に住民等から不審に思われる場合もあったことが認められている。

また、交通立ち番に1回従事すると、立ち番地点への往復と立ち番実施で授業1コマ分のほぼ50分を費やすことになり、教材や配布物の作成、テストの採点、提出物の添削等、授業の合間に行うべき業務の遂行に支障をきたしていた。

②行事立ち番の実施時間は概ね当該行事の開催時間と重複し、体験学習の一部及び学校説明会等の一部を除き、当該行事の開催中、昼の休憩時間を除いて断続的に立ち番を実施するものとされており、立ち番が長時間となっていたこと、行事立ち番に従事した教員は、入学式、体育祭、文化祭、学校見学会、体験学習及び入試の運営に全く参加できず、生徒の支援、卒業生や中学生など学校訪問者との交流の機会も持てなかったことが認められている。

①交通立ち番実施当時、生徒の通行の集中が解消した時間帯にまで、教員が通学路上で登下校指導を行うべき格別の事情があったとはいえない。

生徒の多くはすでに通学路にいない状況での立ち番となるものであったこと、年度の授業が全て終了した生徒自宅学習期間や土曜日などの不登校日にも立ち番が実施されていたこと、原告らの交通立ち番実施中に指導の機会はほとんどなかったことを総合すると、登下校の際のマナー指導及び安全指導という目的に照らし、合理的とはいい難い。

②行事立ち番について、行事当日に通学路において道案内や安全確保のための立ち番を殊更行う必要性があるとはいえないし、立ち番の実施時間も、当該行事の開催されている時間帯であって、道案内及び安全確保として合理的ともいい難い。

③本件立ち番は、その必要性や合理性に乏しく、原告ら教員に、肉体的負担と精神的苦痛を課してまで業務命令として実施すべき理由に乏しい上、それが原告らに対し、管理職との均衡を著しく欠いて集中して割り当てられていることについて、それを公平であると認めるべき事情もない。

原告らから教育の出発地点というべき生徒とのコミュニケーションの機会、業務遂行を通じての自己研さんの機会その他教師の職責を果たす重要な機会を奪い、適切な処遇を受ける地位をも失わせるなど、原告らの教師としての誇り、名誉、情熱を大きく傷つけるとともに、組合員である原告らを不利益に取扱い、かつ、原告らの団結権及び組合活動を侵害するものであって、労働契約に基づく指揮監督権の著しい逸脱・濫用に当たる違法なもの。

被告らの賠償責任を認める

<strong>弁護士 呉 裕麻</strong>
弁護士 呉 裕麻

本件は、業務上の必要性に乏しく、かつ負担の大きい業務を被告らが原告らに過度に押し付けるようなやり方で業務命令がなされた事案です。

裁判では、これら各業務についてその内容や負担を詳細に検討し、業務上の必要性が乏しいことや、本来の業務との関係性や負担の程度を検討し、違法行為と認めました

この事案で分かることは、使用者の立場で何でもかんでも業務命令と称して労働者に課すことにはリスクが伴うということです。

■ 平成19年7月26日大阪地裁判決

  • 事案の概要
  • 裁判で争われた内容
  • 問題となった業務命令
  • 当該業務命令違反についての判断
  • 裁判の結論

上司の度重なる注意・命令にもかかわらず、残業を拒否した原告に対する解雇を有効とした事例。

解雇の有効性

原告は、上司であるC部長から、本件調査業務においてペアを組んでいるBの作業に協力して残業するよう指示を受けたにもかかわらず、これに従わなかった。

その具体的内容は、原告の分担する作業が終了した後、Bの図面作成が終了していない場合は、その作業を手伝い、調査報告書を完成してから帰宅するようにという指示であった。

原告としては、早期の帰宅を望み、それに向けた努力をしていたことが窺えるが、一方で、C部長の指示する職務の分担を受け入れようとはせず、同部長の度重なる注意にもかかわらず、Bへの協力をほとんど拒否し続け、Bに対して残業を押しつけたという事実に照らすと、被告会社としては、原告を雇用し続けることはできないと考えたことには一定の合理性を認めざるを得ず、本件解雇には、合理的な理由があり、社会通念上も相当ということができ、解雇権の濫用にあたるとはいえない。

