スーパーの床に落ちていた総菜の天ぷらを踏んで転び、けがをしたとして、東京都練馬区の男性(35)がスーパー大手サミット(東京)に約140万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は8日、安全管理を怠ったと認め、約57万円の支払いを命じた。
2020年12月8日 19時59分 (共同通信)
スーパーの買い物客が、レジ付近に落ちていたカボチャの天ぷらを踏んで転倒し、膝の靭帯を損傷したことの賠償をスーパーに求めた裁判で、客が勝訴しました。
本件では、床に天ぷらが落ちていること、それに注意を払ってスーパー側が掃除などするべきだったのに怠ったことからスーパーの注意義務違反を認めたものです。スーパーには様々な食品を扱っていること、多くの来客があること、天ぷらが落ちることもあり得ることといった事情に照らしての判断だと思います。
ただし、客側の過失相殺を認め、請求額を減額しているようです。客としても、スーパー店内を歩く際に一定程度の注意を払うべきとされたものです。
本件に類似の事案として、岡山県内のスーパー店内でアイスクリームが落ちていたのに気が付かず踏んで転倒した客が起こした裁判があります。この事例でもスーパー側の過失が認められ、客の損害賠償が認められました。この事案では後遺障害12級7号相当の後遺障害も残存し、非常に高額な賠償金となっています。
◆ショッピングセンターの運営等を目的とする被告の店舗に客として訪れた原告が、アイスクリーム売場前通路上で足を滑らせて転倒し大腿骨骨折等の重傷を負ったとして、被告に対し、不法行為又は工作物責任に基づく損害賠償を求めた事案において、本件で原告が転倒したのは、本件通路上に落ちていたアイスクリームに足を滑らせたことによるものと推認できるところ、被告には、本件通路の床面にアイスクリームが落下した状況が生じないようにすべき義務を怠った過失があるとして、被告の不法行為責任を認める一方、原告にも、本件通路の歩行に当たり、足元への注意を払わなかった過失があったなどとして、原告の過失割合を2割とする過失相殺を行った上で、原告には、本件事故に基づく障害等級12級7号該当の後遺障害が残存したと認められるなどとして、請求を一部認容した事例
出典 判時2196号99頁、ウェストロー・ジャパン
出典 判時2196号99頁、ウェストロー・ジャパン
スーパーからすれば、かかる二つの事例に照らし、これまで以上に店舗運営上の注意が必要といえます。
なお、スーパー運営側としてかかる事故を防止するために具体的に何が重要かですが、言わずもがなまずは徹底した清掃や従業員教育(カボチャの天ぷらの事件では、レジ付近に落ちていたとのことですが、そうなるとレジの担当者に日ごろからレジ打ちに限らず、周辺の清掃や整理整頓への意識付けが重要)が大切です。また、たかが天ぷら、されどアイスクリームと考えず、踏んで転倒することがどのような事故や損害につながるかなど本件の上記事例を店長を始めとしたスタッフに知ってもらう事も大切です(これもまた従業員教育に他なりません。)。
その上で万が一の事故の際には、顧客に対する誠心誠意の謝罪(仮に謝罪をしたとしても、それ自体は損害賠償義務を認めることとは別なので、事故後ただちに謝罪をしてもらって構いません。)と賠償責任の有無の調査や可否の検討です。ここでの対応を間違えると、示談で早期に解決可能な事例をこじらせて裁判に発展させ、高額な賠償に至ることもあり得ます(推測ですが、上記の二つの事例ではこれらの対応に何らかの落ち度があったのではないかと思います。)。
当然のことながら、事故の対応に際して、逐一、弁護士に助言を求めることも非常に有効です。弁護士自身に交渉の窓口に立ってもらわなくとも、話し合いの進め方や謝罪の仕方などを巡り、重要かつ有益な助言が可能です。