1 日本における労働組合、団体交渉の位置付けとは?
1.労働者の権利と労働組合について
日本の憲法では第28条において、勤労者(労働者)の団結権及び団体交渉権、その他の団体行動をする権利を保障しています。
これを受け、労働組合法及び労働関係調整法が規定されています。
そして、労働組合法ではその目的を以下のとおり定め、労働者が使用者と対等な立場に立つことの促進、これにより労働者の地位を向上させること、労働組合を組織すること、団体交渉をすることなどとしています。
第一条 この法律は、労働者が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進することにより労働者の地位を向上させること、労働者がその労働条件について交渉するために自ら代表者を選出することその他の団体行動を行うために自主的に労働組合を組織し、団結することを擁護すること並びに使用者と労働者との関係を規制する労働協約を締結するための団体交渉をすること及びその手続を助成することを目的とする。
2.労働組合による団体交渉について
そして、労働組合法により組織された労働組合の代表者等は、労働組合またはっ組合員のために労働協約の締結その他の事項に関して交渉をする権限を有することとなります(労働組合法6条)。
これがいわゆる労働組合による団体交渉です。
労働組合は、これに加入した労働者からの訴えを受けて、会社に対して労働条件その他の事項に関し、その改善等を求めて交渉を持ちかけてくるのです。
この労働組合は、決して会社の従業員のみによって構成されている必要はないことから、今現時点で会社の従業員による労働組合が存在しなくても、外部の労働組合に加入し、団体交渉を持ち掛けてくることは良くあることです。
3.不当労働行為とは何か?
以上のような労働組合の位置付けに照らし、労働組合法では、使用者による以下の行為を「不当労働行為」と定め、禁止しています(労働組合法7条)。
- 労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入したこと、労働組合を結成しようとしたこと、労働組合の正当な行為をしたことにより労働者を解雇したり不利益取扱いをすること(1号)
- 労働者が労働組合に加入しないこと、脱退することを雇用の条件とすること(1号)
- 団体交渉を正当な理由がなく拒むこと(団交拒否・2号)
- 労働者が労働組合を結成し、運営することを支配もしくは介入すること(3号)
- 労働者が労働委員会に対し、不当労働行為を理由とした申し立てをしたことを理由として労働者を解雇したり、不利益な取り扱いをすること(4号)
これら不当労働行為については、労働者から労働委員会にも申し立てをすることで労働委員会による調査が開始されます(労働契約法27条1項)。
そして、調査の結果、労働者の請求にかかる救済について理由があれば救済命令を発することとなります(労働組合法27条の12第1項)。
この救済命令を受けた使用者は、遅滞なくその命令を履行する義務を負うこととなります(労働委員会規則45条1項)。
ただし、この命令に従わなかったとしても、直ちに罰則がある訳ではありません。あくまで救済命令の内容に対して裁判で争われた結果、これが判決で確定して初めて一年以下の禁錮もしくは100万円以下の罰金またはこれらの併科となるのいです(労働組合法28条)。
4.争議行為について
以上の団体交渉とは別に、労働組合法では労働者による同盟罷業その他の争議行為であって正当なものによる場合に、労働組合または組合員に対し賠償を請求することができないと定めています(労働組合法8条)。
これは労働者、労働組合による争議行為と呼ばれるもので、内容としては主に以下のものが挙げられます。
- 同盟罷業(いわゆるストライキ)
ストライキとは、労働者が企業に対して待遇改善などを求めて集団で労務の提供を拒否することです。
ストライキにも、その規模に応じ、全面スト(企業のすべての部門で実施するストライキ)、部分スト(企業の一部の部門で実施するストライキ)などがあります。
- 怠業(いわゆるサボタージュ)
サボタージュはストライキとは異なり、労務は提供するものの、その質や生産性を意図的に低下させる行為です。
以上の労働者ないし労働組合からの争議行為に対して、使用者が労働者側の要求等に対抗して行う争議行為が作業所閉鎖(ロックアウト)です。意図的に作業所を閉鎖することで労務を提供できないようにするのです。
これらの争議行為については、労働関係調整法において規定されています(労働関係調整法7条ほか)。
そして、争議行為が発生したときは、その当事者は直ちにその旨を労働委員会または都道府県知事に届け出なければならないとされています(労働関係調整法9条)。
いずれにしても冒頭で述べたとおり、労働者からの争議行為に対してはこれが正当なものである限り、企業、使用者はその損害賠償を求めることができないのです。
2 企業における労働組合対応、団体交渉対応とは?