解雇有効

<strong>弁護士 呉 裕麻</strong>
弁護士 呉 裕麻

この事案では、腰痛を理由として残業をしたくない原告に対する業務命令の有効性が争われました。

裁判所は、腰痛があるとしても当該業務を行うことの当否を判断し、結果的にはこれを拒否することに正当な理由はないとしました。

5 業務命令違反に対する懲戒処分・解雇の進め方

特定の従業員に関し、会社ないし上司からの業務命令違反が問題になり始めた際には、その処遇を巡って早めに対策をとるべきと言えます。

そのためにはまず、改めて業務命令を明確にすること、次にこれに従わない理由について本人から事情を聴取すること、その上で従わない理由のうち、会社で改善が可能なことは改善をすること、続いて改めて業務命令を出すこと、それでも従わない場合には軽い方から懲戒処分を付すこと、その懲戒処分の上でも業務命令に従わない場合には順次、次の懲戒処分を付すこと、できれば退職勧奨も試みること、それでもうまくいかない場合に限り、最終的に普通解雇にすることとなります。

非常に段階を多く踏む必要があるので大変だとは思いますが、直ちに普通解雇にしてしまって、その後に延々と労働審判や労働裁判で争われるよりも、結果的には会社の被る損失は小さくて済む事が大半です。

したがって、業務命令に従わない従業員の態度には一旦我慢し早急に最終的な解雇に向けての準備を進めるようにしてください。

6 業務命令違反について弁護士に相談するメリット

以上のように、業務命令違反を理由とした解雇には、いくつものハードルがあります。

いくら会社として従業員の業務命令違反に納得できなかったとしても、後に争われ、敗訴してしまえば元も子もありません。

そうならないためには、業務命令違反を認識した段階から早期に弁護士に相談をする事です

そうすることで段階に応じた適切な対応が可能となり、無駄なストレスなく当該従業員に対して適切な対応が可能となります。

後に不意に争われて敗訴するリスクを低減することも可能です。

当事務所では、従業員の人事・労務問題に関し、このコラムでご紹介したような業務命令違反にお悩みの経営者の方に、以下のような対応が可能です。

当事務所にご依頼いただいた場合の費用例

個別の法律相談をご希望の場合

ご相談料(30分あたり):11,000円

会社が置かれた状況を前提に、従業員に具体的にどのような方法、内容での業務命令が可能か、仮にこれに違反した場合にはどのような方法、内容での処分等が可能かを個別具体的に詳しく解説が可能です。

また、従業員の解雇を具体的にご検討の際には、解雇に向けての対応全般を継続的に助言し、従業員との面談や、処分に向けての助言を行う事が可能です。

この場合にかかる費用

・着手金:198,000円

・報酬: 198,000円(解雇まで実現した際)

さらに、解雇を巡り後に法的紛争に至った際の対応も可能です。

法的紛争になった場合にかかる費用

・労働審判の着手金:308,000円

・訴訟の着手金  :385,000円

以上の個別の相談、受任対応とは別に、継続的な顧問契約の締結があれば、ライトプランを含めて解雇を巡る相談ということで日々生じる業務命令違反への個別の相談が可能です。

業務命令やこれに対する違反は日々生じる問題であること、いったん生じると退職に向けて長く対応が必要になることからすると、労働問題に詳しい弁護士と顧問契約を交わして置くことはとても有効と言えます。

つきましては業務命令違反による解雇を視野に、企業法務の実績ある弁護士へのご相談をご検討の際にはいつでも相談が可能で、継続性の高い顧問契約の締結をご検討頂けたらと思います。


この記事を書いた弁護士
代表弁護士 呉 裕麻(おー ゆうま)

出身:東京  出身大学:早稲田大学
労使問題を始めとして、契約書の作成やチェック、債権回収、著作権管理、クレーマー対応、誹謗中傷対策などについて、使用者側の立場から具体的な助言や対応が可能。

常に冷静で迅速、的確なアドバイスが評判。
信条は、「心は熱く、仕事はクールに。」

*近場、遠方を問わずZOOM相談希望の方はご遠慮なくお申し出ください。


執筆者:弁護士 呉裕麻(おー ゆうま)

1979年 東京都生まれ

2002年 早稲田大学法学部卒業

2006年 司法試験合格

2008年 岡山弁護士会に登録

2013年 岡山県倉敷市に岡山中庄架け橋法律事務所開所

2015年 弁護士法人に組織変更

2022年 弁護士法人岡山香川架け橋法律事務所に商号変更

2022年 香川県高松市に香川オフィスを開所

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