1.団体交渉の申し入れに対する対応について
ある日突然、労働者のもしくは退職者の加入する労働組合から団体交渉の申入書が届くことがあります。
このような申入書を受け取った場合には、その内容に照らし、誠実な対応が求められます。
すなわち、上記のとおり、労働組合法では労働組合には企業との団体交渉権があること、これに応じないと不当労働行為と認定され、労働委員会への申し立てを経て救済命令の対象となりかねないことがあるのです。
したがって、労働組合からの団体交渉の申入書が届いた際には、絶対に団体交渉を拒否してはいけません。
ただ、労働組合からの団体交渉の申し入れに際し、日時の指定があったが、その都合が合わないという場合に日程調整を求めることは何ら問題はありません。
また、団体交渉に際して誰を同席させるかも会社において判断をすれば良く、弁護士を同席することも当然に許されます。
とはいえ、労働組合が求める要求事項に関し、何ら関わっていないとか、何ら権限がない者を団体交渉の担当に据え置くことは労使紛争の解決に繋がらず、団体交渉がいたずらに伸びるばかりなので避けるべきでしょう。
2.団体交渉における要求事項への対応について
労働組合からは、団体交渉申入書もしくはその他の書面、または団体交渉の場面いて様々な要求事項が示されることとなります。
では、労働組合には団体交渉を求める権利がある以上、これら要求事項にも応じる義務があるかというとそうではありません。
会社としては、あくまで団体交渉の場に応じること、協議に応じることの義務がある限りであり、要求事項に応じる法的な義務は一切ありません。
したがって、要求事項の一切を拒否することも許されます。
ただし、労働組合には、争議権があることから、要求事項に応じないとなると、今度は争議権の行使に打って出られることがあり得ます。
そして、正当な争議権の行使に対しては損害賠償を求めることができませんから、そうした損害を避けるためには一定の条件で団体交渉における要求事項に応じた方が企業としては得だとも言えるのです。
3.団体交渉の妥結点について
以上のように、企業には団体交渉に応じる義務はあるものの、要求事項に応じる義務はありません。
そのため、要求事項を一切拒否するのも一つですが、それでは労使関係はギクシャクするばかりです。
そこで、企業としては、労働者との間で折り合いのつく妥結点を見出し、条件闘争をまとめることも解決の一つです。
その際にはギリギリの条件闘争の中でどのような合意にするのか差し迫った判断が必要になります。
その妥結点を見出し少しでも有利な解決にするためには弁護士の力を借りるのも一つです。
3 団体交渉・労働組合対応を放置するリスク
以上のように、労働者、労働組合からの団体交渉や労働組合対応は、放置することは許されず、また間違えた対応をすると企業の生産性にも大きく影響を与えます。
他方で、妥当なラインでの合意ができれば労働者、労働組合との関係は良好なものとなり得ることから企業にとっても大きなプラスとなります。
その意味でも団体交渉、労働組合対応を放置することはリスクでしかありません。
4 弁護士による団体交渉・労働組合対応
労働問題に詳しい弁護士であれば、労働者、労働組合からの団体交渉、労働組合交渉に関し、以下のような対応が可能です。
- 届いた団体交渉申入書の内容を踏まえてどのようなスタンスで団体交渉に応じるべきかの具体的な方向性を示すことができる
- 団体交渉の場に同席をすることができる
- 提示された条件に対して最適な妥結点を見出すことができる
- 不当な要求に対しては断固として拒否することができる
5 弁護士に依頼するメリット
多くの企業では労働組合対応、団体交渉対応の経験がなく、不慣れであることが通常です。
ある日、突然届いた労働組合からの通知に対してどう対処すべきかがまったく分からないため、対応に遅れてしまったり、間違えた対応をしてしまったりということが多々あります。
そうなると労働組合との交渉もうまくいかず、感情的な対立が深まり、結果的に解決も遅れ、会社として大きな損害を被ることもあり得ます。
そうしたリスクを避けるためには、すぐに弁護士に相談すること、場合によっては依頼をすることをご検討ください。
企業の言い分をしっかりと受け止め、労働組合からの不当な要求に対しては断固として拒否することも可能です。
6 団体交渉・労働組合対応については弁護士にご相談ください
当事務所では、労務問題の経験を踏まえ、団体交渉、労働組合対応について企業の立場に立っての助言が可能です。当然、団体交渉や労働組合との個別交渉も代理が可能です。
負担の大きいこれら問題を弁護士に一任することで企業として本来あるべき事業に専念していただくことが可能です。
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この記事を書いた弁護士
代表弁護士 呉 裕麻(おー ゆうま)
出身:東京 出身大学:早稲田大学
労使問題を始めとして、契約書の作成やチェック、債権回収、著作権管理、クレーマー対応、誹謗中傷対策などについて、使用者側の立場から具体的な助言や対応が可能。
常に冷静で迅速、的確なアドバイスが評判。
信条は、「心は熱く、仕事はクールに。」
執筆者:弁護士 呉裕麻(おー ゆうま)
1979年 東京都生まれ
2002年 早稲田大学法学部卒業
2006年 司法試験合格
2008年 岡山弁護士会に登録
2013年 岡山県倉敷市に岡山中庄架け橋法律事務所開所
2015年 弁護士法人に組織変更
2022年 弁護士法人岡山香川架け橋法律事務所に商号変更
2022年 香川県高松市に香川オフィスを開所